第41話 ちなみに自分の水着は到着5分で決まった。
「蒼真、これとこれ……どっちがいいとのです?」
西門高校の最寄駅から一駅先の場所にあるショッピングモール。
その特設会場に、俺達はいる。
普段は絵画展や物産展が開催されている催事場全体が、今日は水着や浮き輪などであふれていて、なかなかの活気だ。
「俺に聞くなよ。吉永さんにでも聞いたらどうだ」
「その結果、この二つなのです」
左手には白と水色の少し際どいビキニ、右手にはデニムのショートパンツのセパレート。
思わず着ているところを想像しながら、視線を右往左往とさせてしまう。
「ていうか、俺に判断をゆだねるなよ……」
「強いて言えばぁ~?」
「ショーパンの奴」
背後からの急な声に、思わず答える。
「だってさ、すばる」
「では、こっちにするのです」
上機嫌で試着室に去っていくすばるの背中を見送りつつ、溜息をつくと背後の人影が正面に回り込んできた。
「んでんで? ナバちゃんの本音は?」
「観賞用ならビキニ。……って、何言わせんだ。だいたい、夏休みは俺もフォローできないんだぞ? 迂闊な格好で海に行っていたいけな犠牲者が出たらどうする」
本人は無自覚で、俺も時々忘れそうになるが……あの元勇者殿は
照りつける太陽のもと、一夏の出会いに浮かれてすばるに声をかけた陽キャ(マリンタイプ)が、海に向けて粉砕爆散する可能性は減らしておきたい。
海洋汚染は昨今深刻な問題だからな。
「そんなこと言っちゃう?」
「いろいろと知ってるんだろ? ヒヤリハットですまない事故も起きてるんじゃないのか?」
「まあねー」
苦笑して吉永さんが笑う。
すばると一緒にいれば、そういうこともあるだろうさ。
「んで、アタシにはどれが似合うカンジ?」
「んんっ!?」
何だって俺に聞くんだ。
それにしても、どれも布面積が小さすぎやしないだろうか。
こんなもので、吉永さんのボディをカバーしきれるのか?
「あ、エッチな想像をしたね?」
「からかうのはやめよう」
どうやら、俺をからかうためにわざと持ってきたらしい。
「強いて言えば~?」
「またそれか……。強いて言えば、その赤い花のやつ」
「んじゃ、アタシはこれにしよっと。後ろがつかえてるしねぇー」
後ろ?
吉永さんが身をひるがえすと、そこには申し訳なさそうにする
まさか、麻生さんまで?
「私も、いいかな?」
「もちろん」
なんだか、恥ずかし気にする麻生さんに思わず食い気味に即答してしまった。
示された水着は二着。
カラフルなフリルビキニと、落ち着いた色のパレオ付き。
正直、どちらも似合いそうだ。
意外とグラマラスな麻生さんなので、どちらでも充分に可愛くなると思うが……!
「うーむ」
「あはは、そんなに真剣にならなくていいよ。青天目君なら、どっちを着た私と遊びたい?」
不意な質問にたじろぎつつも、波打ち際で麻生さんと遊ぶ自分を妄想する。
「こっち、かな」
「似合う?」
フリルビキニを身体に合わせてみせる麻生さんに思わずドキっとしつつも、頷く。
「なら、これにするよ。ありがとうね! 青天目君」
「どういたし、まして?」
半ばしどろもどろに返しながら、大きく息を吐きだす。
緊張する選択の連続だった。
これなら魔王軍を指揮して王城攻めをしている方がまだ気楽だ。
「よっ、お疲れさん」
「耀司、見てたなら助けてくれよ」
「いやー、面白いもん見せてもらったぜ。これはひと夏の体験、イケちゃんじゃね?」
バカか、耀司。
ひと夏の体験は無責任だから楽しめるんだよ。
新学期始まって気まずい思いとかしたくないからな。
大体……俺があの三人と何とかなるわけないだろ。
「んでんで? あの三人だと、誰が本命よ?」
「さあな。みんな可愛いでいいんじゃないのか」
「おいおい、見てみたくねーの? 自分で選んだ水着を纏った女の子たちをよ……!」
まぁ、妄想するだけならタダだろうが……そんな状況になることはまずないだろう。
そこに到達できる未来を想像できない。
「どの子もイケっと思うんだけどなぁ」
「ああ、だろうな」
「だろ?」
「水着女子を見たい人生だった」
耀司が不思議そうな顔で俺を見る。
「話、嚙み合ってなくね?」
「え? 噛み合ってるだろ?」
耀司と顔を見合わせていると、女子勢が帰ってきた。
三人とも満足顔で実に結構なことだ。
「んじゃ、打ち上げ行っときますか」
「どこにする?」
「フードコートで良くね? 多少騒いだって大丈夫だしよ」
ショッピングモールには飲食店も多くあるが、確かにフードコートなら気軽だし……お値段も控えめだ。
それに学生服の高校生がいたって問題にはならないだろう。
「異論ある人?」
念のため、かしまし娘たちに確認を取るが、むしろどの店で何を買うかでワイワイしている。杞憂だったようだ。
しかし、テスト明けに友人と打ち上げ。しかも女子同伴。
こんな青春っぽいムーブがあっていいんだろうか。
何か、恐ろしいことが待ち受けてるんじゃないだろうな。
「蒼真、顔にネガティブが浮き上がっているのです」
「なにそれこわい」
「テスト勉強を手伝ってもらったお礼に、蒼真の分はわたしが持つのです!」
そう笑って、マジックテープの財布を開けるすばる。
本当に大丈夫か……?
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