第12話 ティー・ブレイク
時は巻き戻ること少し、エヌが抑留室へと運ばれていったすぐ後。
少女を部屋へと連行していったフィッツは再び士官室へと戻ってきており、見るからに不機嫌そうな上官へ半ば義務感でこれからの予定を確認しようとする。
「主人よ、本当にあの子も解体なさるのですか?」
「情が湧いたかフィッツ、欠陥品とはいえ見てくれも年もまだまだ未熟な少女だ」
珍しくコーヒーを飲むグレーは苦味に顔をしかめながら、チクリと彼に釘を刺した。
「いえ、全くもって。それにしてもエヌちゃんものすごい落ち込んでいるけど良いんですか?」
「良いも悪いもあるか。いつか知らねばならぬことだから、早いか遅いかの違いだろう?」
「なら構いませんが…」
「命令は言った通り、あれの拿捕だ。それ以上でもそれ以下でもない。分かったら無駄口を叩くな」
グレーはそう言いながら、机に一丁の拳銃を放り出す。豪華な金細工のなされたそれを見た彼は少しだけ目を見張った。
「悔しいがアレに一番好かれているのはお前だ。だからこそ、エヌを見つけたら絆して背後から撃て」
「…機械破りの第五〇號弾頭ですか。シュメール大洪水の被害地域から抽出された呪いを込めたものですよね?」
「私とて素手で触れればひとたまりも無い、人造機械たちへの激毒に等しいものだ」
グレーは手袋越しに拳銃を摘むと、ひょいとフィッツに投げ渡す。
「間違っても情けなんて掛けるなよ。お前なら信用できるが一応、な」
「そんな風に人に優しくなれるほど、僕の無鉄砲な時代は終わりましたよ。それより…」
「いや、言わんでいい。それよそろそろ残業の時間だぞ。どこかにしっかり捕まっておけ」
その言葉の直後、戦艦が爆音と共に重く揺さぶられる。
艦内を敵襲を知らせるブザーがけたたましく響く中、伝令の兵が士官室に飛び込んできた。
「艦長!正体不明の地対空砲撃です!ですが敵軍団の補足は未だ出来ておらず現在調査中で」
「1人だ」
「ハッ…?それはどういう…?」
「言葉通り敵は1人、執着甚だしい女だ。いや、もうすぐ2人になるかな?」
グレーが痛快そうな表情を浮かべながら、陣頭指揮を行う司令官室へ歩みを進める。
奇しくも空中戦艦ライミントン、未明のロンドン市街上空を抜ける航路での出来事だった。
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