内通者Ⅲ

久嗣が廊下を走っていると奥辺りの方から女性の悲鳴が響き渡ってきた。

その声のする方へと向かうと両目に包帯を巻いた着物姿の可憐な少女とそれを取り囲むように立つ数人の集団がいた。

「そ、そこの方!どうか私を助けては頂けませんかっ!!今この人達に襲われていたのです!!」

少女がその集団から抜け出し久嗣の後ろへと隠れる。

「えっと、、、」

「は、早くここから逃げましょう!!この人達が怖くて私、、私!!」

「はぁ、、わ、分かったよ」

久嗣は少女をお姫様抱っこすると再び廊下を集団から逃げるために走り出した。

「ま、待て貴様!!」

後ろから大量の人間が追いかけてきた。

「な、なんでまた走らなきゃなんねぇんだよ!!」

「も、申し訳ありません」

「ちくしょうがっ!!目的地から離れていくじゃねぇかっ!!」

叫びながら久嗣は走り続ける。

「そちらを右に曲がった所に部屋があります。そこであれば安全です!」

「お、おう」

少女に言われた通り右に曲がり、その部屋へとはいる。

「ほう、こんな時間に客が二人とはなぁ」

声のした方へ振り向くとそこには髭の生えた筋肉質の男が座っていた。

「もしかしてここに入るのはまずかったんじゃあ」

「構わんよ。追われているんだろう?ならばここにしばらくいるとよい。ここへ立ち入るのには特別な許可もしくは私の許可が必要だからね」

男は髭を撫でながら笑う。

「それって余計やばいんじゃ、、、」

「助けて頂きありがとうございます、睦月久嗣様」

「あー、気にするな、、、てかなんで俺の名前知ってやがる!!」

「え、えっとですね、、、」

「君は"神子"の千夜姫ではないか!だがなぜ君のような幹、、」

「す、少しお黙りください!!」

千夜姫が男の口を慌てて塞ぐ。

「怪しいな、、まさか、あんた、、、」

「はぁはぁ、見つけましたぞ。み、、ぐはぁっ」

久嗣が扉から入ってきた追っ手を蹴り飛ばした。

「か、川崎!!」

「やっぱりか、、」

川崎と呼ばれた追っ手の男が起きるまで千夜姫から久嗣は事情を聞くことにした。

「う、、、」

「さて、と、まずはあんたの名前を聞こうか」

「はい、、"神子"を務めております千夜姫です。先程はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「やっぱり、あんたこの組織の人間なんだな」

「正確には違います。私と川崎達が属するのは神門教天社と呼ばれる宗教団体でその協力団体が連盟日本支部なのです。ですが十二年前に起きたある事件・・・・をきっかけにこの組織も根が腐り悪である連盟へ手を貸すようになりました。元々は代々神へ仕えたとある一族に守護して頂いてたんです」

「十二年前から連盟は裏で動いていたというわけか、、、くっそ!じゃあなんなんだよ!この連盟日本支部も正義のために戦っていたんじゃねえのかよ!!これじゃあ香織姉さんの死も彩姉の死もただの犬死にだって言うのか!!」

久嗣は拳を机へと叩き落とすと大きな音がなりその音に反応した千夜姫はびくっと身体を震わせる。

「ひぃっ」

「すまん、、怖がれせちまったな」

「香織だと?君はまさか香織が拾ってきた少年の久嗣くんなのかい!?」

男が久嗣の元まで近づいた。

「香織姉さんを知ってんのか!?」

「知ってるも何も私は香織の祖父だ」

「は、はぁっ!?」

「私の名前は如月圭一郎。香織の祖父だ」

「如月圭一郎、、、あんたが伝説の剣豪!?」

「伝説か、、かつてはそう呼ばれていたが今はそんなに強くはない。それより香織は元気なのかい」

「・・・、香織姉さんは六年前死にました」

久嗣は肌身はださずもっていた香織の遺品である髪飾りを渡した。

「あの子が、、一体どうして!!」

「知らないんですか?香織姉さんは連盟上層部から命じられた潜入調査の末死んだんですよ」

「な、に、、?それは本当なのか?」

「ええ、潜入先は"ケルベロス"傘下の組織"踊る道化ダンサーズピエロ"。俺が今回ここへ来たのはその過去を探るためでもあります」

「どういう意味かね?」

「俺たちは裏で連盟が"ケルベロス"と繋がっていると踏んでいます。何より香織姉さんが受けた潜入調査も怪しいと思ってるんです」

「そうか、、であれば北館にある資料室へ行くのが手っ取り早いだろうね。できる限りにことは協力しよう」

「私にも協力できることがあればいつでもお声掛けください!!」

「お待ちください!お嬢様!そんな輩に手を貸すなど言語道断!!」

熱さまシートを剥がすと川崎が千夜姫の前に立ち、久嗣を指さし睨みつけた。

「目が覚めたかさっきは悪かったな」

「ふん、貴様のような輩に謝罪される義理などないが受け取っておこう。しかし、お嬢様をそんな危険な場所へ連れていくことは許可しない」

「安心しろ、連れていく気など最初からない」

「貴様、お嬢様の気持ちを無下にするか!!」

「めんどくせぇやつだな、お前!」

久嗣と川崎が火花を散らしながら睨み合っていると間に千夜姫が入った。

「お願いします。私も知りたいのです。何故母様が十二年前死んだのかを!」

千夜姫が涙を浮かべ土下座する。

「お嬢様、こんなどこぞの馬の骨かも分からない男に土下座するなどおやめ下さい!!」

「お願いです!」

「はぁ、勝手にしろ。言っとくが俺はあんたを守る気は無いからな?死んでも恨むなよ」

「はい、当然です!あと」

「まだあるのか?」

「お礼をさせては頂けませんでしょうか」

「ん?あー、いらねぇよ礼なんて。貸し借りは嫌いなんだよ、俺」

「いえ、これだけはお譲りしません。私にお礼をさせてください!!」

逃げる久嗣を千夜姫が追いかける。

「観念しろ。お嬢様は一度言ったことはやるまで諦めない」_

川崎が久嗣の足を引っ掛けこかせる。

「安心してください、命は奪いません。多分」

「多分ってなんだ!こぇよ!!」

「私には他人の記憶を消したり修復したりする能力があります。ですのであなたの失った記憶を修復します!」

いつの間にか隣に座った千夜姫が自身の膝へ久嗣の頭を乗せ、所謂膝枕状態となり後ろの方で川崎が恨めしい声を出していた。

「ちょ、、お、おい!」

千夜姫が包帯をとり目を開けるとそれはまるで翡翠石みたいな綺麗な目で透き通っているような感じだ。

「少しお眠り下さい。目を覚ませば全て記憶を取り戻しているはずですから」

そう言われ久嗣は安心するかのように静かに眠りへついた。

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