第3話
「なぁ、自称天才の小鳥遊さんや、俺はあなたの家を知らないから送るって言ってもついて行くしかないんですよ」
「········」
「あの、自称天才さん?」
「はい、私は自称天才の小鳥遊さんです····」
「聞きたいのはそれじゃないんだよ、」
「じゃあ何ですか?自称天才の私にははっきり言ってくれないとわからなかったりもするんですよ···」
「じゃあ聞くけどさ、ここって学校だよな?」
そう、送って行ってと頼まれついてきたはいいがそうしてたどり着いたのは俺たちの学校、北条高校だった。
「そうですね···そんな事も忘れてしまったんですか?」
「ねぇ、小鳥遊さん。自分の家って分かってます?」
「そ、そんなの小学生でも分かりますよ」
「普通、そうだよね?」
そう言って俺は彼女の方を見る。
すると彼女は思いっきり目を背ける。
その拍子に何かが落ちたのでそれを拾ってみる。
「色彩表?」
「あ!それはダメです!返してください!!」
「わかったから、押すなって。てかそれって何に使うんだ?」
「内緒です!」
その必死さに思わずたじろいでしまう。
「そ、そう。なら聞かないよ。というかそろそろ離して?」
流石に体勢的にキツイ。
体的にも世間体的にもキツイのだ。
もしこれを誰かに見られてしまったら···
「あれ?秋山くんに白愛ちゃん。こんなとこで何イチャついてんの?」
「「イチャついてません!!」」
「お、おう。それで、2人は何を?デート?」
この人の頭の中にはそんぐらいしかレパートリーがないのか?
「小鳥遊さんを送ってあげてたんですよ」
「でなんで学校に?」
そりゃそうなりますよね···
俺にも分かりません
「あ!てか秋山くんさぁ仕事はどうなったの?確かに頼んだよね?」
「半ば強引にですけどね」
「それで?どうなったの?」
「本人に聞いたらどうですか?」
「え!」
急に話を振られたからか小鳥遊さんは驚いた声を出す。
いや、さっきからあなたの話をしてたんだから話振られて当然でしょうに···
「それもそうね、で?白愛ちゃんどうなの?」
「も、もう少し時間を下さい」
「はぁ、まぁいいよ。この土日の間にじっくり考えて来てね」
「はい、ありがとうございます」
「んじゃ、気をつけて帰りなよ。いくら男子がいるからって危ない時は危ないんだからね?」
「あ、そだ先生!」
「ん?」
「こいつの家ってどこなんですか?」
「··············え?」
なんですかその大量の言いたいことを詰め込んだような間は。
「あれ、君たち知らないの?」
「何をですか?」
「君達ってお隣さんでしょ?」
「「へ?」」
ダメだ、脳の処理が追いついていない。
確か俺のお隣さんは竹林さんって人と小鳥遊さんって人だったはず····
「「あ、」」
同じようなことを思ったのだろうか偶然にも声が重なる。
「いやーそんなことあるんだね、君達ちゃんと近所付き合いできてるの?」
「「グッ」」
「まぁいいや、何かあったら先生に言ってね、生徒の悩みに乗るのが先生なんだから」
そして、先生はそのまま歩いて駅の方まで行ってしまった。
それからしばらくは沈黙が流れる。
「帰ろっか···」
「そうですね····」
そうして歩いていると、段々と辺りも暗くなってくる。
そしてそれは点滅信号に差し掛かったところで起こった。
「っ!危ない!」
「きゃ!?」
小鳥遊さんが通ろうとした場所には速度が乗ったバイクが走り去る。
「危ないだろ!?こっちが赤なんだからもっと注意しろよ!」
「ご、ごめんなさい。本当にごめんなさい···」
強く言いすぎてしまったのか小鳥遊さんは少し泣いていた。
その涙を見て、俺もすぐに冷静に戻る。
「いや、俺も悪かった。言いすぎたよ。
気を付けてくれればいいから、」
「助けてくれてありがとうございました」
「それにしてもこの当たりって色が独特な家があって道も覚えやすいはずなんだけどな···」
「それは····」
彼女はまた口ごもってしまう。
とりあえず俺はマンションも、もうすぐそこだったので手を引いてマンションの下まで連れていく。
「はぁ、ついたぞ」
「ほ、ほんとに同じマンションなんですね···」
「そうだな、しかもお隣さんとは」
「世界って狭いですね。」
「ほんとにな」
そのまま俺たちはエレベーターに乗って5階のボタンを押す。
そして、俺は何とかして、この気まずい空気を和ませようと話題を探る。
「そう言えば小鳥遊さんって学校でのキャラと随分違うよね、」
「キャラ、ですか?」
「そう、だって俺、小鳥遊さんがそんなに喋る子だとは思わなかったから」
「別に話すことが嫌いという訳では無いですよ?ただ話す人がいないだけで」
「中学の同級生とかは?」
「あぁ、私って生まれはこの辺りじゃなくって北海道で、小中はそっちの学校に通ってたんですよ。
だから、中学で友達がいたとしても話す人はいませんよ」
「ん?いたとしても?」
思わずそう聞いてしまうと、個室であるはずのエレベーターに夜風が入り込んできたのではないかと思うほど場が冷えていく。
「その話、聞きたいですか?アルビノの美少女がわざわざこんな遠いところの高校を選んで1人で引っ越してきた理由」
それを聞いた瞬間、俺の目の前には地雷原が現れたように思えた。
だが、まだ踏み抜いていないのであれば何とかなる。
「大丈夫ですよ!遠慮しときます!」
そう、誠心誠意込めて回避する。
地雷原だってどこまでも続いている訳では無い。
いくら横に広がろうが終わりはある。
ここで1番しては行けないのが中途半端にすることだ。
まぁ遠回しに言ったが要するに女性は怖いので、機嫌を損ねないようにしようということだ。
「はぁ、ちなみに私ってクラスの人達からするとどういうキャラ何ですか?」
「んー、凍てつくロボット?」
言って気づく、あ、今注意を払ったばかりなのにうっかり地雷を踏んでしまったかもしれない。
やばい。
そう思って彼女を見てみるも彼女はどこか遠い目をしていた。
「ごめん、変なこと言った?」
「いえ、気にしてませんよ。ただ、少し····」
彼女がその言葉をいい切る前にエレベーターが到着したことを音で知らせてくる。
2人はそのままエレベーターを下りると自分たちの部屋の方へと向かっていく。
そして、俺は今の続きを聞くべきかを悩んでいた。
それは、その時の彼女の赤いルビーのような綺麗でキラキラしていたはずの瞳から光が抜け落ちているかのように感じたからだった。
勿論それは蛍光灯のせいかもしれない、だが、そう思わずにはいられなかった。
だから、彼女が部屋に入ってしまう前に聞く。
「なぁ」
「はい?」
彼女はスクールバッグの中からガサゴソと鍵を探しながらこちらを見る。
その瞳は、いつも通りで、綺麗な瞳だった。
「さっきの言葉の続きを教えてくれ」
「さっきの言葉?」
「俺が変なこと言ったか?と聞いた時に言ってた、ただ少しって···」
「あぁ、それですか。なら、その続きはこうですよ」
すると、先程と同じような瞳で彼女は俺を見る。
「ただ、少し、私はロボットにすらなれてはいないんでしょうねと思っただけですよ」
「それはどういう?」
「まぁ、気にしないでくださいよ」
「気にするなって言われても···」
俺がそう言うと彼女は鍵を取り出してドアを開けると溜息をつきながら言う。
「はぁ、貴方はまだ、船に乗ってないんですよね?なら、貴方が気にすることではありませんよ、それと、今日は本当にありがとうございました。この礼はいつかきっとしますから、船長」
彼女はそう残して自分の部屋へと入っていく。
今の俺にはその言葉の本当の意味を理解することなど出来ないんだろう。
きっとそれは、航海に出たこともない人間には結局、海の本当の恐ろしさなど分からないように····
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