2章 12話 搭乗

 リアナの祖父にはダリアによる襲撃を受けた事、反撃の準備をしている事、そしてダリアを捕らえて国に送り返すから処遇を任せることを伝えた。


「最後にこの映像ですが、戦闘が終わるまで回し続けます。出来る限り見通しの良い場所で戦うので、全員の動きを収められます。

 映像をどのように使用するかは、そちらを信じてお任せします」


『承服した。我がテェンツァルス王国の王女と、バリサスの者、そして英雄フューレが地球人の君を中心にして共闘する。

 深い意味を持つ映像だ。大切に扱わせてもらう。感謝する』


 リアナの祖父が頭を下げると、横にいたフューレが一点を指差して俺の肩を叩いた。


「来たよ」


 フューレの指の先、俺達の場所から100メートルほど先の木々の間から登山道を登る虫型の兵器がちらりと見えた。


「みんな準備は良いか」


 背後を振り向くと既にメタリックな姿をしたジアッゾが、右手に槍を左手に盾を装備していた。

 キャレットが顔だけを上げて俺を見る。


「戦う術を持たぬフューレに、武器を用意した! 複雑な機構の物は作れなかったが、受け取れ!」


 キャレットの足元には槍が1本とベルトに取り付けられた手榴弾のような物が10個ある。

 それを見たフューレはベルトを体に巻き付けて槍を手に取ると、空中から円形の紙を4枚と、イヤホンジャックを4つ取り出した。


「これはどんな妨害にあっても通信を送れる装置と受け取れる装置だ。

 この薄いのがマイクになっているから、口元に貼ってほしい。そうそう簡単には剥がれない。委員長はここで指示をお願い。

 僕とリアナさんとジアッゾ君で戦うよ。委員長は戦いに慣れていないだろ」


 フューレはそう言うとイヤホンジャックを装備して口元に薄い装置を貼った。そして、リアナとジアッゾと俺にそれぞれを1枚ずつ渡し、最後に暗視ゴーグルを俺に渡した。


「フューレは慣れているのか」


「僕の冒険譚を知ればそれがわかるよ」


 フューレの言葉にリアナが鼻息荒く胸を張る。


「そうですわ。フューレ様の冒険譚の中には宝探しで遺跡を探索したり、部族と戦ったり……、申し訳ありません。

 話したい事は山ほどあるのであるのですが、今は語っている場合じゃありませんわよね。フフ」


 本当にリアナはフューレの冒険譚が好きだな。暇な時にでも聞いてやるか。


 そんな楽しそうなリアナの肩にジアッゾの手が置かれた。


「妖精外套の書き換えは終わっている。パイロットサポート機能を全て切る事になるから、操作は今までのように楽なものでは無くなる」


「問題無いわ。わたくしはその機能を搭載していない試作機から操縦をしています。補助輪が無くとも動かせます」


「それは安心だ。ついでに上手くいかないかもしれないが、操作性を向上させるプログラムも仕込んでおいた。機能したら扱って見せてくれ」


「サービス精神に感謝をさせて頂きます。わたくしが華麗に扱う姿をお見せ致しますわ。組み込んだ事、後悔しないでくださいまし」


「期待している。では委員長、僕達は前方で待機する。指示は任せた」


 そう言うとジアッゾ、リアナ、フューレの3人は草原に向かって歩いていく。ノートパソコンのような装置から声が聞こえて来る。


『時代の変化を見るのは面白い。こうして第3太陽系から遠く離れた地球で、3種類の方向性を持った者が信頼をしあって肩を並べる姿を見られるとはな。

 思い出したよ。60年前、私はこれを見たくて戦っていた。私では成し得る事が叶わなかった光景だ』


 リアナの祖父は寂しそうに呟いた。俺が今、目にしているのはリアナの祖父が立ちたかった場所なのだろう。

 フューレの隣で。


「ダリアを捕まえた後、リアナの為にもお願いしますね」


『勿論だとも。この戦いが終わった後の事は私の仕事だ。だからよろしく頼むよ』


「はい」


『リアナを送り出して良かったと思う。あの娘にとっても、我が国家にとっても。

 それと、君に言っておく事がある。リアナの君を見る目は、60年前の私がフューレ様に向けたものと同じだ。君が我が国に訪れる時を待っている』


 リアナの祖父の眼光が鋭くなった。

 その顔、怖すぎるんだけど。


 今はそれを気にしている場合じゃない。俺は真っ直ぐに3人の方を見る。

 ビビって逃げたわけでは決してない。


 リアナから預かった暗視ゴーグルはとても見やすい。

 暗視ゴーグルから見える風景は緑色になると想像をしていたのだが、これは少し薄暗い昼間のような見え方である。更に熱源までもが表示されているうえに、自分との距離までわかる。

 遮蔽物の関係で明確な形は不明だが4足歩行で山を登っている物と、空中に浮かんでいる者がいるから、ダリアの一団だと分かる。

 その位置が手に取るようにわかる。


 難点なのは制度が良すぎるので、小動物まで捉えてしまう事だ。親子連れの狸が見える。


 虫型の兵器は10体で、空中に浮かんでいるリアナのロボットと思われるものが1体。その内の1体の上に人が乗っている。

 おそらくはダリアだろう。その全てが俺達の方に向かってきている。


「敵は俺達の位置を把握しているようだ。直進してくる。このまま進めば10秒足らずで開戦となりそうだから、俺達は身を隠す。後は頼んだぞ」


 そう言うと、俺とミリアナさんとキャレットは身を屈めて、体を木々や高く生い茂る草花に隠した。3人は顔を見合わせてジアッゾとフューレが少しだけ後ろに下がり、リアナは先頭になる。


「ダリア、出てきなさい」


 数秒後、木陰から10体の虫型の兵器が現れて横一列に並んだ。最後にリアナのロボットが姿を見せた。肩にはダリアが乗っている。

 リアナのロボットが虫型の兵器の中心に来ると、搭乗していたダリアが草原の上に飛び降りた。


「やあ、姉上。まさかバリサス人と共に戦っているとは、先ほどは想像もしなかった。魂が宿らぬまがい物に頼るなど、落ちたな姉上」


「わたくしのクラスメイトを侮辱するのは許せません。悪巧みよりも先に礼儀を学びなさい」


「いつまでも上から目線で俺を見下ろして、姉上の時代は終わりを告げる。遠く離れた地球で誰かもわからない奴に殺された、不幸な姉上としてな。

 俺が姉上に変わり、大姉上に寄り添う良い弟を装ってやるよ」


 ダリアはリアナの方に手をかざすと、リアナのロボットはリアナに銃を突きつけた。


「あなたの血の中に国民を守り導く意思があるのなら、その矛を収めなさい」


「俺は血の優劣で意思を持つ事さえ許されなかったんだ。俺よりも優位な血を持つお前に、俺の気持ちが分かるものか」


「あなたの国民へ向けた想いは、王にならならないと実らぬほどの大きさとは思えません。あなたは野心ばかりを誇大化した男だ」


「俺を知った風に語るんじゃない。だから嫌いなんだよ。お前は!」


「あなたを止めます。必ず!」


 リアナの咆哮と共に背中のパーツが飛び出して、ダリアを乗せたロボットのぽっかりと開いた背中に装着された。


「何をした! 姉上」


 ロボットが七色に明滅したかと思うと、各部関節が赤色になった。そしてダリアを振り下ろすと、急発進をしてリアナの前にひざまずいた。そして方向を反転させて背中を開いた。

 リアナは躊躇せずに乗り込んだ。


「お帰り。わたくしの妖精外套。後で洗ってあげるからね」


 地面に放り出されたダリアは、顔に土を付けたままリアナの方を向く。


「なななな、ななっ、何をしている! 操作権は俺が握っているはずだ。貴様あぁぁ、何をしやがった」


「他人を見下すしか出来ない人にはわからない事よ」


「訳のわからない事を言うな! 大人しく俺にやられていればいいんだよ。だったら妖精外套ごと、ぶっ潰してやるよ。行け! 昆虫制武走機」


 10体の虫型の兵器が一斉にリアナに向かって走り出した。


「駄々をこねる年齢はとうに過ぎているでしょ。わたくしがあなたを矯正して差し上げます。搭乗者リアナ・タルス・テェンツァルス、妖精外套、行くわよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る