2章 13話 共闘
10体の虫型の兵器が一斉に鎌状の足でリアナに襲い掛かるが、リアナは空に飛翔してその全てを避ける。
虫型の兵器は肩に取り付けられている砲塔をリアナに向けると、ビームを照射する。空中で網のように絡まり合うビームだが、リアナにはかすりもしない。
今のリアナは暗闇の夜空でステージライトに照らされながら踊っているようで、ずっと見ていたいと思えるほどに絵になっている。
「まさかこれ程とは思いませんでしたわ。まるで手足のように思い通りに動く。良くやってくれましたわ、ジアッゾ君」
「上手くいったようで助かった。つまりはテェンツァルス王国の技術力はまだまだという事だ。これではダリアでなくとも、簡単に割り込まれる可能性がある」
「そうですわね。わたくしの方から進言させていただきますわ。その前にこいつらを倒さなくてはね」
虫型の兵器は執拗にリアナを狙うので、リアナは地上に近づけない。だけどこうして見ているとダリアは指揮官にはなれない。
「リアナ、敵はリアナしか狙っていない。だから全ての敵を町の方に向くように移動してくれ。ダリアへ挑発しながらだ。ジアッゾとフューレは背後から近づいて、虫型の兵器を各個撃破だ」
「わかったわ」と小声で言った後、少しずつ移動しながら叫ぶ。
「ダリア、あなたは信念があるように振る舞っているけど、私から見れば滑稽でしかないわ。あなたが抱いた渇望と怨嗟が、誰かの野望が利用しているのよ。
あなたは人形でしかない。あなたは野望を抱けるほど賢くはない」
「俺を愚弄すのか! 姉上! 高く飛んだからって、自分が高い場所に行ったつもりか」
「あなたは気づいていないでしょう。あなたはずっと自分の足元をばかりを見て立ち位置を気にしている。前を見ないで道の先を見れるものですか」
リアナの挑発はとんでもなく効いている。
虫型の兵器はリアナを打ち落とそう必死だし、ダリアは目をむいてリアナを見るだけで、近づいているジアッゾとフューレは眼中に入っていない。
そしていとも簡単に1機の虫型の兵器の背後を取ると、ジアッゾは飛び上がり砲台を破壊し、フューレは下から腹を突き刺した。
4本の足でフューレを排除しようとするが、ジアッゾがその足の関節を槍で粉砕していく。そして4本とも破壊した頃、完全に動きを止めた。
フューレは槍を抜いてジアッゾに親指を立てた。
「1機仕留めたよ」
完全に停止した虫型の兵器を見たダリアは、口を何度も開閉させながら、目線はリアナとフューレを何度も往復させる。
「あ、ああ、こ、昆虫制武走機! あの地上のあいつを狙え」
虫型の兵器は一斉にフューレを見る。
あまりにも行き当たりばったりの指示だ。それで良いのだろうか。そもそもダリアはフューレを知らないようだ。
虫型の兵器は砲台からビームを放つが、2者の間に入ったジアッゾの盾が完全に防ぐ。ビームの残滓が木を切り倒した。
こっちに来るなよ。
「リアナ、敵の全てがフューレに向いた」
「了解よ」
満月に照らされたフューレのロボットは姿勢を制御して地面と平行になると、右手に持った剣を突き出す。
そして背中のバーニアを吹かせて地面に突撃すると、その先でフューレを追っていた虫型の兵器を串刺しにした。
一撃だ。虫型の兵器をリアナの一撃で動かなくなった。
「な、なんだと!」
ダリアの声に反応した虫型の兵器を立ち止まりリアナを見ると、フューレはすかさず手榴弾を投げた。
その手榴弾は虫型の兵器の背中で爆発した。
すると制御系が破壊されたのか、虫型の兵器は平衡を取れなくなったようで足をバタつかせている。
ジアッゾはその隙に槍を突き刺して動きを止めた。
これで残りは7機だ。
ダリアは目を見開いて歯を食いしばっている。ダリアから追加の指示が無いから、虫型の兵器はフューレを狙うようだ。
一心不乱にフューレに向かって行く虫型の兵器。これはこれで問題がある。何故なら3人の中でフューレが最も動きが悪いからだ。それは当たり前で、ロボットに搭乗したリアナと、全身が機械のジアッゾと違い、生身であるからだ。
もしこれが有能な指揮官を相手にしているのなら、危機的状況に陥る可能性があるが、相手はほぼ指示を放棄しているダリアだ。
「ジアッゾ、フューレを抱えて飛び回ってくれ。その隙にリアナは虫型の兵器を潰して回れ」
俺が指示を飛ばすと、ジアッゾはフューレを両腕で抱える。お姫様抱っこの状態になったフューレは槍を両手で抱えてジアッゾに身を預ける。
やはり虫型の兵器はビームを放ちながらフューレを執拗に追いかける。その隙をついて、リアナが1機、また1機と撃破していく。
そして残りが4機になった。その中の1機はリアナの手榴弾で足を破壊されて、固定砲台と化している。
もう既にビームは弾幕と呼べず、ジアッゾは楽々とかわしている。
「もうおしまいよ、ダリア。あなたが抱いた野望はここで潰えるのよ。最後にあなたを野望へと導いた人を言いなさい」
「これは俺の野望だ。誰のものでもない。俺のなんだよ」
「意地を張るだけが男ではなないでしょう。男ならば潔く次の道を作りなさいよ」
「姉上にはわからない世界があるのだ」
ダリアは胸元から拳銃を取り出してリアナに向けるが、リアナは即座にその拳銃をロボットの剣で弾き飛ばした。
「あなたを捕らえます。言いたい事は国に帰ってから叫びなさい」
「俺は負けない。自爆だ! 昆虫制武走機」
「なに!」
リアナが振り返ると虫型の兵器は全身から煙が噴出させていた。
「まずい。ジアッゾ! 盾を私に、あなた方は下がって」
「了解した」
ジアッゾが盾を腕から切り離しリアナに投げると、俺のもとへ飛んできた。リアナは剣を捨てて猛烈な速さでその盾に近づいて掴むと、俺達を背にして盾を構えた。
「妖精外套が動かなくなっても」
リアナのロボットの全身が緑色に発光し始める。
そして光は足の先と、頭の先から手にかけて徐々に消えていき、全ての光が消えると盾から上下左右に緑色の光が放たれた。
その瞬間、轟音と共に虫型の兵器は自爆した。
爆破の衝撃は木々を薙ぎ払い、地面を巻き上げる。
だが盾の内側にいる俺には、耳が痛くなるほどの音以外の被害は無い。
爆発が収まると草原は大きなクレーターになっていて、所々に虫型の兵器の残骸が転がっている。盾を持ったリアナのロボットは全く動かない。
クレーターの方を見るとダリアの姿が形も無い。
もしかして吹き飛んだのか? そこまでの覚悟があったのか。
そう思って暗視ゴーグルを覗き込むと、必死に山を下りている人の姿を確認できた。ジアッゾに暗視ゴーグルを渡す。
「捕まえてきてくれ」
「最後まで情けない男だったな。だが、僕にとってはそれで良い」
ジアッゾは笑みを浮かべて飛んで行った。
ダリアはジアッゾに任せておけば問題無いだろうけど、一向に動こうとしないリアナが心配だ。
「リアナ。大丈夫か」
マイク越しに話しかけても何も返ってこないので、俺はすぐにリアナのロボットに駆け寄る。
ロボットの全面は透明の素材だから中を見る事が出来る。そこにはリアナが目を閉じてぐったりと背もたれに寄り掛っている。
「まずいか?」
ロボットの背後に回り込んで背中を開けようとするが、どうしたら開くのかがわからない。ロボットに触ると火傷しそうなほど暑い。
だからといってほおっておくわけにはいかない。上着を脱いで、その上からロボットの背面を触っていると、押し込むような感触の後に背中が開いて、中からリアナが滑り落ちて来る。
咄嗟にリアナを抱きかかえると目が開き、ゆっくりとした口調で言葉を出す。
「委員長。ごめんなさい。気を失っていましたわ。大丈夫でした?」
「ああ。リアナのおかげでな。助かったよ」
俺の腕の中のリアナは笑みを浮かべて夜空を見る。
「それは良かった。あなたが無事で。それだけが心配でした」
リアナは俺の胸に手を置くと、再び瞼を閉じた。
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