握って欲しくない手

 今日はあいにくの雨模様。

 6月に入り晴れた空は毎日の様には見れなくなりました。

 私たちは屋上に入れないので、今食堂でご飯を食べています。

 私は雨の日になると頭が痛くなります。


「大丈夫藤白さん?」

「夏奈しんどいなら保健室行く?」


 千紘ちゃんと陽介くんは心配そうに私を見ます。

 心配させて申し訳なく感じます。


「大丈夫·····ですこの時期はいつもこうなので気にしないでください」

「ならいいけど、しんどいなら言ってね」

「はいありがとうございます」


 二人に感謝を言います。

 私は昼休み委員会で、呼ばれていたこと思い出し時計を見て慌てます。


「あ、私今日委員会ので呼ばれてました·····すみません千紘ちゃん陽介くん私先に失礼しますね」

「うん。また後で」

「無理しないでね」


 2人との優しい言葉で元気になったような気がしました。


(急がないと…あの先生ちょっとでも遅刻するとうるさいんだよね…)


 少し歩く速度を上げます。

 慌てていたのもあり前を見ていない私は人とぶつかってしまいました。


「きゃ!·····すみません!大丈夫ですか?」

「うわ!·····ごめ·····あれ夏奈?」


 私は聞き覚えある声にビクリとします。

 私は彼の顔を見て血の気が引きました。

 学校が同じだから会うこともあるけど声をかけられること何て他人なのだからないと思っていました


「お久しぶりです·····えっと私、委員会あるので失礼します!」

「あっ·····」


 何か言いたいことがあったような声を漏らしていたのは聞こえたのですが聞こえないふりをして走りました。

 彼からいち早く離れないと。そんな気持ちが私の足を動かしてくれます。


「藤白さん?おーい、ふーじーしーろーさーん!」

「·····は、はい!」


 急に名前を呼ばれてびっくりしました。


「大丈夫?体調悪い?」


 心配そうに陽介くんが私の顔を覗き込みます。


「·····あ、大丈夫です!」

「なんか悩みとかある?」

「別にないですよ、ちょっと疲れてるのかもしれませんね」

「·····そっかならいいんだけど、なんかあったら言ってね」

「ありがとうございます」


 私は嘘をついてしまったことに罪悪感を持ちました。

 でも迷惑をかけるわけにはいけない、めんどくさがられるから。


『頼んなよめんどくさいな、自分でできないの?』


 私はあの日のことを思い出し気持ち悪くなります。

 ここにいても陽介くんを心配させるばかりで自分がますます嫌いになります。

 私は陽介くんに体調が優れないので帰ると伝えて帰ります。


「待って、俺送って…」

「大丈夫です。部活頑張ってくださいね」


 なんとか笑顔で言えました。

 自分の我慢強さを褒めてあげたいです。


「はぁ·····」


 帰ってきてからずっとため息ばかりついています。


(ちょっと外の空気吸ってこよ·····ついでにシャー芯切れそうだし買ってこよ)


 私は下に降りて母にコンビニに行ってくると伝えて外に出ました。

 外に出ると家では感じなかった蒸し暑さに襲われます。

 雨が降ってなくてよかったと安堵して歩きだしました。

 私の家からコンビニは歩いてだいたい10分と近場なので散歩には最適です。


(·····1人で歩くのってこんなに寂しかったっけ?)


 何となく歩いていて思ったのです。

 いつもなら陽介くんや千紘ちゃんと歩いている道になっているので今歩くとなんだか寂しく感じてしまいました。

 コンビニに着いてお店の中に入りました。


「いらっしゃませ〜」


 店員さんの明るい声がお店に響きます。

 私は迷わずシャー芯の売ってある場所に行き欲しかったものを手に取りました。

 レジでお金を払って店を出ていこうとした時に不意に声をかけられます。


「夏奈?」

「あ、」


 指先が冷たくなるような感覚があります。

 会いたくない人·····近藤直樹こんどうなおきくんがいました。

 私を笑った貴方の顔が、私を傷つけた言葉が鮮明に思い出されます。


「久しぶりに会ったしちょっと話さね?」


 嫌だ、断らないとと思って口を開けようとしますが上手く話せません。


「行こうぜ」


 強引に私の手を引きます。

 視界が真っ暗になったように感じます。


(·····怖い)


 そんな時、私の携帯が鳴ります

 そして彼の手が緩まります。

 私は掛かってきた人に一瞬安堵を覚えます。


「も、もしもし?」


 私の声は震えています。


「もしもし?藤白さん体調大丈夫?」

「·····大丈夫です」

「あれ?なんか風の音聞こえるんだけど、外にいる?」

「あ、ちょっとシャー芯を買いに·····」

「ダメだよ女の子1人で…ちょっと待ってて!今行くから」


 そう言ってから電話が切れました。

 今行くからその言葉で少しだけ震えが止まります。

 ダメ泣きそうになる。

 陽介くんが来てくれるそれだけで、緊張の糸が緩む。


「もしかして陽介?」

「·····だったら何なんですか」

「ふーんお前らって仲良いのな」


 つまらなそうに彼は言います。

 これ以上一緒にいたくない。

 そんなことを思っていると、近藤くんが口を開けます。


「でさ話なんだけど最近夏奈変わったよな·····なんかこう明るくなったっていうかなんていうか、前より可愛いなって思ってる」


 彼は頬を染めて私が1番言って欲しくない言葉を言いました。

 嫌な予感がする。


「俺ら·····もう1回やり直さない?」


 彼の言っている言葉を理解できなくて私は何も言えませんでした。

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