第15話 ラブコメっぽい空気を出すのはよそう。
クラス合同オリエンテーションの結果は、俺達が最優秀賞だった。
ABの二クラスだけでなく、AからFまでの全クラス全てにおいて、俺と日月のペアは最高得点を叩き出していたらしい。
元勇者と元魔王がタッグを組んで、
当然といえば、当然の結果かもしれない。
目論見通り最優秀を獲得した日月がご機嫌なのは結構なことだし、俺は注目を浴びたことで初日の悪い印象を払拭することができた。
クラスでも話しかけられることが増え、実に重畳な結果と言える。
些か、目立ちすぎてる気がしないでもないが。
さて、問題は『優秀ペアに送られる素敵なプレゼント』いうやつだ。
これが今、俺を大いに悩ませることとなっている。
プレゼントの内容は一応伏せられているが、もしかしたら迂闊な元勇者がすでに口を滑らせているかもしれない。
ちなみに、今年の副賞の内容は……『課外活動の行き先決定権』だ。
ここで、一学期のスケジュールを軽く説明しておこう。
西門高校では、五月のゴールデンウィーク明けに中間考査がある。これは実力テストを兼ねており、教師陣が学生の学力などを計る意味合いも兼ねている。
そして、その三日間の中間考査が終わった後に訪れるのが『課外活動』だ。
わかりやすく言うと、遠足。
高校生にもなって遠足という言葉を使いたくない大人達と若者が、自分を誤魔化すための詭弁である。
それはともかく、俺と日月はその行き先についての決定権を得てしまった。
さすがにどこでもとはいかないが、あらかじめ提示されたいくつかの選択肢から選ぶことができ、気に入らなければこちらから提案も可能という、なかなかの強権である。
「聞いているのです? 蒼真」
「待ってろ、今説明中だ」
「誰になのです? 何をなのです!?」
「いろいろあるんだよ、俺にも」
「深そうなことを言ってもダメなのです」
目の前でポテトを食む日月が、ペンで俺の手をつつく。
そう、時は放課後のファストフード店。
今まさにその『課外活動』の行き先を日月と決定中なのだ。
「俺に特に要望はない。日月の行きたいところにしたらいい」
「そうやって斜に構えていればかっこいいと思っているのです?」
何故、この元勇者は俺の心を容赦なく抉ってくるのだろう。
勇者ゆえの本能だろうか。
「せっかくなので、みんなが楽しめる場所がいいのです。この山登りとか楽しそうなのです」
「体力不足の陰キャにとって山登りなんて気が重くなること請け合いだな」
「む。では、県立美術館見学はいかがなのです?」
「高校生が美術鑑賞? マイノリティを気取って悦に入るのか?」
「うぬぬ……では、ウニバーサル・スタジオはどうなのですッ」
「……悪くないな」
「ほぇ?」
日月……お前、俺が何でもかんでも否定すると思ってないだろうな。
そのテーマパークは、俺も気になっていた。
バスで直接乗り付けることができるから体力のないインドア派も楽だし、太陽の光を浴びないと死ぬタイプの運動系陽キャも野外であれば文句は出にくいだろう。
コンテンツとしては若者向きだし、各々のペースで楽しめる。
課外活動の行き先としては及第点といえるのではないだろうか。
「じゃあ、それで決定にしよう」
俺の言葉に、日月が少し困ったような目を向ける。
「蒼真、もう少し何かないのです? いきたい場所とか、やりたい事とか……。せっかくの行き先決定権なのですよ?」
「ウニバーサルは楽しいんじゃないか? 俺は嫌いじゃないが」
「ちがうのです……蒼真は自己欲求とかそういうのが薄弱なのです」
元魔王にやる気を出せと言うのも、なんだか妙な話だ。
世界征服でも目指した方がいいんだろうか?
いや、しかし……高齢化社会と経済崩壊の対策について考えるのなんてまっぴら御免だ。
世界なんて手に入れたって管理が面倒なだけなのは、前世で充分に理解している。
「そうだろうか?」
「そうなのです。せっかく人になったのです。もっと人らしく、貪欲でクズっぽく、自分勝手でいいのですよ?」
「それが人類救済を掲げる勇者の言葉かよ!?」
「元勇者なのです。それに一度救済したので、ノーカンなのです」
「その割に俺のこと討伐しようとしてたよね? 【聖剣】まで使ってぶった切ろうとしてたよね?」
「正当防衛なのです」
そこにどんな正当性があったって言うんだ……。
「ま、まぁ……いいや。行き先はそれでいいんじゃないか? 俺は行きたいところがあれば自分で行くしな」
「わかったのです。では、ウニバーサル・スタジオに決定なのです!」
レジュメの一ヵ所にくるりと赤ペンで丸をした日月が、それを鞄に仕舞い込む。
「さて、帰るか」
「もう帰るのです?」
「帰るとも。まだ何かあったっけ……?」
特になかったはずだ。
「せっかくなので、少し蒼真と話をしたかったのですけど……」
「ふむ? 何か問題か?」
「問題がなければ話も出来ないのです?」
やや険のこもったジト目で日月が俺を見る。
「そういうわけじゃないが……」
「では、座るのです。代わりにジュースを奢ってあげるのです」
「あ、はい」
再度腰を下ろした俺は、小さくため息を吐いて先ほどまで日月がいた場所を見る。
鞄も置きっぱなしだし、スマホすらテーブルに置いたままだ。
かつて殺し合った相手をどうしてここまで信用できるのかと、些か不安になる。
俺はいい。
前世からして個人的な恨みもなければ、今生に持ち込むべき因縁や禍根も日月に持っていない。
だが、日月は違う。
転生したとはいえ、俺がいまだ存在していることに、忌避感や敵対心をもっと持っていたっておかしくはない。
初日はいきなり襲われたことに驚いたが、今は別の意味で驚いている。
いくらなんでも
さらに言うと、一端の女子高生としても危機感が足りないような気がしないでもない。
これが油断させる罠だというなら、勇者としてなかなか成長した……と感心するが、どうも違う。
有体に言うと……なつかれているような気すらする。
「ううむ……」
「何をうなっているのです? 蒼真。はい、これでいいのですよね?」
「いや、何でもないんだ。ありがとう……」
差し出されたジンジャーエールを見て、再び俺は唸る。
ジュースの好みまで把握されている。
これじゃあ、まるで……。
「……よそう」
「何がなのです?」
目の前の美少女が小首をかしげて不思議な顔をするものだから、俺は
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