第16話 そのセンサーは多分不良品だと思う。
「蒼真どん、蒼真どん」
「どうした、耀司」
「ゴールデンウィークの予定はどうよ」
ようやく四月も後半に差し掛かり、ゴールデンウィークが見えてきたある日の放課後、耀司がややご機嫌に俺に尋ねてきた。
今年のゴールデンウィークは九連休。
高校生になってはじめての大型連休に浮足立つのは、仕方のないことだろう。
しかして、俺の答えはこうである。
「バイトだな」
「……そういうとこだぞ、魔王レグナ」
「耀司のゴールデンウィークが悲惨なことになる呪いでもかけようか?」
元魔王の呪いは効果てきめんだぞ。
「遊ぼうぜー、遊ぼうぜー。せっかく高校生になったんだしよー。そういうのは二年になってからでいいんじゃね?」
馬鹿め、高校生になったから大手を振ってアルバイトができるようになったんだろう。
まぁ、アルバイトと言えないようなアルバイトはたまにしていたが。
「まぁ、全部バイトってわけじゃないが、教習所の金を貯めないといけないからな」
「教習所?」
「バイクの免許が欲しい」
ついでに言うと、バイクの購入資金も欲しい。
ちょっと前に、耀司に言ってなかっただろうか?
言った気もするが、言ってない気もする。
どちらにせよ、コイツの記憶能力は極めて低いので、いま重要なのは耀司がそれについて知らなかったということだ。
「中免取りに行くの?」
「ああ」
「魔王がバイクで暴走とか、世紀末ファンタジーだよな。ヒャッハーとか叫ぶわけ?」
「まかせろ、お前の首に縄を巻いて引っ張ってやるよ。それで? どの日を空ければいい?」
バカな返しをしつつ、予定を尋ねる。
「土日かな? 二日と三日」
「了解。あけとく……何かプランでもあるのか?」
「おう、何人かでキャンプでもいかねーかって話になっててよ」
泊りでキャンプか……高校生の青春っぽい!
さすが、生まれながらにして陽キャは企画力が違うな!
「お、やる気んなったな?」
「ああ、楽しそうだ。準備はどうする?」
「牧野がいろいろ持ってきてくれるみてーだから、足りないもんに関してはまた言うわ」
「わかった」
牧野は最近よく話すようになったクラスメートだ。
何と、例のペア・レクリエーションで世話になった牧野兄妹の末弟である。
あの二人に比べて真面目っぽい性格ではあるが、話してみると意外に面白い奴だった。
「んで、最近……日月さんとはどうよ?」
「どう、とは?」
ギクリと身体と顔が強張るのが自分でわかる。
「いや、幼馴染なんだろ?」
「あ、ああ……」
そういう設定なんだった。
「高校で運命的に再会した幼馴染が美少女になっていた……しかも、イベントのレクリエーションではペア……! お前はラブコメの主人公かッ!」
「実はそうなんだ」
「そこは否定しろよ。それで? 高校デビューしちゃったわけ?」
そこに下世話な要素が含まれているのは言わずもがなだ。
中学生で魔法使いになる資格を失った耀司にしたら、俺の置かれているシチュエーションは、わかりやすいものであるらしい。
そこには大きな誤解はあるが、客観的にはそう見えるのかもしれない。
「日月とはそんなんじゃない」
「はやく『そんなん』になっちまえよ。何をモタモタしてんだ」
「どうしてそうなる」
「早くしねーと、誰かにとられちまうぞ? オレ、やだかんなお前のやけ酒に付き合うのなんて」
お酒は二十歳になってからだぞ?
「うーん……」
耀司の言葉を反芻して、少しばかり真面目に考える。
あの日、日月は俺にこう言ったのだ。
──「この人生では、勇者じゃなくて、普通の女の子として……生きていくはずだったのです」と。
そうなると俺という存在がいつまでもそばにいるのは、むしろマイナスではないだろうか。
俺が近くにいれば、少なからず前世の……勇者としての自分を自覚する羽目になる。
良好な友人関係を保ちつつも、きちんと距離を置くというのが正しい付き合い方だろうと思う。
「まあ、日月を大事にしてくれる奴ならいいんじゃないか?」
「お前はお父さんか何かかよ……」
あんな残念な勇者を娘に持った覚えはないぞ。
「オレっちのセンサーだとイイ線いってるハズなんだけどなー」
「壊れたんじゃないのか」
そのセンサーはきっと男女のそれとは別のものを感知してる。
俺と日月が一見親しく見えるのは、転生者という秘密を共有しているからであって、何も好き合ってるわけじゃない。
お互いに、忘れがたい過去を懐古しているだけだ。
「ま、いいか」
何かに納得したのか、耀司は立ち上がる。
「んじゃ、帰るわ。じゃあな、蒼真。また明日」
「おう」
お互い今のところ帰宅部なのだが、耀司は女子を含む陽キャ連中との付き合いがある。
俺はというと、帰りにTATSUYAによって新作ゲームを購入する予定だ。
このハッキリ別れた明暗が、俺の高校デビューの失敗を物語っている。
「青天目君」
「ん?」
誰かに声をかけられ、そちらを向くとクラスメートの女子……クラス委員長の麻生さんが俺を手招きしてる。
何かと俺の事を気にかけてくれる癒し系女子だ。
おそらくジョブはヒーラーだと思う。
「彼女が来てるよー」
そうニヤける麻生さんの後ろに覗くのは、日月だ。
「彼女ではないのです」
「彼女じゃない」
そう声を揃えてしまったことで、余計に麻生さんの顔がニヤけたことは言うまでもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます