クッキー

 僕と女子たち6人は、サンシャインシティの下着専門店を後にして、近くのチェーン展開しているカフェにやって来た。

 お茶なら女子たちだけで来ればいいのに、なぜが僕も連れて来られた。


 それぞれカウンターで飲み物を注文して席に着いた。

 女子6人はテーブルを移動させまとまって座り、僕はその隣の席に座った。


 席に座ると早速、女子たちは今日買った下着について話を始めた。

 前田さんは、雪乃(の下着)が大人っぽいってしきりに言ってる。

 確かに、あのレースの下着はヤバイ。


 話をまとめると…、

 雪乃、伊達先輩、前田さんは黒。

 上杉先輩、妹はピンク。

 毛利さんは水色。

 を買ったらしい。


 毛利さん、以前、見た下着も確か水色だったな。

 水色が好きなのか。


 それにしても彼女たちは、僕がいるのにこんな話をするのには抵抗ないのだろうか?

 そう考えていると、妹が僕の心の中を読み取ったように言う。

「お兄ちゃん、聞き耳、立てないでよ!」


「聞いてないよ」

 といいつつ、よく聞いている。


 女子たちの下着談義も落ち着いたところで、上杉先輩が僕に話しかけて来た。

「ねえ。さっき、ホワイトデーのお返しを買ったんでしょ?」


「はい」


 僕は足元においた、クッキーの入った紙袋を見た。


「いま、みんなに渡しちゃえば?」


「え? いいんですか?」


「いいよ。ねー?」

 上杉先輩は他の女子たちにも同意を求める。

 全員、今、欲しいようだ。

 ホワイトデーには3日早いが、当日に15人分を渡すのは大変だからな。

 渡りに船ということで、僕は紙袋からクッキーを取り出した、それぞれに手渡していく。

 女子たちは、お礼を言ってくれた。

 あとは9人分か。結構大変だよな。


「これって、全員に同じものなの?」

 上杉先輩が尋ねた。


「そうですが…」


「芸がないよね」


「同じものを買えと言うのは、バレンタイン熟練者の悠斗のアドバイスなので、その通りにしました」

 僕は悠斗に責任転嫁を図る。


「ふーん」

 少々不満がありそうだが、上杉先輩は一応納得したようだ。


「クッキーにしろって足利君が言ったの?」

 雪乃が尋ねた。


「いや、クッキーを選んだのは、僕だよ」

 財布の中身と相談したから、さほど大したものではないけど。


「倍返しになってる?」

上杉先輩は眉間にしわを寄せて尋ねた。


「どうでしょう?」

なるわけない。


「さっき、そこの売り場で買ってたよね」

 上杉先輩は再び質問をする。


「はい」


「あとで、値段がいくらか確かめとくよ」


 そう言うのは止めてくれよ…。


「お兄さんの愛情が入っているなら、何でもいいですー」

 前田さんは微笑みながら言う。


 前田さん、いい子だなー。

 しかし、愛情までは入っていないけどね。


 結局、カフェで2時間程滞在して、解散することになった。

 帰り道は妹と一緒だ。妹と歩くのは少し久しぶりだな。

 妹は、『前田さんには手を出すな』とか、『雪乃は止めとけ』とか、しきりに注文をするが、僕は適当に聞き流した。


 帰宅して、食事、風呂を済ませ、僕はベッドに転がった。そして考える。

 ホワイトデーにお返ししないといけないのは、残り9人か。

 名前しかわからない4人もいるけど、どうしようかな。


 真帆は、ホワイトデー当日の放課後に会う約束をしているから、良し、と。

 赤松さん、小梁川さん、福島さんは一応顔見知りだから何とかなりそうだ。

 一条さん、鍋島さん、蜂須賀さん、山名さんは顔を知らない。

 明日、事前に調べるか…。

 なんなら渡すのは当日でなくてもいいしな。

 早めに会えたら、その時に渡してしまおう。


 そうだ。徳川さんはどうしようかな…?


 悠斗はどうするんだろう。

 僕なんかよりたくさんお返しをしないといけないはずだ。

 明日、悠斗に聞いてみるか…。


 しばらく考え事をしていると、スマホが鳴った。

 LINEのメッセージだ。

 アプリを開けると雪乃から。

 それを見て僕は驚いた。

 まさかの今日、買ったレースの黒い下着を着ているセルフィー。

 続いてメッセージが。


「これで抜いてもいいよ( ´艸`)」


 なんてことを…。

 でも折角だから、そうさせてもうことにする。

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