第28話 逃した魚はでかいけど、すり抜けた魚もでかい。
五月半ば。
ありがたいことに天気は晴れ。気温もまずまずだ。
……まぁ、昨日楽しみすぎて<
日月にはヒミツな?
またズルだのなんだのと言われてはかなわん。
日本最大級の映画系テーマパーク『ウニバーサル・スタジオ』。
その入場ゲート前は、西門高校の制服の人間でごった返している。
「おう、蒼真」
「耀司か、おはよう」
制服を着崩した、実にチャラ男然とした耀司が軽い様子で俺に挨拶してくる。
「んで、マジでソロんの?」
「まぁな」
「高校デビューはどうしたんだよ?」
「最近気が付いたんだが……実は俺、陽キャに混じると死ぬ病なんだと思う」
「いや、奇病すぎんだろ」
少しばかり話してると、見知らぬ女子生徒が耀司を呼んだ。
彼女が例の沢木さんとやらか。スラっとしていて、かわいいというよりも美人な女子だな。
まったくもって羨ましいことだ、この女誑しめ。
ウォータースライダーで必要以上にびしょ濡れになる呪いをかけてやる。
「んじゃ、また後でな!」
「おうよ」
女子と腕を組んで去る耀司に軽く手を振って、くるりと周囲を見る。
ほとんどがグループで回るようだ。
中には、耀司のようにカップルで回るそぶりを見せる者たちもいる。
妬ましくなんかないんだからね!
……などと、開園を待ってぼんやりしている俺を、聞きなれた声が呼んだ。
「蒼真!」
「
「急用で休むそうなのです。それで、良かったらなのですけど一緒に──……」
「青天目君」
日月の言葉が終わる前に、またも誰かに背後から声を掛けられた。
俺の背中をとるとはなかなかの手練れと見える。
「あれ、麻生さん?」
振り返ると麻生さんが、立っていた。
今日もメガネに三つ編みでバッチリ決まっていて実にステキだ。
いや、ちょっといつもよりふんわりした雰囲気か?
「どうかした? 出席点呼ならさっき済ませたけど」
「ううん、そうじゃなくて。よかったら、今日……一緒に回ってくれないかな?」
「はい?」
まさかと思うが、麻生さんもあぶれたのだろうか。
いや、俺はあぶれたわけじゃない。狙って一人でいるんだ。
いいね?
しかし、麻生さんをハブるなんて、クラスの連中は何をしているんだ。
……いや、待てよ?
「それなら、日月と二人で回ったらどうだ? 知らない仲でもあるまいし、女子同士の方が楽しめるだろ?」
我ながら妙案とドヤったが、日月も麻生さんも微妙な顔をして俺を見た。
さて、何か変なことでも言っただろうか?
「違うの、青天目君。私は青天目君と一緒に回りたくて誘ってるのよ?」
「俺と?」
俺を誘ってどうしようってんだ、麻生さんは。
ウニバーサルの超効率的周回に興味でもあるんだろうか?
「どう、かな?」
少しもじもじとした麻生さんが大変かわいい。
これはデートのお誘いと言っても過言ではないのでは?
ついに……ついに、俺にも高校生らしい青春イベントがきた!
……が、ちょっとばかりタイミングが悪かった。
後ろ手に【念動力】を発動させて、立ち去ろうとする日月を足止めする。
「わるい、麻生さん。先約があるんだ」
「うん……そっか。じゃ、またね?」
困ったように笑った麻生さんが、小走りで人混みに消える。
さようなら、俺の青春フラグ。
次はなんのトラブルもない時に訪れてくれ……。
「そ、蒼真! 早く追いかけるのです!」
「いいんだよ。ほら、開園だ。最高率でウニバーサルを楽しむんだからな、俺は。ヘバるなよ」
吉永さんがいないなら、俺がフォローに回るしかあるまい。
何か恐ろしいポカをやらかさないとも限らないし、こいつは無自覚に目立つ。
世界全国津々浦々から老若男女善悪問わずに人が集まる場所だ。
一人で放り出せばトラブルになる可能性は高い。
……いや、絶対なる。
麻生さんとウニバーサルを回るというのはデートみたいで楽しかったろうが、この状態では、どうせ気になって楽しめやしなかった。
それに実際のところは耀司あたりが気を回して、麻生さんに俺のぼっち回避を頼んだというのが真実に違いない。
まったく、
……はぁ、それでも麻生さんと二人っきりは惜しいことをしたか。
ま、落ち込んでも仕方ないないだろう。
日月と二人も悪くはない。なんだかんだと、こいつはこいつで気楽ではあるしな。
よく考えたら耀司の次くらいに友達してるんじゃないだろうか?
「どうしたのです?」
「いいや、すばると二人も悪くないと思っただけだ」
俺の言葉に、すばるが不思議な顔をする。
「なんだ?」
「名前を呼ばれたのです」
「もう周りにウチの生徒はいないしな。気楽にいこう」
「……はいなのです」
満面の笑みですばるが頷く。
良き良き。そのようにしていれば、
「さて、まずは最奥へ向かうぞ」
「手前ではないのです?」
「そこが狙い目だ。無計画に手前のアトラクションを物色している連中をぶっこ抜いて、一番奥の『タランチュラマン』ライドから攻める。そうすれば『ダイナソースプラッシュ』、『サメクルーズ』にスムーズに乗り込める。予定通りに行けば『ワールドオブウォーター』の午前ショーが見れるだろう」
早口に地図を指して見せる。
「これを一人で行くつもりだったのです?」
「そうだが?」
「ドン引きなのです……」
あれ?
すばる、どうしてそんな目で俺を見るんだ?
完璧でパーフェクトなプランだというのに。
「全くダメなのです。蒼真はわかってないのです」
「何がだ?」
首をかしげる俺の手を、すばるが引っ張る。
目指す先は、テーマパーク特有の妙に高いスナックを販売する露店。
チュロスが食べたいのか? すばる。
「お、おい……」
「今日一日、蒼真は魔法もスキルも禁止なのです」
「なん、だ……と……!?」
「代わりに私も使わないのです」
「ふむ?」
チュロスを一つ俺に差し出して、すばるが笑う。
「蒼真のプランはダメダメなのです。普通の女子ならドン引き&ドン引きなのです!」
「バカな……ッ 完璧なプランだろう!?」
やれやれといった様子で、すばるが首を振る。
俺のウニバーサルを完璧に遊び尽くすプランにどんな瑕疵があるというんだ。
「デートをするのです」
「誰と?」
「わたしとなのです」
目の前の残念美少女が、ついに壊れた。
原因はたぶんはしゃぎ過ぎだと思う。
馬鹿を治すのに治癒魔法は有効だろうか?
「普通の高校生として……今日一日ウニバーサル・デートを敢行するのです!」
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