第15話 米原少佐こと夜辺 集

 早々と帰宅した生徒達がいない校舎を集はひた歩きする。


 教室は一階、校長室は三階と息を切らしつつも階段を上がった。三階が見え始め荒い呼吸を整え、いざ校長室のへ前に立つ。びっちりと着こなされたスーツ姿の男性が立ち並ぶ校長室前に手の震えを抑えノックを二回した。


 「どうぞ」との入室許可もおり入室するなり校長席で足を組む舞先生が目に入る。偉そうに足を組んだ舞先生の第一声は 「米原少尉」で集は瞬時に敬礼をとる。


「なぜ呼ばれたかわからんこともあるまい。ページ0対人専用能力者、米原少尉として君に話がある」

「なんでしょうか」手をおろし両腕を腰に隠す。

「自習期間での君の行動は見させてもらった。チームも大分まとまりテストを抜けることは容易だろう。だが君はルールを破った。自覚はあるかね」

「特には。自分ができる規制内でサポートに徹したつもりであります」

「サポートとはチームの向上のことを指しているのか。それも今回呼びつけた一件に含まれる個人兵器として対策情報の露見および絶対値の書き換えのことか。業務範囲を逸脱している自覚はないと?」

「ありません。いずれ知られることであり、対策の打ちようもあると感じております」

「向上心は認めよう。だが他者の増幅は君の取り扱いとして禁止事項に該当するはずだ」


 返す言葉も見つからず集は唇を噛む。険悪なムードを破るようにカーテンがなびき窓から現れたのは姉である陽の姿だった。


「これは大佐。どういった用件でこちらへ」


 態度を改めるように舞先生は足を崩す。


 なぜ水無月 陽が大佐なのかは一年前に遡る話だ。実の姉を亡くし身寄りをない夜辺 集を引き取ったのが現在大佐の地位に座る彼女である。無段で敵地に乗り込んだ集の処遇としてページ0を用意した本人である。


「中佐のあなたには関係ありません。仕事が終わったので弟のおせっかいをしに寄っただけですよ」

「義理の弟に情けを。軍備が乱れます。情に流され処罰保留はいかがなものかと」

 窓枠から離れた陽は集の肩へ腕を回す。

「私からも一言言わせていただきたい。彼の行いは許容範囲内だと思われます」

「なぜ?」


  切り返す舞先生の険しい顔など、ものともしない陽は無表情だった。


「大佐相当にのみが把握していることです。彼には引き取った際に心臓に条件発動式のマナコードを埋め込んであります。十五項目の制限が彼の行動を抑止してます。その中には生命の蘇生。絶対値の書き換え。継続する増幅行為など彼の行動には生死にまつわる規約が複数刻まれていますので」


「彼の能力は一個人がもつには法的にグレーゾーンと思われますが」

「条件式マナコードには項目に該当する事象改変が行われた際、死へ直結する仕組みが織り込んでます。彼がチームに行った増幅効果は精神面で影響を与えたものであり絶対値の書き換えは行っていないと断言できます。経験を与えることは許容範囲とみなされます。あなたもご存じでしょう。米原少尉のチームメイトはマナコードを持たないページ0が数人所属している。ならいっそのこと方向性を誤る前に可能性を見出させ、脅威性を取り除くのも米原少尉の職務の一環だと上からの許可も下りています。学校側としては彼を軍事転移といいつつ歯車にする予定だったのでしょうが。米原少尉の弱点を克服する上で手助けできる精鋭として活躍してくれることを願って私からDチームの方へアドバイスをしたのです」


「あなたの入れ知恵でしたか」

「少佐には抑止力として機能に期待しての判断です。あなたは一講師として見守っていればいい」

「はい…」

「壁に耳ありといいますし話はこの辺で。教師として弟を頼みますよ」


 窓へ歩み寄った陽は視界から消え去り、舞先生は呼吸を整えていた。


「上官命令とあっては仕方がない。今回の件は保留とする。それと一点」


 すっと差し出された両手には三つ折りの紙と小型ケースが握られている。受け取るなり三つ折りの手紙に目を通していく。

 大まかに掛かれた地図と指令が書かれた先に奴隷商人の排除と一文書かれているだけだった。


「奴隷なんて現代社会にないのでは?」

「詳しく説明を入れるなら可変する絶対値を持った日本人の売買だ。先週頭から毎日のように拉致事件が続いているのは知っているな?」


 叱られることを考慮に入れた上で「存じ上げませんでした」と返事をした集は背筋を伸ばす。


「報告書に目を通せとあれほど」


 上官ぶった話は続き本題に入るまでに数十分続いた。

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