第4話

バスの下りた先には、田園風景が広がっていた。畑の堆肥の香りが鼻に突きさしてくる。これも一つの風情なのだろうか。バスはもう遠くへ行っていた。あまり気にしていなかったが、バスには同乗者がいたらしい。一緒に降りた時顔が少し見えたのだが、30代ぐらいだろうか。陽気そうな男だった。


降りたのはいいが、行く当てもなく困っていたのでとりあえずその男の後をあたかも用事があるようについていくことにした。10分間歩き続けただろうか。ふと男は立ち止った。

「ここは、最後の贖罪の地なんですよ」

男は、振り向くことなく私に言ってきた。そのまま続ける。

「やはりね、難しいんですよ。人間ってのは。だから私がこうしていなきゃいけない。まあ、もう慣れたんですけどね、めんどくさいもんはめんどくさいですよね。」

ハハ、と乾いた笑いを含みながら話す内容は日本語ではあるのだが何を言いたいのかさっぱり分からなかあった。


また、男は歩き出した。良く分からない雑木林に差し掛かる。鉄道の音が遠くで響いた。何かで聞いたことあるような景色だと思った。また脈絡もなく男は話す。

「やはりね、間引きは必要なんです。でも間引きって難しいでしょう。将来立派に育つかもしれないものを間違って引っこ抜いてしまうかもしれない。この塩梅が何ともまた、めんどくさいですよね。」

どうやらめんどいが口癖なのだろうか。雑木林に差し掛かった時にこの話をするのだから、おおよそ林業を営んでいるのだろう。木と戯れる機会が多い人なのだろう、先ほどの話も人間慣れしておらず、人と接するのはめんどくさいということなのかもしれない。


「ここはですね、不名誉ながらきさらぎ駅に似ているなんて言われますね。まあ、全くほんとは違うんですけど。」

また、こっちを見ることなく笑いながら話している。そうか、きたときの違和感はそれだったのか。一時期ネットをざわつかせた駅、きさらぎ駅。実在もしないがネットで書かれた描写はやけにリアルで、私の記憶に刷り込まれていた。見たこともないのに既視感を得てしまった原因が1つ分かり安堵していた。


まだ、男は歩き続ける。だんだんと、日差しが強くなっている気がする。おかしいな、雑木林で日差しは薄くなっているはずなんだが、頭がぼーっとしてきてキラキラと銀紙が降ってくるような感覚が頭に飛び込んででくる。ああ、また眠い。僕はまた同じ何かを繰り返すのだろうか。そんな思いとともに意識が切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る