内通者Ⅳ

久嗣が目を覚ますと川崎と圭一郎、途中で別れたリリスと沙耶音もお茶を飲みながら座っていた。

「ようやくお目覚めになられたのですね、久嗣様」

ゴンと勢いよく体を起こそうとした久嗣と千夜姫の頭がぶつかり鈍い音が鳴る。

「痛っ」

「貴様っ!お嬢様に膝枕してもらっておいて怪我をさせるとは!!」

川崎が剣を抜き襲いかかるが沙耶音はそれを迎え撃つかのように止める。

「久嗣様への攻撃は許しませんよ」

「悪い、千夜姫。大丈夫か?」

「は、はい!私こそ申し訳ありません。あ、あのそれで記憶は戻りましたか?」

「まだぼやけてはいるが少しずつ戻り始めてるのは何となくわかる。あと数時間もすれば大丈夫だ」

「その前に千夜姫様っ!あなたと私ではキャラが丸かぶりしているのですがっ!」

「キャラが丸かぶり?どういう意味でしょうか」

「やめろって沙耶音」

久嗣が沙耶音を止めるがそれを振り払い千夜姫の前に立つ。

「止めないでください!久嗣様!」

「そういう事ですか。沙耶音様も久嗣様のことがお好きなのですね」

「なっ、なななななっ!!ち、ちゃうもん!そんなんちゃうもん!!」

再び沙耶音の訛りが発動し顔を赤くした沙耶音は部屋の隅っこで呪文のようなものを発し始めた。

「はぁ、で、リリスよ。お前はなんでそんな小さいんだよ」

小さくなったリリスの頬を掴む。

「うるひゃいわへ、わゆい?」

「いいや、子守りは別に苦痛ではないし構わねぇよ。お嬢ちゃん」

リリスが久嗣の腕を噛むと久嗣が声にならない叫びを発した。

「さてと、久嗣くん。我々もそろそろ資料室へ向かおうか。もう追っ手も来る頃合いだしね」

「千夜姫はどうする?」

「お嬢様は私が外へ逃がします」

「大丈夫か?」

「ええ、元々我々はこの施設から脱走する方法を考えていましたから」

「そうか。短い間だったが元気でな」

「何を言っているのですか!川崎!彼は私の命の恩人、なのにおめおめ逃げ帰れというのですか!」

久嗣は千夜姫の首へ手刀を繰り出し、気絶させると千夜姫の体を川崎へ渡す。

「き、貴様!お嬢様になにを!」

「俺にとっても千夜姫は恩人みたいなもんだ。だから死なせたくはない」

ポケットから無線を取りだした。

『こちら"革新派"本部、烏丸だ』

「理事長、今から伝える座標に空間転移してくれませんか?」

『構わんがどうした?』

「いや、ちょっと助けたい奴らがいてそれを逃がしてほしいんだ」

『よくきこ、、え、ん、、おい!む、つ、、プツン』

急に無線が繋がらなくなり切れた。

「久嗣?」

「やばいな。理事長との無線が繋がらない」

「なら我々は最初の計画で立てていた道で逃げる」

「いや、それは危険だ。恩人を危険な場所に巻き込みたくはないが今回は仕方ない。全員で資料室へ向かうぞ」

「うむ、確かに貴様の言う通りだな」

圭一郎が本棚を押すと本棚が動き出し、地下室へ繋がる階段が出現した。

「ここは私しか知らないから安全な通路だ。ここを抜ければ資料室へ辿り着ける」

懐中電灯をつけ、一人ずつゆっくりと地下室へ降りていく。

「き、気味悪いわね」

沙耶音と手をつなぎながらリリスが喋る。

「恐らく日本支部上層部もそろそろ本気で来るだろうからいつでも戦えるように戦闘準備を整えておきたまえ」

するとリリスと川崎以外の全員が"霊装"を具現化させる。

「なんであんたはあんな場所へ閉じ込められていたんだ?」

「私は前日本支部支部長だったんだが今の支部長に罠をかけられ、ここへ監禁されていたんだ。彼の目的は人類という悪の浄化と世界の再構築とか言っていたね。最初は馬鹿げた話だと思っていたが十二年前の事件でそれは馬鹿げた話では無いと確信した」

「十二年前の事件?なんなんだそれは」

「いずれ、君も思い出すことになるよ"真実"をね」

「思い出す?」

「ああ、まだ今はそのときではないからね」

久嗣には圭一郎の言っている意味が何ひとつとして理解できなかった。

「まだつかないの〜?」

暗いこともあり、時間の流れが遅く感じ一時間以上歩いているような感覚に陥る。

「安心しなさい。あと少しでつくから」

少し進むと僅かに光が上から零れていた。

「ようやくついたの!?」

「ああ、開けるよ」

圭一郎が扉を開け降りてきた階段を登ると大量の箱が置かれた部屋に出た。

「そこまでだよ、君達」

全員が登りきったのと同時に黒縁メガネをつけた軍服の青年が声をかけてきた。

「誰だ、てめえ!」

久嗣が咄嗟に"霊装"を構えるが後ろから羽交い締めにされ、床へ倒れ込む。

「そこまでです。皆さん、武器を置いてください」

自分を倒したのは信頼していた従者の沙耶音だった。

沙耶音は刀先を久嗣へ向け、威嚇する。

「どういうつもりだ?沙耶音。冗談でもやっていい事と悪い事がある」

「はぁ、これを冗談でとらえるなんてまだ私を従者だと思っているのですか?久嗣様」

「彼女は最初から我々連盟側の人間だ。最初に彼女を拾ったのも君ではなくこの私だよ」

「どうして!」

「どうして?それはこちらのセリフですよ、久嗣様。あなたこそどうして!どうして私を!沙耶音を見てくれなかったのですか!!私はずっと貴方に一人の女としてみて欲しかった!なのにいつだって貴方は香織姉さんや彩葉姉さんのことばかり!!」

「まさか、香織姉さんと彩姉を殺したのは、、」

「そうです、私ですよ。仕方なかったんですよ!!そうしなければいずれ連盟は貴方を殺していた!だから私はあなたの家族も全て殺した!!最初は私だってあなたが嫌いで嫌いで仕方なかった!でもいつしか私はあなたへ恋をしていた!だから振り向いて欲しかった、、それだけで良かったのに!!あなたを殺して私も死にます!!」

沙耶音が涙を流しながら久嗣へ襲いかかるが久嗣は躱さずにその刀を自身の腹へと突き刺した。

「ごぷっ、、」

久嗣は口から血を吐き出した。

「どうし、て?」

久嗣は血だらけの手でそっと沙耶音を抱きしめた。

「も、う、、お前は一人じゃ、な、い、、、ごめん、な、、おま、えのこ、とぜん、ぜ、んみてな、く、て」

沙耶音の腕から久嗣がこぼれ落ちるように床へ倒れ込んだ。

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