第2話 闇を纏いし者

土曜日の朝の過ごし方は人それぞれではあるが、僕にとってグダグダと惰眠を貪り日頃の疲れを癒やすひとときである。

休日にしっかりと休むことを誰が非難しようか。


「おーい、いつまで寝てるのー?でかけるよー?」


漫然と続いていた習慣はしかし、小さな同居人の横暴により終りを迎えた。

休日のお父さんの気持ちはこういうものなのだろうか?


「こないだのアレ、見つかったみたいだよ」


みちるさんは手元でひらひらと封書を振りながらパスンとビーズクッションに腰掛けた。

僕の安眠に関するクレームを受けてみちるさんが購入したものだ。

みちるさんはこの人を駄目にする感じのクッションで駄目な感じでいつも寝ている。

(それ以前の状況に関しては黙秘権を行使する)


「もう見つかったんですか?」

「仕事早いよね。正直あのロリコン嫌いなんだけど。意外と近くに居るみたいだよ?」

「それで今からですか?まぁ良いですけど・・・予定もないし」


みちるさんの提案――途中何かとても不穏なワードが聞こえた気がするが――は突然だったが素直に乗ることにした。


あれから異能者の時止めには一度も遭遇していないが、いつなんどき時間を止められるかと怯え震えて暮らすのはもうこれ以上勘弁願いたい。


それにどういう風の吹き回しか、今回はみちるさんが興味本位とはいえ付いてきてくれるようだ。とても心強い。


・・・


封書の地図に指定されていた地域は郊外の住宅地で、ファミリー向けのマンションが立ち並んでいる。

その一角には少し広めの公園があり地図はそこを指し示していた。


今日は風も穏やかで天気もよく、多くの子連れで賑わっていた。

そんな平和を絵に書いたような公園に、明らかに異様な気配を纏った女がそこに座っていた。


その気配は遠目に見ても凄まじく人を寄せ付けない強烈なオーラを放っていた。

流石のみちるさんもその気配には驚き、


「えっ暗っ」


ドン引きしていた。


「あの人が能力者なんですか?なんか別の意味でヤバそうな人なんですけど」

「いやぁ、流石に断定はできないかな・・・。むしろ違っててほしい」

「ちょっとみちるさん声かけてきてくださいよ」

「は?なんで?無防備な美少女行かせるののおかしいでしょ」

「時間止められたら無防備なのは僕も一緒です」

「気合で動け!」


みちるさんが大声を上げるとその女の身体がビクッと跳ねた。

ヤバイ、見捨てて逃げるべきか?みちるさんなら死ぬはずないし。


「逃げたら変態って叫ぶよ」


この人、死よりも恐ろしいことをサラッと言いやがる。

前門の闇、後門の女児、完全に詰んでいる。


観念しためた僕はゆっくりと女に歩み寄った。

空気が張り詰め、風は止み、周囲の喧騒は遠くなっていく。


焦るな焦るな、まだ能力者と決まったわけではない。ただただ不審なお姉さんなだけなのかもしれない。不審といえば女児を連れて女性をコソコソ観察している僕も大概不審者なのは間違いないのだが。とりあえずお姉さんに話を聞いて、


「なんで、動けるんですか・・・?」


女は酷く怯えながら言葉を紡いだ。

最初女が何を言ってるのか理解できなかったが、


「え・・・止まってる」


そよいでいた木々は写真に収まったかのように固まり、遠目に見える子どもたちは不自然な姿勢で動きを止めていた。


僕が唖然としていると景色が再び動き出し、


「避けて!」


みちるさん叫び声が聞こえると同時に側頭部に強い衝撃を受け、僕はふっとばされた。

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