014
「こっわ。エルフェル強っこわっ」
ヘロヘロになりながらKが戻ってくる。
「お疲れ。Kは怪我は?」
「あちこち痛いよ!」
とは言うが小声だ。体温が上がった所為で喉の痛みもぶり返している。
「エルフェルは?」
「生きてるよ~」
墜落したエルフェルを覗き込んでいたキョロちゃんから声が上がる。流石に意識はないようだが、息があることにKもaもホッとした。
「これで満足かなぁ」
「さぁ」
Kは少し気まずそうに口を尖らせた。
「取り敢えず決着だろ。観客が凄いぞ」
シールの声に辺りを見回すと、遠巻きに大観衆が集っていた。
「あらやだ」
aがエルフェルを観衆に託し、Kたちはキョロちゃん宅へ撤収しようと『穴』を開く。すると。
「そろそろ戻るか?」
「!!?おま…っ」
当たり前のように、ジズフが出てきた。
「は!? え、は??」
混乱するKを見下して、いつものように空に胡座をかいている。
「約束通り迎えに来てやったんだが?」
「来れんのかよ!ッ、」
思わず怒鳴ったKは喉の痛みに眉を顰める。
「要件は満たした。予定通りだ」
「マスカルウィンが緑な時代には居ないんじゃなかったか?」
「そんなこと言ったか? ──あぁ…、『見たことない』とは言ったな。見たことはないぞ」
「はあ!!」
これでもかと顔を歪めて、Kは耳を塞いでシールの背後に屈み込んだ。
「ムリ。怒鳴らないのムリ。ストレスやばい」
「落ち着け、とにかく迎えだ。まずは還るぞ」
シールの言葉に何度も頷き感情を飲み込む。それはそうだ。ヘソを曲げられても困る。
「戻るのか、戻らないのか?言っとくが、俺がここに居られる時間は長くない」
「還ります還ります!」
慌ただしくなってしまったが、世話になったキョロちゃんに別れを告げる。
「じゃあキョロちゃん、色々ありがとね!」
「いやいや楽しかったよ」
「それじゃあ!」
「うん、
続々と消えていく中。
「おい?」
歩の進まないシールにジズフが声を掛ける。
「ひとつ聞きたいんだが――」
ジズフは頷き先を促す。
「俺が得た力ってのが何か、おまえには解るのか」
「なんだ。自身が何を得たのか解ってないのか」
今度はシールが黙って肯く。
Kとaは『世界を行き来する力』。グールが得たのは、Kとaには気付かれていないかも知れないが、単純に『戦闘能力の強化』だ。傍で守られることが多いシールは気が付いている。だが、自分は?aから未来の話を聞いて試してみたが、結局Kの居場所は掴めなかった。
「おまえが得た物をオレは解っちゃいるが、言って伝えてもつまらんだろ」
早く来い、とジズフはシールに背を向けた。
ジズフに連れられて四人は時空の扉を潜り抜ける。そこには、ふんわりとした開扉の神が待っていた。
「おかえりなさい。はじめまして、死の鬼神」
「え?」
「はじめまして、開扉の鬼神」
サリルスが挨拶したのは、Kたちのその後ろ。挨拶を返す声に振り替えれば、にっこりと手を振るキョロちゃん──
「え、何どういうこと?」
「ついてきちゃった?」
最後にジズフが現れ、扉が閉じる。
「予定通りだ」
長年不在だった死の神。その理由。常に畏怖される『死』を司る鬼神は火の神に並ぶ力を持つ。それが消滅することは不自然だった。神学者たちにとって大きな謎だった死の鬼神の不在は、この『復活』を以て解き明かされる。
「なるほどな」
「え何全然解んない」
納得を見せたシールも説明する気はないようだ。
「マスカルムはともかくとして、キョロちゃんはどうすんの?」
「オレとマスカルムは一心同体だからね。とは言えオレは生物だから…」
生活基盤が必要だ。Kたちを順に見回して、
「グールにお世話になろうかな」
「ぁ?」
消去法としても妥当な判断だが、グールが了承するとは思えなかった。が。
「まぁ、着いて来てもええけど…暫く家貸すくらいやで」
「 」
驚いた。Kもaもポカンと口を開けている。
「流石グールくん。やっぱり優しいね」
「くんは要らん言うたやろ」
いちゃつくふたりに言葉が出ない。
「グールが遂に少年に目覚めた…」
「はっ?」
漸く絞り出されたKの言葉に今度はグールがポカンとする。
「オレ、シールくんと同じくらいか少し上だと思うけどなぁ」
「そこじゃ…なくてね」
aがぐったりと答える。グールも今は若い。年齢差の問題はないのだが…
「ん?」
『グールも今は若い』。Kは驚いてジズフを見た。
「あれっ!?ここ何処!?」
覚えがない風景だが、場所としては扉を潜ったのと同じ場所。Kが焼き尽くした後復興を果たしたあの街の一角だ。それはいい。問題はその時代。
「おまえたちが一度還った、少し後だな」
「ですよね!」
Kたちが来た時代に若い二人は連れ込めない。
「後でちゃんと還してね…」
チキュウとのアクセスに支障があると困る。
「あ、そうだ。別れる前に。グールちゃん首輪」
言われて気付いたグールが首の飾りを
「シールちゃん、それ持っててね。自室の引き出しにでもしまっておいて」
イヤな顔をしつつもシールはグールから受け取った石をポケットにしまった。
「そう言えば、その首輪…」
aが今初めて気付いたとばかりに口を開いた。
「最終日に回収したよね?なんで着けてたの?」
「そこの神サンに着けられた」
「あぁ…」
苦い顔でジズフを顎で指すグールにaは納得する。
「寄越せと言われたから俺が渡した」
「シールちゃん…その石、グールの命だから次は手放さないでね」
怪訝な顔をしたシールとグールに構うことなく、Kはうんと伸びをした。
「じゃ、還ろっか」
「またね」と挨拶をして。Kとaは宰相になったシールと父親になったグールの居る時代へと還った。
「という事がありました」
城へ戻り満天のラボで火傷の治療を受けてから、ふたりはシールの自室で部屋の主に今回の体験を話していた。
「知ってる」
「やっぱそうなんだ」
シールはちゃんと過去の記憶としてその時のことを覚えているらしい。
「そしておまえらからその話を聞くのを待っていた」
「「?」」
首を傾げるふたりにシールは地図を渡した。マーキングされた箇所はaには覚えのある場所だ。
「伝えておくから、グールの処へ遊びに行ってやれ。今度は家族に挨拶出来るぞ」
「え、なんで…… え!?なんで!??」
それはKとaにとって、今回一番の衝撃だった。
KのーとinS Re:re: 炯斗 @mothkate
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