報酬体系がなぞすぎる。
――すべて理不尽に苦しむ人よ、ぼくのもとに来なさい。
めっっっっちゃ共感したるから!!
~前回のあらすじ~
『まるで使えない。愚鈍、愚劣、愚図愚図の愚図もいいところ。どうしましょうね? このままではあなた、用ナシ――ですけど』
以上。終了。
こいつ絶対どついたんねん……。
「それは良かったです」
気づいたらそう言っていた。
溺れる手前の人間がかっこつけるのキッツとか、そんなんどうでもええねん。
こいつのような輩にだけは屈したくない。
「期待外れで残念でしたね~、いきなり連れてきといて何言うとんねんとか言いませんよ――言いませんから、人をいたぶって気ぃすんだんやったら今すぐ帰らしてくれ」
い、いけた。言うたった――語尾でちょっと水が口に入ってゴボりかけたけど。
ぼくは相手の反応を逃すまい、と睨みつけた目をそらさずにガン見し続けた。
「帰りたいんですか。なぜ?」
おおっとこっちの敵意もムカつきっぷりも微塵も通じてない。『なぜ?』って小首かしげるなや。キョトン顔やめい。
「あったり、げほっ、前やろ。ぼく一言でも『異世界転生してみたいですう~』とかあんたに言うたか?」
「転生、に聞き覚えはありませんが――『転職』したいのでは? ああ、違いました。『辞職』でしたね。『……あ゛~、仕事辞めたすぎい』」
美人の声音がひしゃげるようにして急に変わった。
え、まさかそれぼくの声再現した? 声帯模写? そ、そんななっさけない感じでしてたぼく? うそお。
「生きることはすなわち労働です。けれどもあなたの望みはその放棄。まったく、怠惰ですね」
「お、まえに何がわかるねん」
「わかりますとも――わたしは人々をずっと見てきました。神を前に手を合わせても念じるのは身勝手な願いばかり。他力本願もいいところです。清らかな祈りなど聞いたこともない」
ぼくの足はつりかけているが、美人の口上は続く。
「あなたもそういう人々の筆頭なわけですね――滑稽です。このまま『帰って』一体全体、成すべき何事かを持ち合わせているのですか? また虫けらでも踏みつぶしてうさを晴らすのが関の山でしょうに。もっとも、そんなあなたに残念なおしらせです。あなたはもう、ただでは帰れません」
「え」
絶賛言葉の刃にめった刺され中だったぼくは、さらなる衝撃にさらされた。
「だから、良い虫はムシしろと言ったのに。あなた、『光虫』を食べましたね」
「こう、ちゅうて――」
「この泉に住まうものたちです。さっき溺れたでしょう。そのとき何か口にした覚えは」
「あ、」
ある。めっちゃある。
え、でもあれ食べたアカンやつやったん? とか、そもそも虫は食べたアカンやつかとか、色々言いたいことはある。
でも『良い虫』の詳細ゼロ説明でそんなん知らんし!
「な、なんかふわっと光る妖精さんみたいなんお口に入ってきたんですけどあれなんかやばかったんすか」
「やばいもなにも」
やれやれ、と首を振ったかと思うと、美人はもったいぶってぼくを睥睨した。
ええから間ぁ溜めんなや。足つる!!!
「この泉にはとあるお方が眠っている――本来ならばそのように無遠慮に土足を踏みいれるなど、それ自体が言語道断の暴挙です。まして光虫を口にした? はあ、――あれはこの場所に満ちる神秘の力の源。それを取り込んだということは、神の肉片を食したも同然とみなされる」
「え、ええええ~? ちょっと何言ってるかわからないですね」
「ならその空っぽの頭に任せてお帰りになるのもいいでしょう。長生きは諦めて、ね」
「どういうこと? ぼく死ぬん?」
「飲み込んだ量がさほどではないようですから死にはしないでしょう。せいぜいこちらに60年ほど寿命を置いていくだけじゃないですか?」
口調めっちゃ他人事ォオ!
「ろく、ロクジュウネン……」
代償えっっっっぐ。なんやそれじいさんか、じいさんなるんか? それかTOO YOUNG TO DIE!的なやつ――どっちにしろ嫌やねんけど。
家に置いてあるダッチなワイフを死後人目にさらさんようギリ処理できるか否かってくらいのラインやん。下手したらそれが最後の仕事やん。
――ああ、ぼくは勘違いをしとったみたいや。この話「な〇う系」やと思ってたら「日本〇話系」やったんや。浦島太郎かよ。
「事態を理解したようですね。あなたには二つの道しかありません。帰ってぽっくり逝くのを待つか、ここでせっせと働いて光虫を口にした代価を支払うか、です」
「代価を支払うってなんやねん」
てかさ、もう新情報とか小出し小出しでもろうても頭がぱっぱらぱーやねんけど!? しつこく言うけどぼくさっきからずーと立ち泳ぎやからね! タイ〇ニックやったらとっくにデカプリ海の底や。
「代価は――やめましょう。勤労意欲のない人間に報酬の説明をするなど徒労です。第一あなたは『用ナシ』ですし」
お゛ま゛え゛な゛あ゛!?
もう何て言ったらいいかわからへん。
ぼくが口をぱくぱくさせていると美人の唇が挑発するように吊り上がった。わっるい顔。
「何か言いたいことでも? あなたあれに立ち向かう気などないのでしょう?」
ん~? どちたの~? とでも言いたげににっこにこ顔で身体をくねらせてこっちを見下してきよる――間違いなくこのダボどSや!
「ど、」
「ど?」
「どうしたら、いいん、っすか」
「自力で対処、と最初に言いました」
「あっ」
おっとこの「あっ」は何か気がついた時の「あっ」とはちゃうで~。「アホボケカスぅ」を飲み込んだときの「あっ」やで~。
誰かーあんな殺人的気色悪さの大木秒で消滅さす黒い悪魔ちゃんたちを処す方法知ってる人ー? 普通にいないヨネー!(棒)
「すぐに固まる。こういうの『ポンコツ』と言うんですっけね。まったく、どうしてわたしがあなたを雇おうとしたと?――踏みつぶせばいいでしょう。水からあがってね。あの時みたいに」
「あっ」
あ、この「あっ」は有り余る怒りに続きがとっさに出んかった時の「あっ」やで~。
「――あ、んな殺意爆高のゴキども踏みつぶせるかいっがはっ、げほごほっ」
渾身の叫びに水がお口に入っちゃったよ☆ ほんともうやだ。
美人は本日何度目かわからない溜息をつく。
目の前で溺死しかけている人間にも、「無様だな」という蔑みを隠さない姿勢がさすが! このどS!
「やってみましたか?」
「お゛お゛ん゛?」
「だから、やってもみないうちに諦めているのが怠惰だと言うのですよ。愚鈍」
ぼくは呆然と驚愕で美人を見上げるしかなかった。
えええええええ……?
「――まじでえ?」
まじです。と言い残して、美人の姿はかき消えた。
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