第5話 マイルーム・マイライフ
全身ゴスロリの女の子は、部屋に通すと恭しく礼をしながら慣れた手付きで名刺を差し出してきた。
異能者ユニオン
異能対策部姫神子特別対策室
遠野楓
「お忙しいところお時間いただいて申し訳ありません。私共は異能者の互助組織をやらせていただいています」
なにか最初にキャラ付けがありそうな喋り方をしていたが早々に諦めたらしい。
多分決め台詞とかもあったはずであろうに申し訳ないことをした。
「七瀬様には以前からお世話になっています」
「あ、いえいえこちらこそ」
どうも時雨さんは関係者のようだ。
意外と多くの異能者が登録しているのかも知れない。
というか時雨さんの名字が七瀬なのか。どうでもいいタイミングで知ってしまった。
「今回ご訪問させていただいたのは、こちらで保護いただいている女性の異能者の件でございましてですね、もし特段の事情がないのであれば私共の方で預からせていただきたいと思っています」
やはりみちるさん関係のようだ。
僕はみちるさんを『保護』しているつもりなど微塵もないのだが――なんなら僕の異能がみちるさんの足を引っ張っているぐらいであるが――、引き取ってもらえるというのなら断る理由なんてなにもない。
なんなら警察より先に関係者の方が来てくれてほっとしているぐらいである。
「はぁ・・・僕は別に構わないんですが・・・」
しかし・・・本人の相談なしに勝手に決めてしまうのは良いものなのだろうか?
自由人のみちるさんが納得するとは到底思えない。
そもそもとして僕の意思で住まわせているのではなく、みちるさんの一方的な侵攻により僕の領土は占領されている形であるのだ。
僕がちらりとみちるさんに視線をやると、楓さんはあらかた察したようで重くため息をついた。酷く疲れている様子だ。
視線に気づいたのだろうか、みちるさんは変態野郎を嬲るのをやめて靴を脱ぎひらりとこちらにやってきた。
「なに?私の話?」
「姫神子様、お元気そうです何よりです。こちらの方の迷惑にもなっています。お屋敷にお戻りください」
「みちるちゃんの白ワンピ滅茶苦茶可愛くないですか?」
「時雨さん、その話は後でいいですか?いま大事っぽい話してるので」
楓さんの冷たい声にみちるさんは想像通りの答えを返した。
「え、嫌」
「嫌と言われましてもですね、あまり好き勝手に徘徊されますと私共としてもなかなかフォローしづらいんですよ」
楓さんは頭を抱えている。余計な仕事を抱え込んで苦労するタイプなのだろう。
「姫ちゃんさぁ・・・俺たちは心配してんの。春先辺りに簪どっかやったよね?あれからずっと消息掴めなくて探してたんだぜ?」
先ほどまで玄関で転がってたボロボロの男もやってきた。生きていたらしい。
「ああ、あの発信機もどきね。燃えちゃった」
「大事にしてって言ったじゃん・・・。楓ちゃんの能力で追えなくなるんだから」
男はガックリと肩を落とす。
みちるさんは不機嫌そうに言葉をつないだ。
「位置を把握するのはいいけど、とにかく屋敷は嫌。あそこの人たちみんな堅苦しいし。それにずっと住んでたら流石に飽きるよ」
みちるさんはどうあっても屋敷とやらには戻らないらしい。
三者の不毛な問答が延々と続いた。
流石に疲れ果てた楓さんが大きくため息を付き、
「まったく埒が明きませんね。いつまでもここで話している訳にもいきません。とにかく一度屋敷まで一緒に来てもらいますよ」
みちるさんの肩に軽く触れると、みちるさんの身体がふわりと宙に浮かんだ。
異能だ。
僕が驚きに目を見開いているとみちるさんが宙を転回して僕の頭をガシッと鷲掴みにした。
次の瞬間、異能が打ち消され、みちるさんは床に顔面から落下・・・する寸前のところで時雨さんが時間を止めて滑り込んでキャッチした。
この人達は何をやってるんだろう・・・。
「危ないじゃないですか!無理やり連れて行くって何考えてるんですか!?みちるちゃんの気持ちも考えてください!」
時雨さんがカンカンになって怒鳴りつけるが、
「時雨さん、時間戻さないと誰も聞いてないです」
「っっ!わかってますよ!」
時間を再び動かすと時雨さんは立ち上がり宣言した。
「みちるちゃんは私が養います!!」
◇◇◇
その後、もうしばし言い合いが続いたが、みちるさんは時雨さんの家で暮らし、異能者ユニオンとはしっかり連絡を取る形で話がまとまった。
「これ新しいプラネットです。今度は燃やさないでくださいよ?」
そう言うと楓さんは小さい球体がはめ込まれたキーホルダーをみちるさんのカバンに取り付けた。
聞くところによると、楓さんのテレキネシスは基本的には少し離れと途切れるのだが、対象が球体の場合に限り相当離れていても位置の把握だけは完璧にできるらしい。
「テレキネシスとは言われますが正確には『座標と運動』に関する異能なんですよ。球体が特別扱いなのは惑星の概念が付与されるからですね」
プラネットというのはその特性を利用したアイテムで、球体を持ち歩きやすいように簪やキーホルダーなどにはめ込んだものだ。
何かあったときのために駆けつけられるように異能者に配っているらしい。
僕の場合は打ち消してしまうので意味をなさないのだが記念に一つ貰っておくことにした。
みちるさんを連れ帰り損ねて絶望に打ちひしがれているシャイニング野郎を、楓さんはテレキネシスで引きずりながら帰っていった。
かくして僕の家はみちる軍の不当な占領から開放されて、再び広々と部屋を自由に使うことができるに至った。
それからほんの少しの間、異能と関係ない平穏な日々が続いた。
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