衣食住(※世話役つき)は保証します。
散々に頭を悩ませていた問題が、何の前触れもなく片付く時がある。
――今がまさにそうや。
「え生きて、え、ほんまに生きてる? ――え、ち、ちよちゃん生きてるの?」
「そーだよ、けーくん♡」
「ほんまのほんまのほんまにちよちゃん?」
「もっちろん。あたしがけーくんのアイドル、ちよちゃんだよん♪」
てへっ☆
という擬音までおまけにつけて、ウインクベロだしうっかりフェイスをかますちよちゃん(仮)。
世のお人形遊び(察してください)が好きな成人男性諸君、朗報です。
出先での突然死に見舞われた場合、または自宅での孤独死に襲われた場合。
あなたの大事な大事なお人形さんは、もうどうしようもありませんよね?
ぼくも、ぼくだって、なぞに異世界トリップきめてもうてからこっち、できることなら人目に触れぬように処分したい――いやこの愛は真実。もう衆人監視のうえ同じお棺に入れて焼いてくれたって!――なんて複雑な感情をもてあましては結局、無駄なんだと諦めかけていました。
ところがです。
なんと彼女、ぼくの家にいた等身大最高級品なお人形さんらしいのですが――生きて動いてます!!!
(まじか)
なんとなくだが事態を承知したぼくは、目にも止まらぬ速さで布団から飛びだし、部屋のすみの床の間へ移動(0.5秒)。
純和風な土壁の方を向き、わが身をかばうように三角座りした。ちょっと色々隠したい時にはいい体勢や。
「なになにけーくん急にどうしたの?」
「あ、いいで――いいでちよちゃん(仮)はどうぞそのまま。しばらくぼくは自分との冷静な対話が必要やから。っておいおいおいおい近寄ってこんでええて自分」
「だって心配だし」
「ちょわ、近い近い近い近いって!」
「む。そんなこといっちゃや!」
壁にめり込む勢いで干渉拒否していたら、傷ついたのか最高の萌えボイスで「や!」頂きました。「や!」やって「や!」……ええのう。
「ね、けーくん。これがあたしのお仕事なんだって。けーくんの『お世話』するの。お願い――どうかしたなら、ちゃんと教えて?」
(ぎええええオセワって何なんオセワってそれってせせ、せ、Seっ、セカオワの仲間かなー!?)
ばくの脳がキャパオーバーで煙をあげそうになってる時、救いの声がかかった。
「うるさい。何を騒いでるんですかあなたたちは」
お前かーい。
朝からこのうえドSと会話せなあかんのはカロリーオーバーやわ。
今回はテレポーテーションというびっくり技ではなく、普通に開け放されていた障子戸からやってきたようだが、来んでええちゅうねん。
「うわ、よりによってコイツの声を天の助けやと思うなんて不覚」
「聞こえていますよ」
「もお聞いてくださいよぉ。けーくんてば全然あたしとお話してくれないんです」
ドSに対して何のこだわりもなさそうに相談しちゃうちよちゃん(仮)。
ぼくはほぼ白目をむいて尋ねた。
「え、お二人どういうご関係デスカ?」
「んーとぉ、なんて言ったらいいかなあ? あたしはなんか、気が付いたらここに居て、それでけーくんのお世話をするようにってお願いされてー」
「そこからですか――まだ全然説明できていなかったわけですね? ちよ」
「ひゃあ、ごめんなさあい」
はあ、とまた例によって例の如く溜息をついたそいつは、「いいでしょう」と前置きして咳払いした。
「ちよに任せていては
――なんか急に質疑応答タイム始まったんやけど?
ぼくが寝起きで寝間着で床の間の壁にめりぃなっとるんは誰にも考慮されんらしいわ。
今日もしょっぱい一日になりそうな予感しかせんなあ……。
「なあとりあえず、ぼくが着替えるまでちょっとお二人さん出て行ってくれんかな」
「着替えは燃やしましたが」
「せやったせやったHAHAHA知ってた」
「ところで――あなたいつまで壁と仲良くしていれば気がすむんですか?」
「え、質問するのぼくちゃうの?」
ぼくはちら、と肩越しに背後の二人を振り返って後悔した。
ちよちゃん(仮)からはとっても気遣わし気な空気を感じるのだが、このドSときた日にゃ蔑むような眼差しを隠そうともせん。
失礼なやっちゃな。もう諸事情につき三角座りせなあかん状態ってのはおさまっとるわ。そもそもおさまってなかったところで生理現象(お察しください)なんですう! くしゃみみたいなもんですうー!
「(ッチ)どうせ着替えは必要ですしね。わかりました――それを着なさい」
絶対気のせいではない舌打ちが聞こえた気がした。
しかしバサッという音とともに傍らに真新しい布一式が降ってきたので、こちらの要求は通ったわけである――いや待て。
そろそろと三角座りを解いて、支給された着替えを手に取ると、うわ。うわわわ。
「ぼく着物の着方知らんねんけど」
「知っています――ちよ」
「はーいっ、お任せくださーい☆」
おっ着替えおっ着替え~♪
と愛らしく歌いながら手をわきわきしつつ迫るちよちゃん(仮)――嫌な予感しかせん!!
「ちょ、待っ、やり方! やり方教えてくれたら自分で着れるから!」
「水臭いぞけーくんっ、さ、脱ぎ脱ぎしましょーね」
情けないことに、ぼくは床の間から四つん這いになって逃げた。
着替えの手伝いは断固拒否!
――したかったが、当然完全に黙殺されてしまう。むきだしになった足首にちよちゃん(仮)の手がかかる。捕まったとも言う。
寝間着をはぎ取られていく中、少女のような悲鳴があがるのを抑えられない。
と同時に腹の虫も空腹を訴えてだし、情けない音の二重奏となる。「ぐう」とちゃうねん、空気読めぼくのあほ。
さらにそこへ、部屋を出ていくドSの、呆れたかえった声音までが重なった。
「はあ、食事も必要なわけですね――ちよ、終わったら奥の間へ連れていらっしゃい。くれぐれも手短にすませるように」
「がんばりますっ」
ぼ、ぼくはもう頑張れないかもおおおっ!
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