対決編

第1話 名誉を賭けた戦い

街灯が照らす夜道を道なりに足速に進んで行く。道の先には一軒の古びたアパートが建っている。


その一室に明かりがついているのを確認すると僕は顔をしかめた。


「どうやら・・・決着をつけなければいけないようだな・・・」


拳を固く握りしめて虚空に向かってボソリと呟く。完全に不審者である。

だがしかし気にすることはない。辺りは水を打ったように静まり返っている。


僕は異能殺しの異能だ。この先に立ちはだかる異能者には毅然とした態度で立ち向かいハッキリと言ってやらねばならない。


カンッカンッと錆びた階段を踏み鳴らしながら決意を固める。

ノブを下ろすとガチャリと音がして扉が少し開いた。鍵はかかっていないようだ。


僕は扉を開け部屋に飛び込むとハッキリと言葉を形にした。


「お願いだから出ていってください!」


床に膝をつき深く頭を下げて、部屋の中央に鎮座する少女にお願い申し上げた。


対する少女は大きな目をパチクリさせながら冷たい声で言い放った。


「なんで?」


「いや、なんでも何もここ僕の部屋なんですよ。家主。この部屋の主。なんで毎度毎度上がりこんでるんですか」


声を張り上げたいのは山々だが、近隣住民に配慮するのが共同生活のマナーだ。

可能な限り声を抑えて僕はツッコミを入れた。


「いいじゃん泊めてよ。美少女と一夜を過ごせるなんてサイコーだね、お兄さん」


少女はさらりと言い放ち手元のゲーム機に視線を戻した。


自分で言うだけあって容貌は非常に整っている。


だが、そんなことよりも問題なのは、目の前の少女はどう頑張っても小学生にしか見えない。


これは事案である。


「通報を受けたらもういっかんの終わりなんですよ」

「なんで?」

「もうちょっと自分の見た目気にしてもらっていいですかねぇ!?」

「かわいいでしょ♪」

「そうじゃない・・・」


駄目だ、全く意思疎通ができない。

名誉を守らんと挑んだ戦いにあっさり敗北した僕はとぼとぼと茶葉台を挟んで少女の前に座った。


なんとも情けない。

他の女性が見たらドン引きすること請け合いだ。

女の子の登場順序間違えていないか?



「そういえば昼間なんかあったと思うんだけど」


おもむろに少女が切り出した。


「ああ、ありましたね。時間止められました」

「あー、時間停止か」

「みちるさんも分かるんですか?」

「私も一応時間に関係してるから。因果切れてるくらいは」

「場所とかわかります?」

「分からない。会うの?」

「普通に迷惑なので。動けないんですよ」

「ウケる。それぐらい無効化しなよ」


少女、改めみちるさんは屈託無く笑った。


「なんか特定できる方法無いんですか?」


みちるさんはベテラン能力者だから何かいい解決策を知ってるかもしれない。

困ったときは先輩にお伺いするのが若輩者のセオリーである。


「あー・・・まぁそうね」


いやいや、その反応はあるでしょう。なぜ渋る?

ここは粘るところだ。強制だるまさんころんだはもう勘弁願いたい。


「お願いしますよ。一緒に死線を潜ったよしみでしょ」

「死にかけたのあんただけじゃん」

「まぁそれはそうなんですけど・・・」


しばし沈黙が流れた。

ゲーム機からは聞き慣れた軽快な音楽が流れている。

もしかしてストーリー勝手に進めてる?


「・・・仕方ないなぁ。しばらく泊めてもらうしそれぐらいはするか」


この人は連泊する気なのだろうか?

ツッコミそうになるのをぐっと堪える。


「一応ツテがあるからそっちに聞いてみるよ」


そう言うとみちるさんはゲーム機の電源を落として浴室の方へと消えていった。

本当に自由な人だ。

これで時間停止の件は解決に向かい動き出しそうである。


次なる問題は、今日からどこで寝れば良いかということである。

客人用の布団など用意していない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る