第10話 大学の学食は美食の振れ幅が大きい。
「おお~これは絶景なのです」
西門学園のほぼ中央に位置するこの中央学舎の高さは約百メートル。
この一帯では最も高い建物だ。
その最上階に、学内展望台と学内食堂『AquaLion』は存在する。
下を見下ろした日月が小さく見える人を指さしてはしゃぐ。
「見るのです! 人がゴミのようなのです!」
「どこの天空人のマネかは知らんが、目つぶしされんうちにさっさと飯を食おう」
運がいいのか、何なのか。
俺達は窓際の大変景色のいい席を確保することができた。
周囲には大学生の先輩方。
チラチラと好奇心を込めた視線を送ってくるのは、俺達が制服のせいもあるだろうが、日月の容姿が整い過ぎてるせいだろう。
「お、君たちが噂の子だな? えーっと、青天目君と、日月さん」
見知らぬ男性が、俺達の席に近づいて……そのまま自然に椅子に腰を下ろした。
この遠慮のなさ。陽キャのにおいがする!
「何者なのです?」
殺気を放ちながら警戒する日月に少し驚いたようだが、男性はそのままメニューを広げる。
「びっくりさせてごめんね。さっき妹から連絡があってさ。陰気系男子と天使系女子の面白ペアがそっち行くから飯でもおごってやれってね」
「妹?」
「『Ⅲ-B』で会っただろう?
にこやかに話すこの男性は、さっき会った先輩の兄であるらしい。
「さぁ、どれにする? オススメはハッシュドビーフか塩ラーメンだ」
「オススメのふり幅がデカい……!」
「学食なんてそんなもんさ。ま、味の保証はするよ」
メニューはとても豊富だが、ここは先人のお薦めを素直に受けるとしよう。
「じゃあ、俺はハッシュドビーフで」
「わたしは両方なのです!」
「お、おい……少しは遠慮ってもんを」
「いいよいいよ。食いしん坊JKの食レポに期待させてもらおう」
牧野先輩は笑って立ち上がると、カウンターに注文に行った。
お金を払ってるのが見える。本当に奢ってくれるつもりらしい。
イケメンすぎてぐうの音も出ない。
「はい、お待たせ」
しばしして、牧野先輩は料理がのったトレーをテーブルまで持ってきてくれた。
いい匂いだ。
「冷めないうちにどうぞ」
そう促されて、俺達は「いただきます」と手を合わせる。
スプーンで一掬いして、ハッシュドビーフを口に運ぶ。
「……うまい」
自然と声が漏れた。
これが大学の学食というものか……!
「だろ? ここのハッシュドビーフは卒業生だって通う味なんだぜ」
「わかります。これは、驚いた」
「なのです」
ちらりと横を見ると……俺の隣では、日月がハッシュドビーフと塩ラーメンを同時にがっつくという、美少女にあるまじき行動をしていた。
こちらの幻想とわかっていても、もう少し何とかならないのか?
まずはその幻想をぶち壊したいのか?
もう少し、自分のイメージというものを大切にしてほしい。
そういうとこだぞ、元勇者。
「おいしいのです。とても、おいしいのです」
期待された食レポもこの通り、実におざなりだ。
「さて、君たちの目指す『西門学園記念館』だけどね、アレだ」
牧野先輩の指さす先。
少し山に入った木の生い茂る森の中にそれはポツンとあった。
「ここから徒歩だと一時間くらいかかるね。ま、その分の達成ポイントは高いんだけど」
「達成ポイント?」
何やら聞きなれない言葉が出てきた。
「あ、これ言っちゃダメな奴だっけ? まぁいいか。入学時のクラス合同オリエンテーションでやる、このペア・レクリエーションにはそれぞれの課題に対して達成ポイントがあるんだ。各監督者がそれを採点するんだけどね、困難さが増せば増すほどポイントは高いのさ」
どうやって最優秀を決めるのかと思っていたが、なるほど……実は採点項目があるってわけか。
「往復二時間の道のりは、なかなかのものですね?」
「最後の課題は誰もが難しいものを設定されるようになってるのさ」
「なるほどなのです!」
もう食い終わったのか?
口の端に食べこぼしがついてるぞ、元勇者。
「お腹もいっぱいなので、これで元気百倍なのです。一時間の道のりなんて余裕なのです」
「元気で結構。あ、これ、僕のLINIAコード。何か困ったら連絡くれたらいいからね」
そう言うと、牧野先輩は立ち上がる。
俺も立ち上がって、会釈する。
「ごちそうさまです」
「気にしないで。妹からの頼みなんて久々だったしね。じゃ、頑張って!」
ひらひらと手を振って、牧野先輩が去る。
その仕草が、『Ⅲ-B』のあの先輩にとてもよく似ていて、兄妹だと感じさせた。
牧野先輩が去り、トレーを所定位置に帰してから俺達は再度テーブルに戻る。
見つめる先は、『西門学園記念館』だ。
その道と周辺をしっかりと目に焼き付けて把握する。
「では、頑張るのです。何なら【身体強化】で走り抜いてもいいのです」
「日月……本当にお前ってやつは」
「なんなのです? この後に及んでスキルの使用は禁止とか言うのです?」
「バカだな、言うわけないだろ?」
そう言って俺は、日月の手をそっと握る。
「ななな……なんなのです?」
「何って……」
残るもう片方の手で指を鳴らして、ごく小さな衝撃波を放ち……入り口付近のトレーを派手に倒壊させる。
学食の人には申し訳ないけど、注目を集めるのはやはりこういうハプニングだ。
謎の倒壊に注目が集まっているその瞬間を狙って、俺は魔法を発動させる。
「──<
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