しにがみ
ひと仕事した夜は、深煎りのマンダリンか蜂蜜入り紅茶って決めてる。
目ン中の血が取れなけりゃア、ピリつく苦みが気つけてくれるし。
耳ン中の声が煩きゃア、歯に染みる甘みがぼかしてくれるし。ネ。
人懐こく笑って男は言う。
折れた名刺には、拙い字で「しにがみ/ころしや」と書いてある。
初めて飲んだマンダリンという珈琲はそこまで苦くなかったが、念のため、角砂糖を3つ入れた。男は嬉しそうにそれを眺めていた。まだあんたは無垢だからな。と呟いた彼の目は、黄色く底光りして見えた。幻覚剤にハマったことがあるやつは、こういう目なんだよ。と僕の膝を撫でながら、耳朶をなぞるように口を付けて老人は言った。それから老人は男とコロシの相談をしていた。僕は聞こえないふりをしながら、時計の秒針の速さと、自分の呼吸の速さを測り続けていた。
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