先生はいつだって赤い糸を結んでくれる〇〇を探している

南野月奈

赤い糸

「先生はあの二人が心中したって解釈してるんでしょう?」

「あなたは違うの?」

「さぁ、どうでしょう?」


 安全のため、少ししか上に上がらない電車の窓を力を込めて開けてみれば、潮の香りがうっすらと入ってくる。

 まだ、車内のクーラーがついてない微妙な季節、外からの風が心地いい。


「あのドラマ、先生はリアルタイムで見ていたの?」

「さすがに再放送だけど、やっぱり最終回が印象的で……」


 ああ、だから先生は一緒に心中してくれる女の子を探しているんだ。

 もちろん、ドラマの影響というより先に、自殺願望がある先生はそれを強化するような作品を好んで見ているだけなんだろうけど。


「あたし達、きっと周りからは年の離れた姉妹にしか見えないね?」

「そうね……」


 ガタン、ガタンと電車は海沿いの街に向かって進んでいる。

 あのドラマのように先生が男性教師だったら道ならぬ恋をしている二人に見えないこともなかったかもね?。

 わざと、周りからは恋人に見えないって言うことであたしは先生を傷つける……。


「旅館で美味しい物食べて、観光地の高いカラオケボックスで騒いで嫌なことなんか忘れちゃおうよ~!せっかくの試験休みに制服着てきてあげたんだからね」

「……私、そんなに暗い顔してた?心外だな~ちょっと気分を盛り上げるために旅行前にあのドラマ見せただけなのに」

「ええ~!そうだったの?すっかり騙された~」


 嘘つき、あたしがのってきたら心中するつもりだったくせに……

 でも、あたしは心中なんかしてあげない。

 あたしはこのまま、この旅行のことも、先生との恋愛もそのうち無かったかのように、セーラー服が似合わない大人の女になる。


 だけど、きっとそのうち別の女の子と本当に心中してしまうだろう先生が赤い糸を結ぶ時、思い出す女の子が、今のセーラー服を着たあたしであることを願っている。


 電車は私たちを無事、海の街に連れていく……。

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先生はいつだって赤い糸を結んでくれる〇〇を探している 南野月奈 @tukina

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