感情移入しすぎて書けない陽介くん
「藤白さんっ!このとおーり!·····勉強教えて欲しいです!」
私の目の前で陽介くんは勢いよく土下座をします。
クラスの人達は何事かと私の方を向きます。
「陽介くん?!·····えっと、場所移動しましょう」
陽介くんを連れてとりあえず教室を出て図書室に来ました。
「なんで勉強を?」
「そ、それは·····」
陽介くんは私に一枚の紙を渡してきます。
期末テストの現代文の解答用紙です。
点数は·····ゼロに近い。
「現代文、苦手なんですね」
「そうなんだよ·····はぁ、人の心情とかどう読み取れと·····?」
相当苦手なのだろう解答用紙を見てるだけでも険しい顔をしています。
「·····再テスト落とすと、補習確定になるからさ·····」
「それは·····嫌ですね」
「俺、藤白さんと遊びたいし·····」
何やら陽介くんが私の名前を言った気がするがスルーして話す事にします。
「陽介くん、私で良ければ付き合いますよ」
「·····まじで?!」
いつも助けてもらってるし少しでもお礼をしたいなと思って私は陽介くんと勉強をする事にしました。
「·····」
「·····ユカがなんで悲しいか·····?悲しいのは俺だよ?」
放課後の図書室で陽介くんは、問題と向き合っています。
時折唸り声が聞こえてきて教えたくなる時があるのですが、陽介くんに「俺が教えてって言うまでは教えないで!」と言われてるので、私は絶賛読書中です。
「あの·····陽介くん大丈夫ですか?」
長い沈黙が続き少しだけ心配になり私は陽介くんに声をかけました。
「ダ、ダイジョウブデス」
「·····私の目を見てもう一度それを言えたら読書に戻ります」
「·····大丈夫じゃないです」
「どこが分かりませんか?」
陽介くんは指をさします。
『ユカたちのその後を考えなさい』
この問題の話は、夢を諦めた主人公のユカが友達のランと夢を探す物語です。
私はチラリと模範解答を見ます。
解答は、ユカは夢を取り戻してランと明るい未来のために努力する·····でした。
この問題を作った先生はこういった生徒に物語の続きを想像してもらうのが好きなのもあり、毎回とは言いませんが、よく出ます。
「陽介くんはユカたちにどうなって欲しいんですか?」
「·····幸せになって欲しい?」
「そう思うならそれを文章にすれば良いんですよ」
「そう、なんだけどさ、なんか俺の気持ちがパッとしないんだよね·····本当にそれがユカたちの幸せなのかなって」
私は陽介くんがそんなことを考えて、この問題を解いていた事を理解して、今といている問題が空白だった理由を知りました。
「陽介くん、それ以外の幸せってなんだと思います?」
「そうだな·····友達といれる事とか·····当たり前に生活出来る事?」
「それも正解ですよ?·····でもこれはユカが夢を探す物語なんです、考えてしまうのは分かるんですけど·····」
「うん·····ごめんね」
寂しそうな顔をして陽介くんは解答用紙に目を落としてしまいます。
そんな陽介くんを見て私は少しだけ自分ならこういうときどうするだろうと考えます。
前の私は、絶対に幸せになって終わるだろうと思っていたでしょう。
今の私なら·····今言った答えが、必ず正しい·····ユカたちにとって幸せではないと、そう思えます。
「陽介くん結末を書いてみてください·····きっと、あの先生ならOKが貰えるはずです」
「いいの?·····意外だなぁ·····藤白さんそういう言葉出るの」
私はその言葉に少しだけムッとします。
「珍しいですか?」
「ごめんごめん、そんな怒んないでよ」
「陽介くんのせいですよ、私·····変わったの」
「いい事だよね?·····俺、悪い事してないよね?」
「·····いい事ですよ、少なからず私にとっては」
私がぎこちなく笑うと陽介くんは少し驚いてから微笑みます。
「それなら良かった·····藤白さんいい笑顔するようになったね」
「そう言って貰えると、嬉しいですね」
「よーし!夏休み藤白さんと遊ぶために頑張りますか!」
少し多きな声を陽介くんが出してしまって司書さんに睨まれますが、すみませんと陽介くんが小声で謝ります。
そこからは唸り声は無く陽介くんは迷いひとつ無い顔で問題を解いていました。
「·····ちゃんとできてるじゃないですか」
「藤白さんのおかげだよ」
私は解答用紙を睨みながら言います。
それもそのはず、文法問題や漢字はほとんど丸がついているのですから、私は陽介くんを見ます。
なぜ赤点だったのでしょうか?テスト中寝てたのでしょうか。
「これなら赤点にならないのでは?·····別に登場人物の気持ちの読み取り捨てたって余裕の回避ですよ」
「藤白さんに·····かっこ悪いところ見せたく無くて·····そこだけ勉強頑張りました」
少しだけ顔を赤くして言います。
こっちも恥ずかしくなるのでやめて欲しいです。
私の顔もつられて熱を持ちます。
「·····帰ろっか」
私は無言でこくりと頷きました。
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