第42話 ラブコメにあるまじき一撃だからやめよう。
「んじゃ、おつかれー!」
耀司の音頭を合図に、紙コップで乾杯する。
なかなか青春っぽくていい……なんて余韻に浸っていると、隣に座ったすばるが俺の前にポテトをそっと置く。
お布施のつもりだろうか。それならそれで、せめてMサイズにしてくれ。
「蒼真、今回は助かったのです。よかったら次もお願いするのです」
「そりゃ構わんが……普段から勉強はしとけよ? あと、青天目な」
やり取りを見た吉永さんが思わず吹き出す。
「前から思ってたけどさ……。お父さんかっての! ウケる!」
「オレも同感。何ていうかさ、もうちょっとあんだろ。距離感」
陽キャ二人に笑われて、思わず顔をしかめる。
「これが……『パパみ』なのです……!?」
「そんな言葉はない」
バブみの類義語を創造してはいけない。
しかし、ズルだのなんだの言っていたのに現金な奴だ。
「そんなに効果あるなら、アタシも受けたかったな。『青天目ゼミ』」
妙ちきりんな名称をつけるのは止そう。
「あ、ここゼミでやったところだ! ……って、なるか!」
「なるのです」
俺のノリツッコミに深く頷いたすばるを見て、またもや爆笑する吉永さん。
テスト明けのテンションだろうか。いや、確かにはしゃぎたい気持ちはわかる。
灰色の中学生活と対比すれば、現状は実にカラフルで……驚きに満ちている。
「蒼真どん、蒼真どん……どうしてオレっちを誘ってくれなかったんだい……」
「誘ったが来なかったじゃないか。それに、日月は
あの学習法は元勇者で以前に魔力パスを繋いだからこその手法だ。
まあ、『
元勇者のすばるであれだけの負担があったのだから、耀司に流し込めばパンクして頭が
「……ん?」
何故みんなして俺を見ているんだ?
耀司は何やらニヤニヤしているし、吉永さんは慈愛溢れた目で俺を見るし、麻生さんはなんだか少し驚いた顔だ。
それでもって、すばるはなんだか少し赤い顔で俺を睨んでいる。
「どうした?」
「青天目君って、天然なんだね……」
麻生さんが、なんだか脱力した様子で口を開く。
まぁ、人工ではないけど……いや、天然ってほどでもないだろう。
この間、相模と河内に「空気読めない」って言われたけども!
「そう言えば、海に行く予定なんだよね?」
いたたまれない空気を察してか、麻生さんが話題を変えてくれる。
全力で乗っかるしかない。
「ああ、夏休みに海に行く予定があってさ」
「そそ、オレの田舎でリゾートバイト。急にリゾート化して人手が足りないってんで、体力のある高校生をこき使おうってことらしくてさ」
「へぇ、いいじゃん。リゾートバイトなんてちょっと憧れるかも。アタシはまだバイトとか禁止だからできないんだけどさ……」
少し寂し気にする吉永さん。
病気は完全に治したはずだが、経過観察中であるらしい。
まったく、医者というのは疑り深い連中だ。
「よかったら、遊びに──……」
途中まで笑顔だった耀司の口が止まった。
視線の先は俺の背後。そして、ちらりと俺に目配せ。
……問題ない、気付いてはいる。
「よー、楽しそうじゃねーか? おれらも混ぜてくれよ」
振り返ると、相模と河内……あと、知らない人。
なかなかステレオタイプなバッドボーイだ。
浅黒く焼いた肌に金髪、趣味の悪い金のアクセ。
ピアスは耳と鼻にいくつか。太く筋肉質な腕にはよくわからない
なかなか、気合が入ってるじゃないか。
相模と河内もこのくらいやれば、キャラクター性が確立するのにな。
「調子乗ってるつってたの、こいつらかよ?」
「ッス」
男はニヤニヤしながら俺達を見る。
「お、ちょうど
近づく男と相模たちに麻生さんと吉永さんが体を強張らせる。
「やめてくれませんかね。怖がってますよ」
どう穏便に場を収めようと思案しているうちに、耀司が引きつった笑いで告げる。
動きを止めた男はジロリと耀司を睨み、ずかずかと歩いていき……イスごと耀司を引き倒した。
「なんだテメェ? ナマ言ってんじゃねぇぞ?」
「暴力反対……なんつって。ぐっ」
男は半笑いの耀司を掴み上げ、容赦なく殴りつける。
耀司のうめき声が聞こえたかどうか、という瞬間……俺とすばるは同時に、そして超高速で男の前に踏み込んだ。
それでもって、男に撃ち込まれるはずだったすばるの拳を左手で止めた。
直撃そのものはしなかったものの、完全に止めきれずに発生した衝撃波が男の身体を打ち据える。
強烈に脳を含む内臓を揺すられた男は、その場で色々な液体を放出しながらどさりと崩れ落ちた。
……ま、死んでなきゃセーフだろ。
「すばる、抑えろ。殺すな」
息を荒くするすばるを右手で抱き込んで、留める。
くそ。こんな時じゃなきゃ、役得と決め込んで堪能してやるんだが。
ちなみに左手は今ので粉砕骨折&神経断裂している。
「おい、耀司。大丈夫か?」
「いってぇ……」
だろうな。かなり強烈に殴られていたし。
あとでこっそり回復魔法を飛ばしてやるから少し待ってろ。
「な、なんだよ! 見せもんじゃねーぞ!」
「どけよ! おら!」
背後では逃げようとしている相模と河内が、周囲の野次馬にスマホで撮影されていた。
「よーし、よし。落ち着け。な?」
「わたしはとても落ち着いているので離してほしいのです」
「ホントか? トドメの一撃、しないか?」
「……」
おいおい、怖えーな!
そこは、YESと答えろよ!
まったく、相模たちといい、この男といい自殺行為はほどほどにしてほしい。
すばるもすばるだ。怒ったからって聖撃込みの殺人パンチを繰り出すもんじゃない。
楽しいフードコートがPTSDに満ちた
「テスト明けに警察沙汰とかシャレにならねぇ。行こうぜ」
すばるを抱きかかえたまま「怪我人とおりまーす」と声を上げると、人垣がすぱっと割れる。
その間を俺達は、そそくさと通り抜けた。
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