第3話 受け入れられざる真実
「ごめんって」
「・・・・・」
「あの状況でいきなり因果切れたらびっくりするじゃん?」
「・・・だからって持ってるバッグ投げないでくださいよ」
昼下がりのオープンカフェ。テーブルの一つに僕たちは均等に腰掛けていた。
一組の男女と女の子。傍から見ると家族連れに見えないこともない。
なぜかみちるさんからの強襲を受けて土まみれになっていた僕は、半身をはたきながらお姉さんに恐る恐る声をかけた。
「なんかすみません、どう見ても怪しい者なんですけど、怪しい者ではありません」
「は、はぁ・・・」
非常に警戒されているが、取り敢えず場をあらためてとなったのを見るになかなかの胆力がある方らしい。
「ええっと、あなた方も異能者ですよね?」
意外にも女性の方から切り出してきた。
「はい、そうですね。そちらの時間停止の能力についてちょっとご相談したく・・・」
僕は出来るだけ簡潔に今回やってきた目的を伝えた。といっても止まった時間で動けるになったのであまり問題は問題では無くなったのだが。
「それはそれは知らない所で大変なご迷惑を・・・」
女性はこちらに深く頭を下げて来た。とても礼儀正しい女性のようだ。
自分もつられて頭を下げてしまう。
気まずい・・・
「こちらスペシャルフルーツパフェになります」
テーブルの真ん中にドカンと規格外のサイズパフェが置かれた。
は?パフェ?いきなり何?
というかあなた勝手に頼みましたよね?
とみちるさんに送る。
「ちょっと・・・手伝って?」
◇◇◇
時間停止能力とはそれはそれは厄介な代物であると思っていたが、味方につけるとなかなかに心強い能力である。
具体的に言うと、いくらのんびり食べてもパフェのアイスが溶け出さないという利点があり、早々にみちるさんが離脱した対パフェ戦線ではその利点が大きく生かされることとなった。
他方デメリットとしては時間を止めるたびにみちるさんが話題に置いていかれて不機嫌になるという問題があり、遂には、
「イチャイチャしてたんでしょ!私の止まってる間にイチャイチャしてたんでしょ!」
という謂れもない非難を受け始めたので、それ以降は裏技を使わずに正攻法で攻めることにした。
パフェを突き崩す時間というのは緊張関係を緩和するのに程よく、お互いのことが少し知れた。
この女性は時雨さんといい、中学生の時には異能が使えたらしいく、読書や勉強などに便利に使っていたようなのだが、
「よくよく考えるとこの能力、私だけ老けるんですよね」
ということに気づいてからは自然と使用頻度は減っていったそうだ。
意外と世の中、一人で時間さえかければ何とかなるという問題は少ないのかもしれない。
そうなると愈々先日の大規模時間停止が不自然なものに思えてくる。
「この間は3時間ぐらい時間止めてましたよね?何かあったんですか?」
思い切って突っ込んで聞いてみた。
「ああ・・・」
時雨さんは少し言い淀んで、
「7年付き合った彼と別れたんです」
何かとても重たい話をし始めた。
「え、ああそうだったんですか・・・」
「結婚しようって話してたんですけどね・・・」
「・・・」
「ちょっといろいろ受け入れられなくて、ちょっと一人で考えたくて・・・」
僕はみちるさんに助けを求める眼差しを送った。
止まった時間でやってくれという冷ややかな視線が送り返されて来た。
踏んではいけない地雷を踏んだらしい。
◇◇◇
結局日がすっかり傾くまで時雨さんの話に付き合うこととなった。
時雨さんは一通り愚痴ってスッキリしたのか、当初の暗黒オーラは影を潜め、朗らかな雰囲気を醸し出していた。
根は明るい人のようだ。
時雨さんとみちるさんはお互いの連絡先を交換して楽しそうにスタンプを送り合っている。
異能者というからある程度警戒をしていたが、意外と普通の人で安心した。
他の異能者と交流出来ただけでも今日はとても収穫のある1日だった。
少しホッコリした気持ちに浸りながら僕はレジで会計した。
「・・・スペシャルフルーツパフェ高すぎない?」
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