第27話 これで意外と勉強はきちんとするタイプなんだ。
色々あったバーベキュー企画が無事終わり、そしてゴールデンウィークも終わったその翌週。
だらだらと通学する俺を、何者かが背後から呼ぶ。
「蒼真! おはようなのです」
「おはようさん」
朝からテンション高めの日月。
それに対してふらふらと歩く俺。
昨日、気晴らしのつもりで開いた小説サイトで、ふと好みのものを発見してしまい……うっかり朝まで読みふけってしまった。
「体調不良なのです?」
「徹夜明けなんだよ」
「テスト中とはいえ徹夜はいけないのです。そんなに残念な学力なのです?」
「そこそこにはいい──いざとなれば<
<
本来はパスワードが設定された魔法の箱を開けたり、封印された扉を突破するのに使う魔法である。……というか、こんな魔法があるから神々はスフィンクスなんて魔法の獣を創り出す羽目になったわけだが。
「ズルなのです……!」
「持てる力を発揮して試験に当たるのはズルではないだろう」
「その発想が魔王なのです。正々堂々と学力で勝負するのです!」
「別にそれでも余裕なんだけどな」
益体の無い言い争いをしながら、高校へ向かう。
バーベキュー以降、日月はさらに俺に気安くなってしまった。
正直言って、嬉しいという気持ちはある。
……が、あまりいい傾向ではないな。
「蒼真、今日は何か予定があるのです?」
「何か用事か?」
「テスト明けに二人で打ち上げなどどうかと思ったのですが……」
これだよ。
前世の事を気兼ねなく話せるのが楽しいというのはよくわかる。
あのキャンプの晩……俺だって、日月と寝落ちするまで昔話に花を咲かせたのだから。
だが、必要以上に俺と関わりすぎるべきではない。
……それをはっきり口にして言うのが、どうにも憚られるのは俺がヘタレだということに他ならないのだろうが。
「吉永さんと行って来いよ。俺はバイトと教習所がある」
がっかりとした様子を隠そうともしない日月に心苦しく思うが、距離感は重要だ。
「むぅ……わかったのです。では、テスト最終日、お互い頑張るのです」
「ああ。またな」
早足で校門に消える日月を見送って、小さくため息をつく。
その俺の肩を、誰かがポンと叩いた。
「おいおい、ドライすぎんだろ。もうちょっと優しくしてやれよ、カレシ」
「誰が彼氏だ。いい加減にしないと、テスト中に腹痛になる呪いをかけるぞ」
「テントの中で一夜を共にしたのにかよ?」
「な……ッ」
誰にも見られていないと思ったのに、よりにもよって
仕方ない、テスト前だが魔法を使って頭をクチュクチュさせてもらうか。
「期待されるようなことは何もなかったぞ。昔の話をしただけだ」
「それはそれで問題だろ。あんな美少女と一晩開放的な場所にいて何もねぇとか……魔王レグナは高校生としての自覚足りないんじゃね?」
全国の高校生に謝れ。
みんなお前みたいに脳みそが下半身と直結してるわけじゃないんだぞ。
「これだから魔王レグナは……」
「よし、耀司。テストは諦めろ」
腹痛の魔法を耀司に飛ばしてやって、俺は話を切り上げた。
* * *
「よし、終わった」
「ああ……終わった……何もかも……」
テスト中、何度もトイレに立っていた耀司が机に突っ伏している。
周囲にも似たような影がちらほら。
ちなみに俺は、結局魔法を使わずにテストを終えた。
「手ごたえはどうだ、耀司」
「暖簾に喉越し?」
「腕を押せよ……。まぁ、結果は見えてるな」
「うるせぇ。まあ、いいや! さぁ、来週はウニバーサルだ!」
切り替えの早いやつだ。
まぁ、ノリで生きてる人間は、テスト結果になどクヨクヨしていられないのだろう。
耀司のテンションにつられたのか、教室がざわつき始める。
平日にウニバーサル・スタジオで遊べるというのは、意外と反響が大きかったようで日月の選択は好意的に受け入れられたようだ。
しかも、課外活動なので入園料は学校側が負担してくれる。
なかなかの大盤振る舞いだ。
「D組の沢木さんと一緒に回る約束してんだよ。ウニバーサルとはいいチョイスだぜ、蒼真」
「リア充め、爆発するがいい」
「お前も日月ちゃんと回ればいいだろ」
何でそうなる。
「そういうのじゃないって何度も説明したろ。それに吉永さんと回るって言ってたぞ?」
「蒼真はどうすんだ?」
「ソロだ。最効率でアトラクションを制覇する……!」
ウニバーサル・スタジオは広大だ。
平日とはいえ、海外やゴールデンウィークの振替えで遊びに来る客も多い。
綿密な計画を立てて、めぼしいアトラクションを効率よく楽しむつもりだ。
事前に調べたところ、『ソロ用ゲート』というのもあるらしい。
群れる陽キャどものニッチをついて、俺は初めてのウニバーサルを思う存分遊び尽くしてくれるわ! ハハハハ!
……お、今のはなかなか魔王っぽかったな。
「そういうところだぞ、魔王レグナ。女子を誘って、とかないのかよ?」
「バカめ。楽しいレクリエーションに俺が紛れたところで異物感しかないだろ。それに、女子と一緒とか緊張してウニバーサルが楽しめなかったらどうする!」
「
「DTの何が悪い!」
周囲がざわつく。
これは……やらかしたか……?
「くっ、殺せ!」
「何でだよ」
周囲からは憐憫半分、笑い半分といった視線が向けられている。
くそ……耀司のヤツに嵌められた!
当日、ずっと背中が痒くなる呪いをかけてやる……!
あ、ダメだ。
普通に女子に掻いてもらったりしそう、コイツ。
一日中ヘンな匂いが漂う呪いにしよう。
ウニバーサル・デートなんてうらやまけしからんしな。
「とにかく、俺はソロだ。いいね?」
「あっ、ハイ」
笑いをこらえるのに必死な耀司を置いて、俺はテスト終了後の教室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます