振りほどいた手
待ちに待った昼休みが来ました。
私は内心スキップ状態で千紘ちゃんのクラスへ行こうとしましたが、肝心な事を知りませんでした。
(千紘ちゃんのクラス……聞いてなかった………!)
私の学校は四クラスに別れています。
一つ一つのクラスを回って彼女を探せば良いのですが、そんな勇気ヘタレな私には無いです。
ポケットに入れていたスマホが急に振動しました。
【ようすけ】くんからメッセージがきたので確認しました。
『千紘が屋上で待っててって言ってたよ』
(ちょっと助かったかも……)
私は彼のメッセージに『ありがとうございます』と返信しました。
(……屋上の階段ってこんなきつかったっけ?)
上の学年になるにつれ階は低くなります。
私は今高校三年生なので二階·····玄関で靴を履き替えて階段を登ればすぐに教室に着きます。
私は息を切らしながら何とか登り屋上の扉を開けました。
「あ、良かった〜藤白さん来た」
こっちこっちと手招きする【ようすけ】くん。
なんで彼がいるのかは……聞かないでおきましょう。
「さっきはありがとうございます千紘ちゃんのいるクラス分からなくって困ってしまって」
「千紘も言ってたんだよ、藤白さんに自分のいるクラス言うの忘れてた〜って……あっこのメロンパン当たりだ。」
美味しそうにメロンパンを彼は頬張っています。
私もお腹が空いているので、お弁当を開けて食べることにしました。
「んぐ……藤白さんは弁当なんだ」
「はいお母さんがいつも作ってくれて」
「いいなぁ〜うちの母さんなんて作ってって言っても自分で作れって……まぁ仕事もあるしそれ以上わがまま言うつもりはないけどさ」
寂しそうな顔を【ようすけ】くんはして言います。
「あ、あのよければなんですけど、お弁当作りましょうか?」
寂しそうな表情をされると私は弱いので、口からそんな言葉が出てきました。
陽介くんはその言葉に慌てだします。
「え?いいよそんな!藤白さんに悪いし」
「いやその……パンばかりだと栄養偏りますし」
「藤白さん……ありがとう」
顔を覆いながら彼は言います。
何の事だか分からず私の頭には疑問が浮かびます。
普通に栄養面の心配しただけなのですが。
私は変な事を言ってしまったのでしょうか?
「そんな優しくされたら……もっと好きになっちゃうよ」
チラッと見えた彼の表情は友達という関係では絶対見ないであろう表情をしています。
陽介くんは私の左手を両手で包みます。
じんわりと私の冷たい手に暖かさが広がっていきます。
「……ありがとう藤白さん今度作ってくれる?俺期待してるから」
私は恥ずかしくなりプイっとそっぽを向きました。
男の子と免疫がほとんど無い私はここまで至近距離で
顔を近づけられると、キャパオーバーしそうになります。
「あ、あんまり料理した事ないので期待しないでくださいね」
「楽しみにしてるね……あれ?藤白さん照れてる?」
「照れてません」
「うっそだ〜!耳少し赤いって!」
「赤くなってないです!」
「いや絶対……って、これじゃ昨日と一緒の状態になるね」
「そうですね……」
彼といる所為なのか昨日のことを思い出してしまいます。
しばらく無言が続いてしまいます。
「ごめーん!夏奈!遅くなっちゃった!先生てばもう!話長すぎるよー!」
扉を思いっきり開けて千紘ちゃんが来ました。
「ううん気にしないでいいよ、お疲れ様」
「ごめんね?クラスとか教えるの忘れてたしさアタシ三組ね、でこいつと同じクラス」
「なんか困ったことあったら来てくれていいからね」
また胸の当たりが暖かくなる感じがします。
「ありがとうございます」
私たちは世間話をしていました。
スマホの時計を見るともうすぐで予鈴がなる時間です。
「え〜もうこんな時間?俺まだ藤白さんと喋り足りないんだけどなー」
「藤白さんのことあんたは本当に大好きなのね〜」
「当たり前だろ!」
「なんで藤白さんの事好きになったの?」
千紘ちゃんがそう言うと彼は顔を真っ赤にして黙ってしまいました。
「……目の前にいるのに言えるか!」
そう言って全速力で走って行きました。
「あ、ちょっと!·····陸上部の足には追いつけないかな〜」
千紘ちゃんが呼び止めようとした時にはもう彼の姿は見えなくなってしまいました。
「変わった人ですね、やっぱり」
「あいつが?」
「はい、私の周りの人であんな人いなかったので」
「……そっか、これから夏奈は色んな事を経験するんだよ」
「沢山経験していつか·····私も素敵な人と巡り会えるように頑張りたいです」
「意外だなぁ夏奈がそんなこと言うなんて……なんか全然そういうのに興味無いものかと」
「私も女子ですから多少は興味ありますよ」
漫画みたいな恋とは言いませんが、やっぱり私も女子なので憧れを持ってしまいます。
「またね夏奈」
「はい……また明日もお話しましょうね!」
「……!うん!」
嬉しそうに笑って彼女は教室に入っていきます。
(疲れた……)
睡魔に負けそうになりながら、私は午後の授業を乗り切り放課後になりました。
(そういえば【ようすけ】くんが暇だったらグラウンド来てって言ってたな……)
家に帰っても勉強をするか本を読むかの二択なので実際すごく暇です。
(見に行ってみてもいいかも)
部活入っていないのでこの時間は皆どんなことをしているか興味があるのでグラウンドに足を運びました。
放課後のグランドはたくさんの人が部活に勤しんでいました。
放課後のグランドはこうなっていたんだと思いました。
そんな時に手を振りながらこちらに走って来る人がいます。
「藤白さん来てくれたんだ!」
体操服姿の【ようすけ】くんがやって来ました。
「はい、暇だったので」
「じゃあこっち来て」
私は彼について行きました。
「お、ようちゃんが女子ナンパしてきたぞ!」
「ナンパじゃないからな?」
一人の男の子が近づいてきました。
少しチャラそうに見えて苦手意識を感じてしまいます。
「紹介するよ、こいつは
「初めまして圭って気軽に呼んでね」
「私は藤白夏奈ですよろしくお願いします圭くん」
「夏奈ちゃんって呼んでもいい?」
「はい別に構いませんよ」
フレンドリーな人で安心しました。
そんな会話をしていると【ようすけ】くんはムッとしました。
「藤白さんは俺が呼んだんだけど?」
ぐいっと腕を掴まれ引き寄せられました。
「ようちゃん嫉妬してる?俺は、別に夏奈ちゃんに手だそうだなんて思ってないから安心してよ」
「……ふーん」
低い声が近くで聞こえて私はビクリとしました。
仲良くなかったばかりで、彼の事は全然知りませんが、聞いたことの無い声で話すものですから驚いてしまいました。
「前野先輩!先生が探してましたよ!」
「うん、今行く!じゃまたね夏奈ちゃん!」
「はい、また」
圭くんは手を振ってどこかへ行ってしまいました。
「あの……そろそろ手を……」
「……!あ、ごめんね!痛かった?」
「痛くはないです」
私がそう言うと、彼はしゃがんでため息を漏らします。
「ごめんね藤白さん子供ぽかったよね」
「……そんな事はないですよ」
「なんかさ……俺より先に圭が名前で呼ばれるのに腹立ってさ……後で圭に謝っとこ」
そう言って彼はため息をついた。
「……ごめんなさい」
私は反射的に謝りました。
「なんで藤白さんが謝るの?」
「私その……貴方の名前知らなくって!」
私の言葉に彼は「あ〜」と言ってまた座り込みました。
「なんだそんなことかぁ〜てっきり俺嫌われてるかと……良かった〜」
「……私に嫌われると何かあるんですか?」
私がそう言うと彼はぽかんとした顔をしました。
「好きな子に嫌われるって辛いと思うよ?……藤白さんはなんとも思わないの?」
「別に何も、嫌われるのは……慣れてますから」
私は力なく笑いながら言いました。
そんな私を見て彼は泣きそうな顔をしました。
「……なんでそんなこと言っちゃうかなぁ」
「事実を言ったまでですよ、貴方だっていつかは……」
いつかはどうせ私の事嫌いになるでしょ?
私に近づいてくる人はいつも私の事を最終的には嫌いになるのです。
なんでも「愛想がない」「笑わない」口を揃えて表情のことを言います。
私だって好きで表情筋が硬い訳ではありません。
目の前が暗くなる感覚どうせ貴方も嫌いになるんでしょう。
顔が見れません。
「それではまた……会えたら」
貴方が言ったまた明日なんて言うつもりはありません。
私は彼に背を向けて歩き出そうとしました。
その時私の腕を彼が掴みます。
「……!何するんですか!」
ジタバタと抵抗しますが、相手は男の子。
私が勝てるわけがなくビクともともしません。
「このままお別れしたらもう絶対藤白さん俺に会ってくれないでしょ!」
「……私に会わなくたって困らないですよね」
「困る、まだ告白の返事貰ってないから」
「断ったでしょ?!」
即答しました。
「俺は藤白さんの事が好きなんだ、だから……会えないと困る」
「私は困りませんっ!」
私の何かが壊れました。
溢れてくるたくさんの感情いつも我慢してたのにとめどなく溢れしまいます。
「……なんなんですか!私の心にズケズケと入ってきて好きだから?そんな言葉何回も聞いた!何が好きよ!どうせ君も私の事嫌いになるくせに!」
あぁ言ってしまいました。
優しい人を傷つけてしまいました。
また明日って言ってくれた彼を傷つけた。
私はそっと目を閉じました。
(ごめんね)
泣きません·····泣く訳にはいきません、私が言ったことなのだから泣く資格なんてないんです。
腕にあった暖かさが離れていきます。
少し寂しさを覚えてしまします。
ほんとに少しの間だけの夢のような時間が終わって、また明日には1人に戻るだけ、それだけなのに……。
(ちょっとだけ寂しいって思っちゃう私はわがままなんだろうなぁ)
私の頬を両手で【ようすけ】くん包んで私の顔を上げます。
そこには、怒っている【ようすけ】くんがいました。
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