第3話
また、バスの中だった。
しかし、さっきの少女はもう居ない。
アナウンスの代わりに、聞き覚えのあるスイングの曲が流れていた。
不思議と高揚感がある曲であったのだと思う。しかし、今は全く気分が上がらない。まあ、人間なんてそんなもんだ。流行に踊らされ、好きな曲なんてコロコロ変わるはずだ。
リュックは空のようだ。とても軽い。一応仲を開けてみようと思う。ファスナーが中にくい込んでいて、悪戦苦闘したが何とか開けることが出来た。からだと思っていたがよく分からないものが2つはいっていた。グシャグシャに丸められた紙。なぜだか分からないが、これがA4サイズの紙を、丸めたものなのだと瞬時にわかった。経験によるものなのだろうか。
良く分からない乱雑な文字が並んでいる。マックザナイフ名地あまり聞いたことない曲だった。下に尾更木と書かれた。この文章を書いた人の名前だろうか。
そしてもうひとつは、本だった。ただ、外は何かがべっとりと付いていて、表紙の文字を見ることも出来ない。そのべっとりしたものは本全体に拡がっていてページも所々くっついているみたいだった。なんだろう、近くにあるだけで落ち着くこの本は。今ならモルモン教徒の気持ちがわからんでもない。コレが近くにあるだけで、心の底から安心感が広がってくるのだった。これが経典と言うやつなのだろうか。
だんだんと、記憶が戻ってきたような感覚が戻る。何かを取材しに来たんだっけ?
ふと、頭痛が襲う。うたた寝してみていた夢。内容はさっぱり思い出さない。賑やかで綺麗な夢を見ていたような気がする。けど自分が何者かも分からないし結局ゴールも分からない。バスは、大きなカーブに差し掛かり、山道を登っていく。
しばらく景色を眺めていると、生々しい看板が並んでいた。「あなたは、誰かの家族」「寂しい人がいる」「相談して」など、心にもないお役所の言葉が沢山書かれていた。手入れのされていないことによる汚さが、この国の人それぞれを大事に思っていないことを如実に表しているような気もした。どうやら、身投げの名所なのだろう。
そんなゆうちょな思いを馳せていたら、バスは止まった。ここで降りないといけない空気らしい。とりあえず僕は、バスをおりた。
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