第2話
~尾更木のメモ~
マック・ザナイフが好きだ。
あの快調なリズムが耳に染み渡るとともに、頭の中が真っ赤に染まる。登校中、ずっとこの曲を,流しながら僕は電車に乗りこむ。
カバンの奥には、そう、「悪の教典」。一度読むと何度も見たくなるあの感覚を忘れられなくて、カバンの底にずっと忍ばせてある。
今の景色があの華やかなパレードのような賑やかさと赤い飛沫で綺麗に染まる世界。突き抜けるような散弾銃の轟音が頭の中を駆け巡るあの文章。僕は取り憑かれたように何度も読み込んだ。ハスミン狂と言われても構わない。それでも、あの歪でもなお美しいあの世界に僕は住みたいと心から願った。
ふとあたり見渡す。何事もない日常がそこには広がっている。泣きじゃくる子供、宥める母親、ゲームに勤しむ学生、疲れた顔のサラリーマン…これじゃダメだ。最高の美しさは一種の依存関係や疑心暗鬼が生まれる最中でより一層美しくなる。そう、僕が壊したいのはこんな世界じゃない。まさに一種の作り上げられたみんなにとっての理想郷。これを美しく赤く彩ることにこそ嗜好があるのではないだろうか。
小さい頃から本は苦手だった。頭のいい人たちが書いた文章が嫌いなのか価値観が違うのかさっぱりだった。唯一好きなのは、江戸川乱歩だった。特に蜘蛛男、彼にはとても同情というか共感に近い感情が芽生えていた。他の小説はてんでダメだ。とくにミステリーなんてよくわからない。最後には結局恋愛だなんだので片付けられるただの滑稽なエピソードでしかない。所詮空想だ。人間の感情は、そんなに単純ではないと僕は思う。時に人を殺したい。当たり前の要求ではないか。
カブトムシの幼虫を飼う時、僕たちは仕切りを作る。お互いが食べてしまわないように。生命にとってカニバリズムなんてよくあることだ。カマキリなんて交尾の後にメスがオスを食べるし、死者を食べる文化の人間だっていた。何が悪い。僕はまともだ。
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