第4話
1日跨いだ土曜日、俺は今いつも通りに机に向き合っている。
だが、いつもならペンを持ってカリカリとしているのだが今日はペンを持つだけでそのペン先が進むことは無い。
それは昨日のことがずっと頭の中に残って離れないからだ。
「私はロボットにすらなれていないのかもしれない。」
この言葉にはどんな意味があるのだろうか、気付けば直ぐにその事を考えてしまう。もちろん他にも気になることはあったりはする。
が、お腹がすいてきたため時計を見るともう既に11時を回っている。
俺が勉強を始めたのは9時なのでおよそ2時間はこうしてボーッとしていたと思うと、とても勿体なく思ってしまう。
すると、インターホンが鳴らされる。
それも何度も、押されるので少しイライラしながらドアを開ける。
「あの!何度も何度も何の····」
すると目の前にいるのはその顔をグシャグシャにして泣いている天使様だった。
「小鳥遊さん?どうしたの?」
「た、助けてください」
昨日の帰り際のやり取りがまるで嘘かのような顔で俺に、助けて欲しいと訴えかけてくる。
「どうしたんだよ」
「蜘蛛です!!」
「は?」
「だから!蜘蛛が出たんです!!」
あまりに必死に助けを求めるものだからそれはもっと大きな悩みかと少し身構えてしまったが、あまりにも拍子抜けだった。
「お願いです!退治してください!!」
「あのなぁ、昼の蜘蛛は殺しちゃダメなんだぞ?」
「何言ってるんですか!?そんなの人間のただの
狂言ですよ!!いいですか!?蜘蛛は蜘蛛なんですよ!」
「お、おう、てか狂言って··」
「そもそも!昼間の蜘蛛が残ってたらそのまま夜の蜘蛛になるんだから同じじゃないですか!?お願いですから助けてください!!」
「わかった、わかったから声のボリュームを下げて」
周りを見渡すと何事かとこちらを見渡す人がチラホラいる。
その人たちに頭をペコっとさげては俺は小鳥遊さんに背中を押されて部屋に連れ込まれる。
その中からはいい匂いがしてくる。
そして、蜘蛛がいるらしいリビングに入ると目に入ってくるのは強烈な存在感を持つ家具たちだった。
というのも色が全く統一されていないのだ。
そのせいで目の奥がチクチク刺激される。
だが、何とか耐えながらするべきことをする。
「それで?その蜘蛛はどこいるんだ?」
「そ、ソファの後ろに行きました」
そう言われて俺はソファを動かすとちっこい蜘蛛が飛び跳ねた。
「つ、潰さないで下さいよ?」
「ん?なんでだよ、嫌なんじゃないのか?」
「嫌だからですよ!!潰れた物を誰が掃除すると思ってるんですか!?」
「あぁ、そういう事ね」
そう言われて近くにあったティッシュを取るとヒョイッと包んで外に出す。
「これでいいか?」
「はぁ、本当にありがとうございます。あ、私トイレ行ってきます」
そう言うと彼女はトイレに行ってしまう。
あれ?俺はどうすればいいの?帰ればいいの?
答えが分からないままもう一度部屋を見渡す。
家具が変なとこ以外はちゃんとキレイに掃除されてるんだな。
そんな事を思っていると彼女が戻ってくる。
「?、そんなところで何つったってるんですか?座ったらどうですか?」
そう言って彼女は近くの青いイスを引くとどうぞと促す。
とりあえず座ると彼女がお茶を出してくれる。
「落ち着いたのか?」
「はい、もう大丈夫です。先程といい昨日といい本当にありがとうございます」
「いや、気にしなくていいよ」
「私が気にするんですよ。あ、そうだ秋山さん、もうお昼は食べました?」
「まだだけど?」
俺がそう答えると彼女は手をパンっと叩いて言う。
「なら、私が作ってあげますよ!」
「え、いやいいよ。そんなことしてくれなくても」
「私がしたいんです。それとも迷惑ですか?」
「いや、迷惑では···」
最近では一応、もう少し栄養を気にしようかな、などと思いつつカップラーメンを食べていたので作ってくれるのならありがたいので、結局作ってもらうことになった。
「秋山さんって嫌いな食べ物とかアレルギーはありますか?」
「アレルギーはないけどトマトは嫌いかな、まぁ、ケチャップなら行けるんだけどね」
「あーそれなら私と同じですね!私もトマトはダメなんですよ。あのプルっとした見た目で中に入れるとグジュグジュした感じがダメで···」
「わかるわかる、」
そうなのだ、あの感触はいつになっても平気になる気がしない。
こうして、普通の会話をして料理の完成を待っていた。
そうして出てきたのはオムライスだった。
「おぉー美味そう」
「それは良かったです」
「いただきます」
「はい、いただきます」
そうして1口食べた瞬間に異変に気づく。
何と卵の下にあったのはご飯やチキンなどを混ぜ合わせただけのものだ。
要するにあれがない。
しかし彼女の方を見ると普通に食べている。
「ねぇ、そう言えば小鳥遊さんってケチャップは食べれるの?」
そう、このオムライスのようなものにはケチャップがない。
これではオムライスと言えるのかどうか···
しかし彼女は至極当然のように答える
「平気ですよ?トマトの感触がダメなだけなので」
そ、そう。
じゃあこれは彼女の家でのレシピなのか?
「ちなみにケチャップ貰っていい?」
「?、家にケチャップはありませんよ?」
··········は?
え、そういう家庭?ってあるの?
「逆にあるんですか?」
「そんなの、あたりま····」
いや、待てよ。
俺の家に調味料ってあったか?
思い浮かぶのは大量のカップラーメン達だ。
「あ、確かにないかも」
「でしょ?」
「いやいや、俺がおかしいだけで普通はあるから」
「珍しいですね。自分をおかしいという人なんて初めて見ましたよ」
う、うるせぇやい
でもこれだけはわかる。
彼女はどこかおかしい。
とはいえ、出されたものを残すのも少し心が痛むため、何とか食べきる。
別に腐っていて食べれないとかではなかったが、やはり変な感じしかしなかった。
そして、その後はしばらく雑談をしていたが、俺としてはどうしても聞きたいことがあった。
「なぁ、昨日のロボットがうんぬんって話はどういうことなんだ?」
「秋山さんには、関係の無いことですよ」
やはり、昨日と同じように突っぱねられてしまう。
だが、昨日と違うのは彼女の目がまだいつも通りだということだった。
だから、俺は他の質問をしてみる。
「なぁ、小鳥遊さんの中学には小鳥遊さんのことを理解しようとしてくれた人はいないのか?」
「いましたよ?でもそういう人って大体嘘っぱちですよ」
「そんなことはないだろ、」
「あるんですよ。そもそも生き物は自分以外の生き物を本当の意味で理解することなんて無理なんですよ。結局皆、理解したつもりで同情をする。そして、そんな同情をしてあげてる自分が可愛いだけですよ。皆、そうなんです。私も、あなたも」
彼女はどこか暗い顔でそう言う。
「そう言うもの?」
「そういうものですよ、それにたまに聞きません?女の子は自分を好きな人をある程度わかってるって」
「聞いたことあるような、ないような···」
「同じですよ、自分に向けられる奇異な目や憐れむような目、そういうのって本人は意外とわかってるものですよ。
例えば秋山さんが今日お昼ご飯を食べている時に私のことを変わってるという目で見ましたよね?」
そう言われて俺はまさかバレていたのかと思い素直に謝る。
「ごめんなさい」
「良いんですよ、別に、ケチャップを入れなかったのはわざとですから」
「は?」
「ごめんなさい、少し秋山さんを試したくて···あ、ちなみにケチャップはありますからね?一応ですけど」
一応ってなんだよと思いながらそこは突っ込まないでおく。
「試す?」
「はい、あ、でも蜘蛛が苦手なのは本当ですよ?試そうと思ったのもトイレに行ってる時ですし···」
そこも聞いてないよ···
「それで?何を試したの?」
「秋山さん、変わってると思いながらも最後まで食べてくれましたよね?」
「あぁまぁうん」
残すのも悪いしね···
「嬉しかったですよ!」
その言葉にどれだけの思いが乗っかっているのかは彼女の言う通り、アルビノでない俺には想像することすらできない。
ましてやその苦労を本当の意味で理解し、分かち合うことなどできやしないんだろう。
でも、やっぱり彼女が笑う時は天使のように綺麗だと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます