久嗣の追憶Ⅰ

少年が目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。

彼は考えるが何も分からない。

記憶もなぜこの場所にいるのかも。

唯一覚えているのは自分の名前だけだ。

少年が部屋から出て階段を下りると同い年くらいの女の子とエプロンを着た女性がいた。

「目が覚めたみたいですね」

女性が濡れた手をタオルで吹くと少年の前でしゃがんだ。

「えっと、、」

「初めまして、私は如月香織。こっちは私の妹の如月彩葉、よろしくね。貴方の名前は?」

「睦月久嗣です、、あのなんで僕はここに?」

「2日前のこと覚えてないですか?」

少年は首を振る。

「如月の娘、ここにいたか」

着物を着た中年くらいの男が扉を開け現れた。

「轟さん、いきなり現れないでください」

「すまんすまん。で、その坊主はお前のガキか?」

「そ、そんなわけないでしょう!」

香織は赤面すると轟と呼ばれた男を蹴り飛ばした。

「わりぃ、わりぃ。冗談だ」

「この子はですね。冬菜先輩から預かった子で」

「そういうことか。よっ、坊主。俺は轟恭一郎だ、よろしくな。気軽におっさんでいいぞ」

轟は久嗣の頭をくしゃくしゃと荒い手つきで撫でる。

「は、はい」

「それで轟さん、なんの御用ですか?」

「おっと忘れるところだった。今日は大物が釣れたんでな、それを持ってきた」

轟は1度外へ出ると大きな発泡スチロールの入れ物を机の上に置き、箱を開ける。

「すごい、大きいお魚!」

彩葉が箱の中身を見てはしゃぐ。

「彩葉、落ち着きなさい」

「彩葉と久嗣にはこれをやろう」

轟は袂落としから祝袋を出し、彩葉に渡した。

「轟さん!!そうやって甘やかすのはやめてください!」

「気にすんなって」

「そういうことは借金を返してから言ってください。胡桃さんに言いつけますよ?」

「それだけは勘弁してくれ。おっと俺はそろそろ帰るがそれは俺からのプレゼントだ。好きに使ってくれていいぞ」

轟が足早に去っていった。

「はぁ、あの人は毎度毎度」

「あ、あの香織さん、これ、、」

「それは貰っていいですよ。轟さんの好意ですから」

「でも使い道とか特にないですし」

「使い道がないなら貯金しておきましょう。今無理に使わなくても、いつか欲しいものができた時に使えばいいんです」

はいと彩葉が招き猫の貯金箱を久嗣へと渡した。

「ありがとうございます」

久嗣は貯金箱へ祝袋から取り出した1万円を入れ、自分が寝ていた部屋へ置いた。

「さて、では久嗣くんと彩葉夜ご飯の支度をするので手伝ってください」

香織がさっき外したエプロンをつけ直し台所へと戻っていった。

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