第13話 反省は大事だが、役得は覚えておきたい
「大丈夫なのです?」
「まさか、ぶん殴った本人に心配されるとはな」
「う……っ」
「冗談だ。気にするな」
ほどほどにしておこう。
日月とは同じ転生者として、今後もいい距離感でいたい。
因縁の相手と和解する青春も、ありだろう。
……ありだよな?
これ、転生者同士が血で血を洗う現代バトルファンタジーじゃないよね?
「どこに向かって話しかけてるのです?」
「ここではない、どこかに……?」
「レグナの頭がおかしくなったのです。叩けば直るのです?」
昭和の家電じゃあるまいし、今度こそ死んでしまうぞ。
「冗談はさておき……戻るとしよう」
名残惜しいという本音を心の奥に押し込めつつ、膝枕から起き上がる。
膝がガクガクと笑っている。まるで生まれたての小鹿のようだ……!
前世ではもう少し粘ったものだが、人間の体というのは脆い。
「歩くのは無理そうだが、魔法はいけそうだ」
「またアレなのです!?」
「だから先に帰れと……。俺の回復を待って歩いてとなったら時間ギリギリになっちまうぞ」
この体調では相当に鈍歩となるだろうし、目標地点である体育館までの距離が致命的に遠すぎる。
「ああああ、もう虹エフェクトはごめんなのです! ヒロインとしてあるまじき醜態なのです」
誰がヒロインか。
謎の自己申告をするんじゃないよ、まったく。
「【身体強化】の上、レグナを担いで走るのです」
「お前は人さらいか何かか」
「お姫様抱っこがいいのです? 意外と乙女なのです」
さては昨日の事を根に持ってるな?
「却下だ。さぁ、<
「却下なのです。もうアレはごめんなのです」
強情な奴だ。
<
「俺をこんな風にしておいてよくそんなことが言える……!」
「乙女の胸を揉んでおいて被害者ぶるのはよくないのです」
「揉んでない。そして、不可抗力だ」
「魔法があるのです。レグナならきっとなんとかできたのです」
言われてみれば、魔法でなくとも【念動力】のスキルでどうにかできたかもしれない。
転んで怪我をしても回復魔法で癒すことも出来た。
そもそも、腐っても元勇者……転んだくらいで怪我もしなければ、痛みすら感じなかった可能性がある。
……あれ?
そうなると俺の行動は、全くの無意味だったのではないだろうか?
ただ、どさくさに紛れて日月のお胸様をただ触った形になっただけか?
「どうしたのです?」
黙り込んだ俺を不審に思ったのか、日月が小首をかしげる。
いちいち可愛い動作をねじ込むな、ヒロイン気取りめ。
「ただいま反省中だ。日月の言う通り、一切触れずに助けることができたかもしれない」
「……そのことはもういいのです」
「ん?」
「さっきは言い過ぎたのです」
小さく俯いた日月が、そう漏らす。
「助けてもらったのにあんな風に言うべきではなかったのです」
「俺も次からは気を付けるよ」
俺の言葉にすっと顔をあげた日月は、何とも不思議な顔をしていた。
何か変なことを言っただろうか?
「もうこの話はおしまいなのです。さぁ、帰るのです。担がれるのと抱きかかえられるのと、おんぶと……どれがいいのです?」
「どれもこれも俺の尊厳を根底から破壊しかねないそれに。この状態でダッシュされたらまた血を吐くかもしれんぞ」
血を吐き散らす男子生徒を担いだ小柄な美少女。
B級映画でもなかなか見ない、サイコな絵面になること間違いなしだ。
「それは困るのです……。わかったのです。<
「いや、当初の予定通り日月は【身体強化】をしてバレないように走って帰ればいいだろう? 俺は<
再び不思議そうな顔をした日月だったが、今度は頬を小さく膨らませる。
おっと、何か気に障ったか?
「それではわたしが残った意味がないのです。受け入れるといったら受け入れるのです。さあ、行くのです!」
「何を意固地になってるんだ? 無理するなよ」
「無理してないのです。ほら、支えてるのでさっさとするのです」
「やれやれ、わかったよ。<
急かされながら魔法を使おうとしたその瞬間、膝から力が抜けて崩れる。
それを支えようとしたのか、日月は俺に抱き着くような形となった。
「わっぷ……」
どさり、と倒れこみはしたものの、ダメージはなしだ。
転移先は体育館倉庫の高跳びのマットの上……俺と日月は抱き合うような形で転移することとなった。
「おい、大丈夫か?」
「……」
俺の上に乗っている日月に声をかけるが、返事がない。
嘔吐感をこらえているんだろうか?
今のうちに脱出したいが、今の俺に日月を押しのけるだけの体力はない。
おそらく、これは虹ブレスの直撃コースだろうと思う。
さようなら、俺の制服。
「……? なんとも、ないのです」
「そうか? やるじゃないか」
まさか、たった三度の転移で慣れるとは。さすが元勇者だな。
ほっと胸をなでおろした俺は、なんとなく日月の頭をぽんとなでる。
「……!」
「……!」
そこでようやく、お互いが非常にまずい体勢にいることに気が付いた。
「す、すまん。プレセア」
思わず焦って、前世の名が出てしまった。
「昴」
「ん?」
体だけ起こして俺に馬乗りになった日月が、顔を少し赤くして俺の鼻先に指を突きつける。
「すばる、なのです」
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