その言葉は認めない

 やばいやばい!

 私は陽介や夏奈と別行動で前野くんと一緒に行動している。

 陽介とは違い胸がドキドキして仕方ない。

 前野くんは覚えてないだろけど、一度入学したての頃に助けて貰っている。

 それからは私が一目惚れして好きなだけなのだ。


「東堂さん?」

「何でしょうか?!」


 私が不意に声をかけられて上ずった声で、返事をしてしまう。

 私は内心恥ずかしくて頭を抱えそうになる。

 前野くんは笑っている。


「えっと、何かしたい事ある?」

「特には·····無いです、ごめんなさい」

「敬語じゃなくていいのに、謝らなくて大丈夫だって·····あ!東堂さんちょっと待ってて」

「え、うん」


 そう言って前野くんは人混みに消えていった。

 私は緊張の糸が切れて、隅に移動して座り込む。

 私は赤くなっている頬を自分手で挟む。

 いつもの私だろうか?変に思われてないだろうか?·····女の子に見えてるだろうか?

 そんな考えが頭をよぎる。


「怖いなぁ·····」


 私の声は沢山の人達の声でかき消される。

 下を向いている私は足音が聞こえて、前野くんが戻ってきたと思い顔を上げる。


「前野くん·····ごめ·····」


 邪魔になるから隅に移動したんだ、と言おうとした時、複数の見知った顔の男がいた。


「東堂じゃん!久しぶりだな」

「う、うん」


 私はぎこちなく返事をする。


「なになに宗治そうじの知り合い?」

「中学のときのクラスメイト·····何してるの?」

「ちょっと休んでて」

「あっそ、まぁいいやなぁ!お前らこいつさ、すっげぇ男みたいだったんだぜ中学のとき!」


 宗治は私はの中学時代の事を面白おかしく言う。

 男子相手に剣道で勝った事。

 女子に告白された事·····などなど。

 まだそれだけなら良かったのだが、一番言われてたくない事を言われた。


「こいつさ·····先輩に告ってたんだぜ?·····好きですっ!ておっかしいわ〜」


 宗治の笑い声に、同調して連れの人たちも笑う。

 私は昔、好きな先輩に告白した。

 その時に言われたのは「女子として見れない」だ。

 私はその時から女の子らしく振る舞う努力は捨てた。

 強くなろう、自分を守れるように、誰かを守れるようにそれがいつもの私を形作る言葉だ。

 私は胸が痛くなる。

 視界が滲む。


「何?泣いてんの?·····俺が泣かせてるみたいじゃん!」


 宗治の声は少しだけ怒りを帯びてる。


「何とか言えよ!東堂~?」


 私の手首を掴んで宗治は言う。


「·····何してるの?」


 私は今このタイミングで一番聞きたくない声を聞く。

 前野くんが戻ってきたのだ。


「は?誰お前?」

「ま、前野くん……」


 宗治が突っかかる。

 前野くんはいつもの笑顔で宗治を見て応える。


「東堂さんの連れだけど、何してるの?」

「え?、何お前、東堂にパシられてんの?だっさー!」


 宗治は腹を抱えて笑う。

 宗治の連れの人たちも「女子のパシリかよ」と言っている。


「·····言いたい事はそれだけ?」

「は?」

「言いたい事はそれだけか、って言ってんだけど?」


 前野くんは語義を強めて言う。

 その様子に宗治たちは肩を震わせる。


「東堂さんに触んな」


 前野くんは私の手首から、宗治の手引き離す。

 そして私の前に立った。


「べ、別に何もしてないじゃん·····ただ、世間話を·····」

「東堂さんが言われて嫌な事言うのが世間話なんですか?」

「そんな訳ないって!だって東堂言ってたんだぜ?女らしくないから仕方ないって!」


 宗治は額に冷や汗を流して、言う。

 前野くんはいつもより低い声で言った。


「今の事言ってんだよ·····てかさ、女の子相手に複数人で馬鹿にして傷つけて楽しい?·····帰れよ、不愉快だから」

「んだよそれ!·····はぁ〜、興ざめだわ」


 そう言って宗治たちは離れていった。


「大丈夫だった?」


 前野くんがまたいつもの優しい笑顔で私に声を掛けてくれる。

 私は頷く事しか出来ない。


「ごめんね、俺が、一人にしたから」

「ち、違うから·····私がいつも通りに話せば良かっただけで·····前野くんは何も悪いことしてない!」


 前野くんは悪くないのに私が悪いのに。


「·····いつも通りって?」

「そ、れは·····そんな事もあったねって·····」


 私の言葉に前野くんは少しだけ、ムッとする。


「嫌な事を我慢するの?」

「·····私が我慢したら、それで済むから」


 私は自分に言い聞かせるように言った。


「東堂さんがそれで良いなら何も言わないよ」


 あぁ·····また前野くんに嫌われただろうか?

 私は溢れそうになる涙をグッと堪える。

 そしていつも通りの笑顔を無理やり作った。


「その·····私ちょっとお手洗いに行ってきても?」

「うん、分かった待ってるから、慌てないでね」


 私はトイレに入り鍵を閉めると、急に涙が溢れてくる。

 必死に嗚咽を殺して泣くが時々漏れる。


「うっ·····あ」


 もう女の子らしく何て出来ない、陽介みたいに誰かが私を一途に好きなってくれるわけもない。

 誰かを好きになれば、私が辛い思いをするだけ。

 前野くんに対しての好意も前野くんに迷惑になるのだから我慢しないと。

 私はトイレから出て自分の顔を洗う。


「·····酷い顔」


 私は自分のを嘲笑った。

 そして何回か笑顔を作る練習をしてから、前野くんのところに戻った。


「ごめんね!待ったよね?」

「大丈夫だよ·····」


 前野くんはじっと私を見て少ししてから「行こっか」と言って歩き始めた。


「·····嘘つき」


 前野くんが何か呟いたが、聞こえなかった。

 前野くんがその後私の方を向いて緊張して顔をする。


「東堂さん手出して」


 私は慌てて手を出す。

 前野くんは私の手にネックレスを置いた。

 星が着いている可愛らしい物で、私には勿体ない位の物に感じる。


「それ、たまたま見つけて·····その東堂さんに、似合うなぁと·····嫌だったら捨ててくれて構わないからさ」

「あ、ありがとう·····大事にする」

「俺は·····東堂さんが我慢するなんて、認めないから·····俺は東堂さんの事、女の子だと思ってるから」

「·····あ、ありがとう」


 私は驚きすぎて、お礼を言うのがやっとだった。


「つ、着けていいんですか?」

「良いも何もそのためにあげたし·····俺着けるから後ろ向いて」

「は、はい!」


 私は前野くんに言われた通り後ろを向く。


「髪の毛上げて貰ってもいい?」

「う、うん」


 私は束ねている髪の毛を上げる。

 前野くんの手の体温が少しだけ感じる。

 私は恥ずかしさで、倒れそうになるが何とか耐える。


「·····よし」


 前野くんの手が離れて少しだけ寂しく感じるが、胸には星がキラキラと光ってて寂しさよりも嬉しさが、上回る。

 胸が幸せでいっぱいになる。


「すごい綺麗·····本当に貰っていいの?」

「貰ってくれないと俺、困るよ」


 前野くんは困ったような笑みを私に向ける。


「大事にする!もうそれはすごく大事にします!」

「ありがとう」


 私は前野くんの言葉で胸が暖かくなる。

 やめてよ、さっき蓋しようって決めたのに。

 私はギュッと星を握りしめた。











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