第24話 なんだって俺は口をすべらせたんだ。
「元魔王が料理なんて。こんな時、どんな顔をすればいいのです?」
「笑えばいいと思うよ。……ではなく、一般男子高校生だって料理くらいできる。んでもって、せっかく鎮火したんだから、あまり俺の傍をうろつくんじゃないよ」
ちょいちょいと手で払って小さく警告すると、一瞬怯んだような顔になった日月は吉永さん達がいる方へ小走りで去った。
どうにも元勇者殿は不注意が過ぎる。
「おいおい、冷たいじゃないのか? 蒼真」
野菜スティックを量産する俺に、耀司が小声で話しかけてくる。
「何がだ?」
「日月ちゃん、ヘコんでたぜ?」
なんだ、あれ……へこんだ顔か。
何もへこむことはあるまいに。
「魔王レグナ待望の青春チャンスなのに、フイにする気かよ?」
「日月とはそんなんじゃないんだよ。ホントに」
普通の高校生としての青春には憧れる。
そりゃ、俺だって浮かれて女の子と遊んだりしてみたい。
しかして、すばるはダメだ。どうやっても普通にもならないし、それは青春とはきっと違う。
すでに俺達は徹底的に恋愛とは違ってしまっている。
「そうか? イイ感じにみえんだけどな」
「それより、相模と河内はどうしたんだ?」
「ああ、あいつら? 普通に帰ってもらったけど?」
ニコリと笑う耀司の顔は、かつての腹心を想起させる悪い顔だ。
普段チャラい癖に、時々妙におっかないところがあるんだよな、コイツ。
「問題なかったらいいんだけどな」
「問題そのものをリムーブしてんだよ」
小さなため息をついた耀司が、俺の肩を軽く叩く。
人間に生まれ変わって良かったと思えることの一つがコイツだなんて、口が裂けても言えやしないが、胸の内で感謝はしておく。
魔王であったとき、畏怖や忠誠、恭順あるいは敵意や殺意を向けられることはままあっても、この友情というものはとんと理解できなかった。
人同士が群れるための詭弁だとすら思っていたのだ。
しかし、こうしてみると時に命まで投げうってそれに殉じたものの気持ちが少しわかる気もする。
損得なく、ただ対等にいてくれるということが、これほど心地よいとは思いもしなかった。
「……よし、できた。デザートにとりかかる。こっちのホイル焼きを持って行ってくれ。肉と一緒に網にのせときゃいいから」
「おいおい、お前もちゃんと参加しろよ?」
「ここの準備が終わったら、そうするよ。ほれ、主催者。俺にかまけてないで行ってこい」
「おうよ。手伝うことあったら、指示だしヨロってことで」
バーベキューコンロの方に目をやると、やいのやいのとしながら肉を食む同級生たちが見える。
日月も……ちゃんといるな。
よしよし、俺と一緒でコミュ障気味なんだからうまくやれよ。
「な・ば・た・め・君」
「おおう、びっくりした。麻生さん、どうかした?」
振り向くと、クラス委員長の麻生さんが笑顔で立っていた。
「ちゃんと戻って来たね?」
「強引に連れ戻されたとも言うけどね。気遣いは難しい」
「気遣いというよりも気にしいだよね?」
「なるほど」
自分が些か考えすぎるきらいがあるのはわかっている。
ただ、人間社会というのは思ったよりも複雑怪奇で、元魔王のコミュ障男子はどうしていいかわからなくなってしまうんだよな。
「それより。日月さんとは、どういう関係なのかな?」
「また、それか……」
「今、私に話しておけば、後からんみんなに詰め寄られなくて済むよ?」
出来上がった野菜スティックを一つまみして、小さくウィンクする麻生さん。
なかなかチャーミングだ。そうだな、恋愛をするならこういう娘がいいかもしれない。
麻生さん的には迷惑な話だろうけど。
「そうだなぁ。日月は、古い知り合いなんだ」
「幼馴染ってこと?」
「前世で──」
「中二病は中学卒業時に治療しておくべきよ?」
なるほど、神秘と真実はこうして闇に葬られていくのか。
「昔は仲が悪くてね。それこそ殺し合いをするくらいに」
「殺し合いって……大げさね」
大げさも何も実際、殺されてるんですけどね。
「それでそれで?」
「それだけだよ。高校に入って、偶然再会したんだ」
「素敵! 運命的ね」
その運命というヤツは、大抵ロクでもないことをしでかすんだ。
俺と日月の出会いは、お互いにとって幸運とは言えないだろう。
「それから?」
「お互いに過去の遺恨は忘れて、現在は友人関係を構築中だよ。みんなが思ってるような関係じゃない」
「あんなに仲がいいのに?」
「いいように見える?」
「見えるけど?」
疑問符の投げ合いは不毛だ。
少し黙って料理に集中する。
「私は恋愛に疎いけど、二人はいい感じに見えるんだけどなぁ」
「勘違いだよ。俺としては麻生さんともっと仲良くしたいね。はい、あがり」
野菜スティックとちょっとしたサラダ、それにマシュマロとチョコクッキーを使ったちょっとしたデザートこさえて机に出したところで、余計な口を滑らせたことに気が付く。
「あ……ごめん。ちょっと調子に乗った」
「あはは、びっくりしちゃった。思ったよりも話しやすいね、青天目君って」
少し顔を赤くした麻生さんが、何やら挙動不審な様子で料理を運んでいく。
……やっちまった。
陰キャが無理するもんじゃないな……。
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