近づいた手を
「……本当に今日はすみません取り乱しました」
「も〜気にしなくていいのに」
「あの……西野くん」
私がそう呼ぶとぷいっとそっぽを向いてしまいます。
名前で呼ばないと彼はそっぽを向くようになりました。
「……陽介くん」
「なに?」
名前で呼ぶと嬉しそうに反応しました。
「そんなに名前で呼ばれるのって嬉しいんですか?」
「そりゃ名前で呼ばれると仲良くなった感じするし……それに藤白さんに言われると嬉しい」
「……なら私も名前で呼んでください」
私の言葉に驚いたのか陽介くんはギョッとしました。
なぜそこで驚くのでしょうか?
「それは恥ずかしいくて……」
「でも陽介くんは仲良くなった感じがするって言ってましたよね、私は苗字呼びで……なんか仲良くなった感じしません」
それを聞いて陽介くんは慌てていました。
「え!ご、ごめんね!別に俺は藤白さんのことそんな風に思ってないよ?!」
「本当ですか?」
「本当に本当!俺藤白さんのこと名前で呼ぶと多分意識しちゃってもう……恥ずかしくて死んじゃいそうになるから……」
「……そんな事で死なれると困るのでもうしつこく言いません」
初めてできた男の子の友達に死なれると寂しいので私はこれ以上追求しませんでした。
「……ごめんね藤白さん」
「いいえ、人には言えないことの一つや二つあるものですお気になさらず」
私がそう言うと陽介くんは少し申し訳なさそうに眉を下げます。
ずっと歩いて思ったことがあるので聞いてみることにしました。
「陽介くん」
「ん?どうしたの?」
「君に着いてきたのはいいのですが、どこへ行こうとしてるんですか?」
「それはね……着いてからのお楽しみ!」
楽しそうに笑って言うので楽しみにしてついて行くことにしました。
「とーちゃく!」
「ここは?」
着いたのは沢山の人が並んでいる場所その先にはキッチンカーがあります。
「最近ここによく来るんだよね美味しいって言うから食べてみたかったんだよね、たい焼き」
「たい焼き……食べて見てもいいですか?」
「そのために連れてきたんだから、行こっか!」
ギュッと手を握られました。
「あの……手、なんで」
「嫌、だったかな?」
「いや……あの、驚いただけで、別に嫌とは!」
私は何を言っているのでしょうか?
慌てて否定するなんて私らしくありません……恥ずかしいからいやだって、言えば言いのに。
そんな私を見て嬉しそうに陽介くんは笑いました。
私は心地よさを感じ手を離せずにいます。
「嫌じゃないんだ、ちょっとは俺の事好きになってくれたって事だよね?」
目を輝かせながら陽介くんは私を見ます。
私の顔が赤くなります。
「は、初めの時より……本当にちょっとですよ、本当に」
「本当に?!うわ〜すっげぇ嬉しい」
「そんな事で嬉しいんですか」
「嬉しいに決まってる!」
「は、はぁ……」
勢いよく言うので少し驚きました。
「と、とりあえず並びましょうか」
私たちは列に並ぶことにしました。
どんどんキッチンカーに近づいていくと美味しそうな匂いがします。
「何食べたい?」
「とりあえず餡子で」
「え〜餡子以外にもあるよ、チョコとか宇治抹茶とか、きな粉餅とか……あっ、オススメはそぼろね」
「そんな具材も入っているんですね……あ、そろそろ先頭になりますよ、財布準備しておいた方がいいですよ」
財布を出してお金を確認しました。
こうやって遊びに行ったりすることがないので、お金は結構溜まっています。
「ご注文は何にしますか?」
頭にタオルを巻いた男の人が話しかけてきます。
「藤白さん餡子でいい?」
私はコクりと頷きました。
「餡子とそぼろください」
「あいよ!ちょっと待っててな」
そう言って作り始めました。
美味しそうな匂いがして空腹を誘います。
私たちはジィーっとたい焼きが作られる所を見ていました。
「餡子とそぼろお待ちどうさま餡子が150円そぼろが170円な」
私は財布から100円を探していました。
なかなか見つかりません。
「ちょうど預かったよありがとうございました!また来てくれよ!」
驚いて勢いよく顔を上げると陽介くんは私の分のお金も出していました。
「陽介くん!何してるんですかお金返します!」
「え、いいよ俺奢るつもりだったし、ん〜そぼろ美味しい」
「そういう訳にはいきません!」
「頑固だなぁ·····じゃあ·····ん」
私のたい焼きにかぶりついてきました。
「これでチャラで」
私は驚いて何も言えませんでした。
い、今私の食べて……!
「あれ?おーい藤白さん?大丈夫?」
「·····はっ!だ、大丈夫です」
「あ、もしかして餡子食ったの怒ってる?」
「いや別に怒ってないですけど、私そんなに食い意地張ってないですよ·····これでチャラって·····いいんですかそんなんで」
私がそう言うと陽介くんは大きく頷きます。
「··········次食べる時は私が払いますからね」
「強情だなぁ·····次も一緒に食べようねくらいでいいのに」
「そんな訳にはいきません、次は千紘ちゃんも呼びたいですね」
「えぇ·····俺は藤白さんと二人っきりで行きたいな~」
「ご飯は皆で食べた方が美味しいですよ私は初めて·····そのお友達というものができて·····たくさんの思い出をこれから作っていきたいなって」
私がそう言うと陽介くんは嬉しそうに笑います。
「これからたくさんの·····数え切れないくらいの思い出作り任せてよ!俺は藤白さんの友達第一号だし」
「一号は千紘ちゃんです」
「えー!·····あいつ抜け駆けしやがって·····」
悔しそうに陽介くんは言います。
悔しがることですかそれ。
「別にいいじゃないですかそれぐらい」
「良くない!俺は藤白さんの一番にならないと気が済まないの!」
そう言ってから本当に悔しいらしく俯いてしまいました。
「·····陽介くん」
「何?」
「陽介くんは私に初めて·····好意を持ってくれた人です·····あ、あとこんなに美味しいものを教えてくれたし·····だからそんな悔しい顔しないでください」
私がそう言うと陽介くんは急にしゃがみこみます。
私は彼の突然の行動に驚きます。
「え?!よ、陽介くん大丈夫ですか!」
私はどうしたらいいのか分からず慌てます。
「大丈夫····その嬉しくて·····」
よく見ると耳まで真っ赤になっています。
「俺·····友達二号でもいい·····その代わり藤白さんの思い出の一番になるから 」
「·····頑張ってください」
私は嬉しさを誤魔化すために空を見上げます。
(陽介くんはいい人なんだよ·····でも私は·····)
あの人の顔が頭によぎります。
私を貶したあの人の顔が笑い声が。
「藤白さん?」
心配そうに私を見る彼。
悟られてはいけない。
私は笑って陽介くんの方を見ます。
「·····!なんでもないです帰りましょうか」
私たちは歩き出しました。
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