人は見かけによらず
「これを全部·····?」
「頼む!藤白が頼りなんだよ!」
先生が両手を合わせて私に言います。
何故こうなったかと言うと、私が部活を見学しにこうとしてた時に先生が呼び止めて、資料をまとめてくれと言われたのです。
断るにも断れず、教室で一人ホッチキスで紙を束にして止めます。
「はぁ·····」
陽介くんには一応遅れると言ったものの、間に合うとは到底思えない量です。
そんな時に教室の扉が開く音がします。
「何してんの〜?藤白さん」
そこには派手な女の子たちが居ました。
私はびっくりしてしまい、ホッチキスを落としそうになります。
「先生に頼まれて·····」
「あ〜、災難だね、そりゃ」
陽介くんとの約束も守れなかったし、派手なクラスの女子に絡まれるし災難です。
「レンち行こうよ」
一人の女子が私に話し掛けてきた女の子に対して言います。
やっと一人になれる·····とほっとしていたら私の向かいの席の椅子に座ります。
「先行っててよ、私手伝ってから行くわ〜」
「分かった、いつもの店ね」
「了解〜」
行っていった女の子たちに手をヒラヒラと振りレンち·····と言われた女の子はもう一つのホッチキスを持っていき紙をパチパチと束にして止めていきます。
「藤白さんさ〜」
「は、はいっ!」
私は急に声を掛けられて、ビクリとします。
その様子を見てクスリと彼女は笑います。
「ビビりすぎだって·····この量一人でやるつもりだったの?」
「そう、ですね」
「敬語じゃなくて良いのに、藤白さん話してみたら良い人じゃん、誰だよ冷たい子って言った奴」
彼女は嬉しそうに笑います。
「·····はぁ?!その男最悪なんだけど?」
「お、終わった事ですから」
「アタシだったらそいつ二度と彼女出来ないように、友達に言っちゃうよ!」
彼女は恋バナが好きらしく、私が彼氏がいた事を知っていた事もあり、その話で盛り上がります。
気がつくと、山のように積み上げられていた紙はあっという間に全てダンボールに入っていました。
「ありがとうございます·····えっと」
「名前·····忘れたとか?」
私は俯いてこくりと頷きます。
その様子を見て彼女は笑います。
「·····すみません、私名前覚えるのが昔から苦手で·····」
「あはは!良いって良いって!、面白いなぁ、藤白さんって!こんなんならもっと早く話し掛けておきゃ良かった」
そう言って教壇に立ちます。
チョークを手に取り名前を書きました。
「アタシの名前は
「水沢さん·····」
「連でいいよ〜·····あっそれかレンレンとかレンちって皆言ったりするからなんて呼んでも良いよ」
「連さん?」
私がそう言うと頬を膨らませます。
「レ・ン!」
「·····れ、連ちゃん?」
「·····合格っ!」
そう言って勢いよく抱きつきます。
「じゃあ私藤白さんの事、夏奈っちって呼ぶからね!·····やば!こんな時間?!急いで先生のとこ出しに行こ!」
私たちはダンボールを一箱ずつ持って、職員室に出しました。
「夏奈っちさ、そう言えば西野って人に告られてるんだっけ?」
「·····ゴホッゴホッ!·····どこでその情報を?!」
私は変な所酸素が入ったらしくむせてしまいます。
「隣のクラスの友達から〜!」
「·····一体誰が最初に情報を?」
「それは分かんない!」
私は学校で、問題行動は絶対起こさないようにしようと心に決めました。
「西野のとこ行くの?」
「そのつもりですけど·····」
「付き合ってるの?」
「付き合ってないです」
連ちゃんは私の言葉に目が点になります。
「付き合って·····無いの?!」
「友達ですよ」
「嘘でしょ?!」
連ちゃんは「あ゛ー!」と頭を抱えて唸ります。
「れ、連ちゃん·····?」
「·····行ってらっしゃい」
連ちゃんは言いたい事が凄くあると言う顔をしていますが、私をそう言って見送りました。
「よ、陽介くん!·····すみません·····はぁ、ひゅう·····遅れましたっ」
体力がない私は走るとすぐにばててしまいます。
今度運動しようかな……。
「藤白さん大丈夫?、慌てて来なくても良かったのに·····」
「や、約束したので」
「ありがとう·····次からは、そんな走らなくてもいいからね·····怪我したら大変だしさ」
陽介くんはそう言いながら私に水をくれました。
私はお礼を言ってから、勢い良く水を飲みます。
「·····ぷはぁ!、生き返りました」
「それは良かった」
「今は何をしてるんですか?」
「短距離のタイムを測ってるとこ·····あ、そろそろ俺の番だ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい、見てますから」
陽介くんは仲間の元に戻って行きます。
一人になって少しだけ寂しいと思ってしまいました。
後ろからポンポンと肩を叩かれました。
後ろを振り向くと、圭くんがいました。
「夏奈ちゃん」
「圭くん、お疲れ様です」
「ようちゃん、夏奈ちゃんが遅れるって言ってしょげてたんだよ、今は藤白さんに良いとこ見せるぞーって意気込んでる」
「それは·····しっかり見てあげないといじけちゃいますね」
私は陽介くんのいる方を向きます。
確か保健の授業で言っていたクラウチングスタート?をします。
旗を持っている人が勢いよく上に上げると陽介くんは、力強く地面を蹴ります。
私は口を開けて驚くしか出来ません。
「速い、です」
「夏奈ちゃん、あいつ、手振ってるよ」
あっという間に走り終わった陽介くんは疲れなど無いような笑顔で手を元気良く振ります。
私は圭くんに言われてハッとしてから振り返します。
「藤白さん!どうだった?」
「どうも何も·····速かったとしか」
「それから?」
私は陽介くんの走っている時の顔を思い出します。
いつも笑っている顔ばかり見ているせいか、あの真剣な顔が頭から離れません。
でも、でも·····そんな事·····。
「·····言いません!」
「えっ?!·····教えてよー?」
「言いませんったら、言いません!」
「強情だなぁ·····」
私は熱くなった顔を隠す様に背を向けます。
陽介くんは私の顔を見たいのか、私の向いている方に行きますが、私も必死に抵抗します。
「見せてよ」
「嫌ですって」
「·····藤白さんそんな事言うんだ〜?·····俺は悲しいよ」
寂しそうな声で陽介くんは言います。
·····私がその声に弱いのを知っているかのように。
私は反射的に陽介くんの方を見ます。
そこには、寂しそうな顔をしていない寧ろ·····私にしてやったりと言う顔をしていました。
「大成功〜!」
「なっ!·····それは酷くないですか?」
「引っかかる藤白さんが悪い」
「今のは仕方ないと思うんですけど?!」
その様子を圭くんはお腹を抱えて笑いながら見ています。
「圭くんも止めてくださいよ!」
「い、いや違うんだよ?止めようと思ったんだけどね、面白くて·····ダメだ我慢できない…プッ」
圭くんが涙を浮かべて笑っています。
私は頼みの綱が無くなり悲しくなりました。
「藤白さん、ごめんね·····頼むから無視しないでー!」
私はぷいっとそっぽを向きます。
あそこまで遊ばれると、少しだけ拗ねてしまいます。
「反応がその·····可愛くて、つい·····ごめんって!」
「·····次からは気をつけてくださいね」
私は謝り倒す陽介くんを許す事にしました。
陽介くんは、ほっとして、ふにゃりと笑います。
「·····お詫びにたい焼き食べる?奢るよ」
「そうですね、奢ってもらいましょうか·····抹茶食べてみたかったので」
「今度、俺が部活休みの時に行こっか」
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