勉強からは逃げられない
「藤白さん·····ダメ?」
上目遣いで陽介くんが言います。
私は冷たい視線を陽介くんに向けます。
「ダメに決まってますよ·····だって·····宿題終わってないじゃないですか·····!」
私たち·····主に陽介くんと千紘ちゃんですが、宿題を貯めていたせいで、大惨事になっています。
夏祭りまで後二日。
私たちは学校の図書室で勉強会をしています。
勉強場所を提供してくれる学校でよかったと私は内心感謝しています。
彼らは事ある事に宿題から逃げてきました。
部活があるからと·····!
色々と用事があるからと!
「·····遊ぶんですよね?」
「「·····はい!」」
「元気なのはよろしいですよ?·····遊びまくりたいんですよね?」
「「·····はい!」」
陽介くんと千紘ちゃんは元気よく返事をします。
「勉強してください、課題を終わらせてくださいね!」
私がそう言うと二人は「えー!」と大きな声で叫びます。
私は静かにしてくださいとジェスチャーをします。
「もう、無理·····夏奈、私の屍を越えてゆけ·····」
「馬鹿なこと言わないで手を動かしてください、千紘ちゃん」
千紘ちゃんは机に突っ伏して、項垂れています。
陽介くんも目が死んでいます。
「·····仕方ないですね、休憩しましょうか」
「「まじ?!」」
「図書室なので静かにしてくださいね?」
「「ハイ」」
私たちはとりあえずプールに行きました。
ちょうど水泳部の方たちが鍵を閉めるところで、陽介くんが、鍵を職員室に返すという約束で、借りる事にしました。
「水着は無いけど!」
「冷たい水がいいねぇ!」
陽介くんと千紘ちゃんは水を得た魚の様に活き活きとしています。
私はプールサイドに腰を掛けます。
少しして陽介くんが隣に座ります。
「·····シャバの空気が美味しいなぁ」
「陽介くんは刑務所にいたんですか?」
「学校って言う刑務所に?」
「·····やかましいです」
私は陽介くんの頭に軽くチョップをします。
「藤白さん、どんどんツッコミ上手くなってない?」
「·····気のせいでは?」
「陽介〜、夏奈!」
私たちは同時に千紘ちゃんの方を振り向くと、バシャリと冷たい水が掛かります。
「冷たいです」
「千紘お前〜!」
陽介くんは千紘ちゃんに水を掛け返します。
「冷たいって!」
「仕返し、だ!」
私は楽しそうな二人の様子を遠目から見ています。
パシャパシャと私は足を動かして楽しんでいます。
「ふぅー遊んだ遊んだ!」
「楽しそうですね、千紘ちゃんは?」
「びしょ濡れになったから着替えに行ってる」
「陽介くんは?」
「着替え·····持って来てなくて」
陽介くんは濡れたワイシャツをパタパタと動かしています。
私は、少しだけ見えてしまった肌に目を逸らします。
少しだけ恥ずかしくなり、私は立ち上がってその場を離れる事にします。
「わ、私タオル持ってるので、取りに行ってきますね」
「いいの?·····ありがとう!、いや〜プールで遊べるって思ってなくてさ、助かるよ」
私は教室に置いてある荷物の中にあるタオルを取り出して、陽介くんのいるプールに戻ります。
「ありがとう」
陽介くんは濡れた髪を拭いています。
「ごめんねタオル洗濯して返すよ」
「気にしないでください、あっ、そこ濡れてますよ、少しだけじっとしててくださいね」
私は少しだけ背伸びをして、陽介くんの髪を拭きます。
陽介くんは少しくすぐったそうな顔をしています。
「はい、大丈夫ですよ」
「·····ありがとう」
「じゃあ、図書室に戻りましょうか」
「うへぇ、嫌だなぁ」
「ダメですよ、私引きずってでも連れていきますからね?」
私がそう言うと陽介くんは降参して図書室に行きます。
図書室に行くと千紘ちゃんが、勉強をしています。
「千紘が真面目に勉強してる·····?」
「あ、ごめん先にやってる」
千紘ちゃんはノートに視線を落とします。
「千紘に負けてられないな」
そう言って、シャーペンを持ちます。
私は二人が勉強をしているのを確認して、本棚に向かいます。
私は陽介くんと勉強したあの日以来、本を読む事が好きになりました。
物語の結末を想像するのが、好きになりました。
私は本棚から一冊の本を取り出します。
恋愛モノです、初めは何となく読んでいたのですが、今ではお気に入りのジャンルです。
「夏奈?」
「!·····千紘ちゃん?、どうかしました?」
「宿題終わったよーって言いに来たんだよ、陽介は終わって伸びてる」
「お疲れ様です·····今行きますね」
「ありがとう夏奈、夏奈がいなかったら·····私宿題やってなかったかも」
千紘ちゃんは笑って私に言います。
「·····頑張ったご褒美にご飯、食べに行きませんか?」
「行く行く!」
「陽介くんを呼びに行きましょうか」
私たちは燃え尽きている陽介くんの元に行きます。
陽介くんはご飯に行くと言うとすぐにいつもの彼に戻りました。
ファミレスに行く事になりました。
「藤白さんと千紘何頼むか、決まった?」
「私は〜これ」
千紘ちゃんは【デカ盛り海鮮丼】を指します。
「藤白さんは?」
「私は·····オムライスにしようと思ってます」
「分かった、すみません〜!」
陽介くんは店員さんを呼んで注文をしました。
しばらく話をしていて頼んでいた物が来ました。
「美味しそ〜!いただきます!」
千紘ちゃんは海鮮丼を勢いよく食べます。
私も「いただきます」と言ってオムライスを食べ始めます。
卵はふわふわですぐ口の中から消えてしまいます。
陽介くんは、パスタを美味しそうに食べています。
「美味しかった!」
私たちは食べ終わると伝票を持ってレジに向かいます。
「陽介の奢り?」
「なんでそう思うんだ?」
「陽介が伝票持ってるから?」
千紘ちゃんの言葉に反応して陽介くんは千紘ちゃんをじっと見つめます。
千紘ちゃんは驚いたような顔をしています。
「違うの?」
「違うからな?」
「えっと、私の奢りで·····」
私が財布を出そうとすると二人は同時に素早く財布を出し割り勘をして払いました。
「あの·····何故、毎回払わせてくれないんですか?」 「藤白さんにはお世話になってるから」
「そうそう、感謝の気持ちだから」
「私、何もしてないですよ?」
私は思い当たる所がありませんでした。
感謝の気持ち·····寧ろ感謝するのは私の方です。
「今日勉強見てくれてたじゃん」
「それは·····私がしたくてした事ですし·····」
「このまま過ごしてたら私も陽介も徹夜でやってたよ絶対」
千紘ちゃんの言葉に陽介くんは何回も頷きます。
「そうですか·····でも、次は!絶対に奢らせてくださいね!」
私がそう言うと二人は笑いました。
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