【10話】覚悟
「っ……こいつ!」
ポタポタと血が流れる腕を抑える金髪の男。
今ここで死ぬくらいなら。と一思いに撃った瑠樺の銃弾が男の腕に命中したのだ。
傷が痛むのか片膝をついてしゃがむ金髪の男の姿と、こちらへ銃口を向けて引き金に指を添える二人の男の姿を瞳で捉えた。
――撃たれるッ!
急いでもう一度ハンドガンを構える瑠樺。
男たちの指に力が込められる様子が、時間が止まったかのように遅く感じた。
だが、数人の男相手では今から仮に一人撃ち殺したとしても他の男に殺されてしまうだろう。
けれど今の様子では、ハンドガンを構える時間すら与えてくれるかどうか。
恐らく、次の瞬間には――
――いや、考えちゃダメ!
瑠樺は照準を定めると、引き金に指を添える。
先程はたまたま腕に命中したが、次は本当に命を奪ってしまうかもしれない。
そう思った時、瑠樺は引き金から指を離すと撃たれる覚悟を決めて目を強く閉じた。
次の瞬間――鼓膜に響いた銃声が、強く閉じた目を反射的に開かせる。
紫の瞳に映し出されたのは、目の前で頭から血を流して倒れる男たちの姿だった。
何が起こったのか、頭の理解が追いつかない。
すると、瑠樺の傍にある窓ガラスが勢いよく割れて破片が飛び散った。
そして、瑠樺と男たちの視線を阻むように飛び込む影。
それは瑠樺が待ち望んでいた人物だった――
「……全く。世話焼かせやがって」
地面に手をついて着地した人物――蓮は、よろりと立ち上がり右手に持つハンドガンの銃口を男たちへ向けた。
「暁羽さん……?!」
「お前は下がってろ」
瑠樺の不安そうな瞳どころか、顔すらも見ることも無く蓮は一言呟く。
言われたままに瑠樺が物陰へ隠れようとした次の瞬間には、蓮と男たちはどちらともなく引き金を引いて発砲した。
蓮の放った銃弾は外れることなく一人の男の額に命中してその頭を抉り貫く。
家の中を飛び回り、飛び蹴りを食らわしては銃弾を別の男へ撃ち込む。
戦闘は蓮に任せて瑠樺は物陰に隠れると、その影から恐る恐る蓮の事を見守る。
蓮は狙いを定める為に腰を低くして二人の男に突撃するように発砲した。
一発、二発と頭を的確に撃ち抜き倒れる男たちの間を滑り込んでは銃を構え、もう一人に狙いを定める。
男と目が合った途端、蓮は八重歯を見せてにっこり笑い顎の下から頭を撃ち抜く――
血飛沫を飛ばしながら倒れる男とすれ違うと、残った二人のうち片方に慣れた手つきで銃口を向けながら、もう一人も仕留める為に蓮は左手をジャケットに入れた。
「やばッ――!」
そこで蓮は、もうひとつのハンドガンを瑠樺に渡していたことを思い出す。
右手に構えていたハンドガンはそのまま発砲して一人を撃ち抜くことができたが、弾切れしたのか引き金は意味を無くす。
それを見た男は口角を上げて迷うことなく引き金を引いたのだった――
間もなくして響く銃声と、宙を舞って落ちる血の雫。
咄嗟に体を捻って避けた蓮だが、わずかに避けきれなかった銃弾が蓮の頬を掠めていったのだ。
急な判断に集中力を奪われ、頬への衝撃もあり思わずハンドガンを落とした蓮。
痛みに怯む暇なくハンドガンを拾いあげようと右手を伸ばす――
だが、それを許さないとばかりに、男は蓮が伸ばした右手の手のひらを撃ち抜いた。
「ッッ――!」
再び銃声音が響いた後、蓮を襲ったのは激しい痛み。
悶絶するほどの痛みに怯む蓮を男が見逃すはずもなく、瑠樺の瞳には男が気味悪い笑みを浮かべながら蓮に銃口を向けて狙いを定める様子を映している。
――なんで。
瑠樺の思いは言葉として放たれる事はなかった。
元はと言えば、危険だと言われたにも関わらず自分が家に帰りたいとわがままを言ったからだ。
自分勝手な行動にも関わらず、蓮は助けに来てくれた。
今だってこうして、瑠樺の目の前で蓮は死ぬ気で戦っている。
正直、何故なのか分からなかった。
なぜ自分を助けてくれるのかが、本当に分からなくて。
そう思った時には、瑠樺の体はいつの間にか物陰から飛び出していた。
そして瑠樺の脳裏でこだまするのは、金髪の男放った『生半可な覚悟じゃ何も守れやしない』という言葉。
蓮が殺されてしまうくらいなら――人殺しにでもなってやる。
「私から、もう何も奪わないで――!」
震える手に力を込めて、瑠樺は銃を即座に構えて引き金を引く。
その銃弾は真っ直ぐと飛んでいき、命の根源である男の心臓を貫いた――
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