ありきたりな異能者とぶっちぎりの凡人

@ksilverwall

モノローグ

僕はどこにでもいるごくごく普通の会社員だ。

もうそれはそれは普通の家庭に生まれ、普通に育ってきた。


平凡は平凡でも多感な高校生なら平凡さえも貴重な青春の1ページになるし、大学生だってその行先は夢が広がっている。

大人だって何か特殊な仕事であればドラマはあるだろうし、もういっそクズなニートであれば一発逆転命を賭けたデスゲームがあるかも知れない。


でも僕は可もなく不可もなく、どこにでもいるような普通のサラリーマンであり通行人Aである。

僕自身またそれを物足りないとは思っていながらも欠点とも思っておらず、何気ない平凡な毎日にまぁまぁそこそこ満足している、それはそれはつまらない大人なわけだ。



さてここまで、それはそれはくどくどと、普通ではないほど普通さに関して語ってきたわけだが、僕はひとつだけ平凡ではない要素を持ち合わせている。


いかに平凡とはいえ誰だって非凡な能力の一つや二つは持っているものだ。


そういう意味では非凡をもってしてやはり平凡なわけなのだが、平凡というには非凡がすぎる。

僕は平常と呼ぶにはあまりに異なる能力、即ち異能の力を宿している。


平々凡々のこの身としてはあまりに勿体ないもので、血気盛んな中学生や、魔法少女を夢見る女の子に譲ってあげたい。百歩譲るにしても今流行りの異世界転生とやらで舞台ぐらいは変えてくれてもよかっただろうに。


しかしながら、こと自分の異能の異常さーーすべからく異能は漏れなく異常なのであるがーーを鑑みるに、逆に敢えてこの能力は平凡である自分にこそ相応しいものと思えてくる。

僕の持つ異能は、異能としては異常であるが、異常な異能としてはあまりによく知られた能力、異能に異を唱える異能、つまるところ『異能殺しの異能』なのだ。


常ならばーー異能者にとっての常というのもおかしい話だがーーこの手の異能者の元には次々とトラブルが降ってくるものだ。

でないと物語が進行しない。


少なくとも女の子ぐらいは降ってきてもいいと思うのだけれども、どうにも最近は女子高生を自由落下させるのはコンプライアンスに違反するらしく、なかなかこの異能を使う機会に恵まれなかった。

具体的にいうと入学式を迎えた少年が青春を駆け抜けて卒業式を迎えるまでの期間である。



そんなわけで、こう長々と無駄なモノローグを綴ってきたわけなのだが、僕が伝えたいことはおおよそ二つだ。

一つは僕が『異能を打ち消す異能』を中途半端に使いこなしている異能者であること。

もう一つは、中途半端にこの力を使えているがために、止まった時間の中で意識が有りながら自由に動けずに完全に参ってしまっているということだ。



僕は昔からこの手の異能の恐ろしさは、まさにその動きを止められてしまうということだと思っていたのだけれど、昨日その認識は改められた。


何事もそうだが、止まっているということは多くの場合安全なのであって、おもむろに突き動かされる方がずっとずっと危険なのだ。


ましてや人間は二足歩行という安全上の問題を抱えているのだから、このように派手に転ぶというのは不可避の悲劇なわけである。


僕は異能者を許さない。少なくともスーツのクリーニング代を請求する権利はあるはずだ。


「モノローグはここまでだ。必ず見つけ出してやる」


普段の三倍のランチタイムを取った僕は午後の仕事に戻った。

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