結婚

 私もあんな風に幸せになるときが来るだろうか。来席者とかわるがわる写真を撮る笑顔の新郎新婦を見て、ふと思う。


 高校の同級生の結婚式に来ていた。私の同級生は新婦の方。高校まで一緒で、私はその後アイドルになった。彼女は、地方の大学に残った。東京に出てきている私とは距離があったけれど、彼女とは最近でも連絡を取り続けているし、一緒に出掛けることもあった。


 今年で29歳、グループの中でもほぼ最年長になる。これくらいの歳になると、同級生の結婚の話も聞くことが多くなる。今年だけでも4通の結婚式の案内が来ていた。どの子も高校の時の同級生で、仲もよかった。ただ、私の仕事柄、あまり多くの人が集まる場所には行けない。だから、今日の式以外は断っていた。みんな、私の仕事のことをわかってくれて、悪いことは言わないでいてくれる。


 本当は、今日のこの式も断った方がいいだろうかと悩んだ。でも、一番頻繁に連絡を取っている友人だったし、唯一の親友とも呼べる人だった。なんでも話を聞いてくれるし、私も安心して話ができる人。彼女も、無理はしなくていいよ、と言ってくれていた。だから、どうしても式に参加したい、と思っていたのは私の方だと思う。


 私が、ぜひ結婚式に行きたいと言ったら、電話口の彼女はとても喜んでくれた。せっかくなら式の後の披露宴も見ていって、と言って、目立たないように会場の一番かどの席を用意してくれた。


 本当に来られた良かったと思う。ここは幸せがたくさんある。新郎新婦の親御さんからのお手紙のところは、私も泣いてしまったくらいだ。幸せで、素直で、綺麗だ。


 2回目のお色直しの時、そっと彼女が目配せをして外に呼んでくれた。新婦の控室で、彼女と話した。

「来てくれてありがとね~。どう?」

「ほんっとに素敵だな、と思ったよ。みんなが幸せそう。その中心にいる気分はどう?」

「え~、もう、冷静に考えないようにしてたのに。」

 そう言って、彼女は涙を浮かべた。

「すっごく嬉しくてね、それがじわーっと沁みてきて、私幸せだなぁ、ってなんか泣けてくるの。もう一日中ね。」


 彼女のほんとうに幸せそうな様子が伝わってきた。その後も、いろんな話をした。それはいつもと同じような何気ない話だけれど、特別な雰囲気のせいか、本当の大人の女性と話しているみたいな、変な感覚だった。


 披露宴も終わりに差し掛かっているようだ。私は、帰りが他の参加者と被らないように、少し早めに会場を出ることになっていた。名残惜しいけれど、そっと会場を抜ける。


 披露宴会場を抜け、ロビーへと向かうと、スタッフらしき人に声をかけられた。

「ご新婦さんから、こちらをお渡しするようにお願いされているんです。」

 スタッフの彼が私に向かって伸ばした手には、花束があった。普段見る花束よりも丸っこくて、少し長めのリボンがついていた。

 少し不思議そうな顔をしていただろうか。スタッフさんが説明を加えてくれた。

「これ、ブーケなんです。ブーケトスとかで、新婦さんが投げるあれです。最初の予定ではブーケトスをやる予定だったんですけど、ご新婦さんが、渡したい人がいる、っていうことで、こういう形になったんですよ。」


 そうか、彼女が私にこれを。すごく嬉しい。


 スタッフさんに感謝の言葉を伝えて、新郎新婦にも「ありがとう」と伝えてほしいとお願いして、式場を後にした。


 タクシーに乗って、帰りの高速バスの乗り場へと向かう。


 腕の中には、今日の幸せをいっぱいに吸い込んだブーケが包まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る