沈没した町で星を見上げる

青いバック

第1話 沈没した町で星を見上げる

 立ち入り禁止の札がかけられた、道。

 この道の先には、 俺の青春やら純愛やら全てが詰まった町が沈没している。


 七週間前に起きた大地震。五メートルを超える津波が迫り、町は瞬く間に飲み込まれた。

 逃げる暇もなく、 戸惑い死んでいく人達。避難誘導を自衛隊員達がしていたが、それも虚しく全てを飲み込んでいった。 その光景は地獄そのものだった。


 時間にして約十分。 経ったの十分で全てが無に帰した。


 波が引くことはなく、飲み込まれた町は海の一部となった。


 高い場所から、町をずっと見ていたが生き残った人達は町を出ていった若者だけだ。

 町にいた人達は皆死んだ。


「あ、こんな所にいた」


 後ろから話しかけて来たのは、俺と一緒に逃げていた蘭子らんこ


 蘭子とは中学で知り合い、同じ高校に通っていた仲だった。

 津波が来ると分かった俺達は、急いで逃げる準備をし、人の往来で倒れた蘭子を見つけ見捨てると助かった時に後味が悪いと思い手を、 差し伸べた。


 逃げ遅れた俺達は、急いで高台へと逃げた。


「蘭子か、 こんな夜にどうした?」


「それは君もだよ。 早いもんだね……町が沈んでもう四十九日だよ。 私達もそろそろ行かないといけないね」


「そうだな、 いつまでもここに居られる訳では無いし」


「ずっとここで町を見ていたいけどね……」


「無理な願いってやつだ」


「意地悪なこと言わない」


「へいへい」


 俺と蘭子は、最初からこんなに仲が良かった訳では無い。 助けるまで話したことが無かったぐらいだ。

 助けたことによって、 仲が良くなり町が沈没した今もこうして一緒に居る。


 蘭子の教室でのイメージは、元気で活発クラスの中心に居る少女だった。

 ちなみに俺は、 教室の角でひっそりと小説を見ていた根暗だ。


 正反対の俺達がこうして関わっているのも、全てはあの出来事のおかげだ。


「ねぇ、 見て星が綺麗」


 空を見上げてと言われた俺は、 空を見上げると星が綺麗に沈んだ町を照らし光が反射していた。


「明かりが一つも無いから綺麗に光って見えるな」


「自然のプラネタリウムだね」


「でもこれが最後のプラネタリウムになるな」


「最後がこれなら、 上出来だよ」


「それもそうだ。 さっそろそろ行こう、 あの星の元へ」


 見上げていた星に、 二つの星が増える。

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