第23話 「あーん」とかじゃないからな?
紆余曲折ありつつも何とかすばるに魔力を供給し終えた俺は、ソファの上でふにゃりとなっているすばるの頭をポンポンと撫でて立ち上がる。
「……よし、そのまま少し休んでろよ。落ち着いたら出てくるといい」
「そうさせてもらうのです」
そわそわとしつつ、俺はこの場を立ち去ることにする。
あまり長らくテントに留まっていれば、耀司あたりに怪しまれるかもしれないしな。
「蒼真」
「なんだ?」
「ありがとうなのです。……でも、後でお説教なのです。覚悟するのです」
「勘弁してくれ」
少し元気になったらしいすばるに苦笑を返して、俺はテントを出る。
それをやはり目ざとく発見した耀司が、手招きして俺を呼んだ。
「お、きたきた。日月ちゃんは大丈夫かよ?」
「ああ、軽い貧血みたいなもんだ。すぐによくなる」
俺の返事に笑った耀司は、特に追及することもなくうなずいた。
耀司なりに気を遣ってくれたのかもしれない。
「大事じゃなくてよかったぜ。さぁ、蒼真。きりきり働いてもらうぜ?」
「ああ、すまんな。何でも言ってくれ」
促されるまま、調理場へと向かう。
調理場では麻生さんや吉永さんをはじめとする女子勢が、やり切った顔で歓談している。
どうやらバーベキューの準備は終わったらしい。
「へい、シェフ。余り物の食材で適当に一品頼む」
「……って言ったって、これじゃあ作れるものは限られるぞ」
メインの料理はバーベキューだ。
すでに準備は出来上がっていて、肉やら野菜やらがトレーに並んでいる。
……なんだか見慣れない食材もあるが、見なかったことにしよう。
残った食材は……というか、なぜバーベキューで食材が余ってるんだろう?
あと魚介類がすごい余ってるのは何故だ。
まあ、いいや。
「野菜スティックと、ホイル焼きをいくつか、あとは……ちょっとしたデザートならできそうだ」
俺の言葉に周囲が「おお」とどよめき、耀司は何故かどや顔だ。
「何なんだ……?」
「いいか、蒼真。今時の若者っていうのはな、料理ができないんだ」
「今時の若者代表みたいな陽キャが言うと説得力が違うな?」
「アタシらって切るしかできないしねー」
吉永さんがカラカラと笑うと、それに合わせて周囲も笑う。
わりと笑い事じゃない気もするが、俺が役に立てる場面が残っているというのは、素直に喜ぶべきだろうか。
日月の分も頑張らせてもらおう。
「よし、じゃあこっちの準備はするから、みんなは始めててくれ。日月もじきに戻ってくるだろうし」
これが終わるまで待っていろと言うのも何なので、先に始めていてもらおう。
あの中に混じって肉の争奪戦というのも、俺の好みじゃないしな。
「オーケー! じゃあ、お前ら……バーベキュー始めちゃうぜぇ~!」
「おー!」
「イェァ!」
肉を焼くだけで盛り上がってしまう陽キャ集団に軽く苦笑しながら、追加料理を仕上げるべく包丁を掴む。
「よし、やるか」
包丁を握ったところで、日月が調理場に姿を見せた。
顔色はいい。魔力枯渇からは完全に抜けられたようだ。
そして俺の方を見て、目を見開く。
「お、日月。調子どう……」
「レグナが刃物を持っているのです!」
レグナ言うな。
あと、刃物と言っても『全てを屠り滅ぼす魔王剣ガラティン』とかじゃないから、勇者系の殺気を派手に撒き散らすのはやめろ。
「……レグナ?」
「レグナってなんだ……?」
「青天目君って外国の人?」
ほら、こうなる。
一瞬で俺の高校デビューリカバリー計画を見事に破綻させてくれたな!
きたない、さすが勇者きたない。
「あわわわ。蒼真、どうしたらいいのです」
さらに名前呼びで追撃とか、勇者の対魔王性能……高すぎじゃね?
そりゃ負けるわ。
今回は社会的に殺す気かな? 勇者殿?
「……蒼真?」
「呼び捨て?」
「え、日月さんと青天目君ってそういう……?」
ほら見たことか。もう収集がつかないぞ……!
このヘッポコめ!
「レグナは遊んでるゲームのアバター名だよ。日月、気を付けてくれよな」
「……!? ご、ごめんなさいなのです」
咄嗟の誤魔化しだが、意図は汲んでもらえたようだ。
「ほら、みんな。焼き上がるぞ、楽しんできてくれ」
「え、名前呼びはスルーなワケ?」
チィ……ッ!
吉永さんめ、そこは流してくれよ。
「テンパって昔のクセが出たんだろ? 女子に名前呼ばれたのなんて久しぶりだな! HAHAHAHA」
「フーン、そうなんだ」
「そうなんだ」
「そうなのです」
ニヤニヤとした顔の吉永さんが、上機嫌にその場を去る。
よし、何とか誤魔化せたか……誤魔化せたよね?
誰か誤魔化せたと言って?
しかし、日月め。
マジで勘弁しろよ。ただでさえ、今日はちょっと距離感近くなってるんだからな。
うっかりしたら、俺まで失言する可能性がある。
「日月、説教はこれでトレードオフにしろよ」
「お断りなのです」
おい、その頑固さは何なんだ。
「わたしはすると言ったらする女なのです!」
「男らしいこと言ってるんじゃないよ!?」
「だいたい細かい事を気にし過ぎなのです。魔王のくせに度量が狭いのです」
また誰かが聞いてるかもしれないのにそういうこと言う……。
ほんと迂闊が服を着て歩いてるような奴だよ、お前は。
「何度も言うが、青天目君はちょっと陰キャ気味の普通の男子高校生だ」
「普通の男子高校生は料理などしないのです!」
「偏見がすごいな!?」
味付けを終えた料理を一口、スプーンにすくって日月の口にねじ込む。
「どうだ?」
「……美味しいのです」
じゃあ何でそんな微妙な顔をしているんだ、お前は。
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