第25話 この人数が俺のキャパギリギリです。

 一通りの調理を終え、バーベキューもだいぶ盛り上がってきたところで、俺は少し離れたテーブルベンチに座って一息つく。

 ホイル焼きも、デザートも全部置いてきた。

 これで、跳んで火に入る陽キャどもはしばらく食うに困るまい。

 

 ……とはいえ、少ししたら今度は片付けが必要だ。


 食器類は紙製のものを利用したが、調理器具は早々に片付けておかねば油や焦げで面倒なことになるだろう。

 どうにもノリでバーベキューといったらしく、おそらく後始末の事はあまり考えていなさそうだ。

 料理経験者がいるとはいえ、洗い物は中々の量だ。

 おそらく途中でグダつくことになる。


 陽キャと書いて無計画と読むんだろか……。

 世の中、『ノリ』とやらでは解決できないことだってあるんだぞ。


「蒼真、何をしているのです?」

「休憩中だ」


 先ほどからこちらを伺うように付近をちょこちょことしていたすばるが、俺を覗き込む。

 顔色はいいし、動きも妙に機敏だ。

 よし……どうやら、魔力枯渇の影響はもうなさそうだな。


「これ、持ってきたのです」

「おお、ありがとうな」


 隣にすとんと座ったすばるが差し出した紙皿には、肉と野菜がてんこ盛りになっている。

 一息ついてから取りに行こうと思っていたが、なかなか気のまわることだ。

 やはり『勇者プレセア』と『日月 昴』では、少し違うな。


「……みんなのところに行かないのです?」

「陰キャに無理をおっしゃる。それに、これ以上疲れたら後片付けができなさそうだ」

「全部焚火に放り込めばいいのです」

「勇者流の豪快な片付け方はやめよう?」


 全てを灰燼に帰すとか、むしろ魔王サイドの言葉だからね?

 だいたい、俺のような人見知りがあの輪に入っていくのは難しい。

 アライメントが違う……!


「あ、昴。ナバちゃんと何してんの?」

「ああ、吉永さん。……ってナバちゃん?」


 初めて耳にする略称だ。


青天目ナバタメだから、ナバちゃん。ソウちゃんのよかった?」

「勘弁してくれ」


 見た目ギャルの吉永さんが、ごく自然に俺の隣に腰を下ろす。

 美少女に挟まれて両手に花と喜ぶべきなのだろうが、どうにも落ち着かなさの方が強い。


「どうしたのです? 真理」

「ナバちゃんとちょっと話したくてさー」

「俺と?」

「高校入ってから昴がずっとナバちゃんの話すっからさー」


 快活に笑う吉永さんが興味津々といった様子で俺を見る。


「真理、それはオフレコなのです!」

「いいじゃんー。それに……全部は話してないっしょ?」


 吉永さんが鋭いのか、日月がヘッポコなのか。

 うん、おそらく後者だな。

 すばるの事だ。これまでに『力』を見られたのは、一度や二度ではきかないはずだ。

 下手をすれば、高校に入ってからの短い期間で、すばるが俺の素性を喋ってしまってる可能性すらある。


「お、両手に花か? 蒼真」

「なになに? 私も聞きたいな」


 耀司と麻生さんが、手に手に皿をもってやってくる。

 そのすべてが、どうやら俺のものであるらしい。

 ありがたいことだが食いきれるだろうか。


「いや、前世の話を少々……?」

「なんだよ、またか魔王レグナ」


 耀司の茶化す声に、軽く笑って見せる。

 そう、これでいい。

 現代日本を生きる俺達にとって、過去の話など笑い話にしかならないのだ。


「そういや、噂では聞いてたけど……蒼真の設定話って真面目に聞いた事ねぇな」

「真面目に聞く話じゃないからな。その内、ラノベでも書くか」

「うわ、向いてそうで笑う。でも、ナバちゃんて思ってたよりも話しやすいね」


 吉永さんが、微妙に距離を詰めてくる。

 逃げようと思ったら、何故か日月まで詰めてきた。

 なんだ、この魔王包囲網は。王国騎士団でもここまで俺を拘束できなかったぞ。


「おいおい、いたいけな陰キャをからかうと、食後のデザートが減るぞ?」

「んー……アタシ的にはアリ寄りのアリだけどなー」


 少しばかり真面目そうな顔で吉永さんが、俺を覗き込む。

 あまり顔を近づけないでほしい。恥ずかしい。


「お、わかる? 吉永ちゃん」

「素材は悪くないっしょ。イケメンってかヤサメン? ちょい安心感みたいな?」

「不愛想で無節操なのです」


 すばるめ、ぶった切りやがった。


「そんでさ、昴。実際どうなのよ?」

「ほぇ?」

「あ、それ私も聞きたいな。幼馴染なんでしょ?」


 麻生さん、その話題はさっき終わったのでは?

 俺と日月とでは別腹なんだろうか。


「きっと、友人にはなれてるはずなのです」

「……友人?」


 吉永さんと麻生さんが、虚を突かれたような不思議な顔をしている。


「でも、昴。よくナバちゃんの話してるじゃん?」

「そうなのです? 話題に事欠かない男なので仕方ないのです」


 知らないところで俺を話題にあげるのはやめよう。

 どんな恐ろしい情報が漏洩するかわかったもんじゃない。


「ねぇ、どういう幼馴染なの?」

「異世界レムシータで、俺は魔王、そして日月は勇者だったんだ」

「青天目君、誤魔化し方が雑よ?」

「あ、はい」


 再び真実と神秘が闇に葬られたところでどう説明したものか。


「麻生さん、そこは突っ込まないでおこうぜ?」

「あはは、そうね。それで……二人はお付き合いしてるのかな?」


 麻生さんもぶっこんでくるなぁ。

 なんだろう、開放的な雰囲気に酔ってるのか?


「バカを言っちゃいけないな」


 そうとも。

 これからすばるが『普通の女の子』として過ごすのに、俺はまったくもって不要の存在だ。

 間違っても隣に立って、一緒に歩くことなどあってはいけない。

 背中を押したり、前を歩いて露払いをすることはあっても、すばるの隣に立つ奴は『普通の男の子』でなくてはすばるの願いはかなわないのだから。


「こんなにかわいいのに?」

「ガワはいいかもしれないが、中身がな……。もう少しお淑やかで料理ができて胸が大きな眼鏡っ子がいい。あとはメイド服が似合えば最高だ」

「そういうところだぞ、魔王レグナ」

「ドン引きなのです……!」


 正直に言ってはいけなかったらしい。

 いいじゃないか、メイド服。あれは人類が作り上げた至高の芸術品の一つだと思う。


「さて、そろそろ片付けに取り掛かるか。ああ、みんなはまだ楽しんでてくれよ」

「おいおい、蒼真。まだやってるとこだぜ?」

「片付くところから片付けないとキャパオーバーだ。なに、迷惑かけた分は働く。陽キャは陽キャらしくウェイウェイ言ってろ」

「蒼真、お前のオレらに対する偏見は何なんだ……」


 これ以上の失言を避けるべく、俺は四人を残してテーブルを後にした。

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