編集会議
翌日。
火曜日の放課後。
今日はホワイトデーのクッキーを渡すため、顔を知らない一条さん、鍋島さん、蜂須賀さん、山名さんの4人が、どのクラスまたは部活にいるのか確認しようと思っている。
そこで考えた。
学校内の生徒を良く知っているのは新聞部だ。
新聞部の片倉部長に聞けば4人の所在が分かるはずだ。
という訳で、授業が終わったら後片付けをし、新聞部に行こうと立ち上がった。
そこで服部さんに声を掛けられた。
「武田君」
服部さんは服飾部。
怪文書の差出人“P”が服飾部から何か盗むかもしれないということで、昨日、注意をしたのだ。
「なに?」
僕は返事をした。
「昨日の話なんだけど、みんなに話すと、怖がっちゃって…。それで、武田君にお願いなんだけど、14日当日、服飾部の部室に来てくれないかな?」
「え? 別にいいけど…。14日は、活動は休みにすればいいんじゃない?」
「作らなきゃいけない衣装の締め切りが迫っていて、1日でも惜しいのよ」
「そうか…。じゃあ、良いよ。14日の放課後だね」
「うん。ありがとう」
服部さんは安堵した表情で教室を出て行った。
そのやり取りを隣の席で聞いていた毛利さんが尋ねた。
「どうしたの?」
僕は経緯を詳しく話した。
かくかくしかじか。
「……、だから、もし“P”が来れば、つかまえられるかもしれないしね」
「そっか…」
毛利さんはなんか言いたそうだったが、話を変えた。
「今日、私は図書委員だから行くね」
「え? うん。じゃあ、また明日」
さて、僕は新聞部に行かないと。
教室を出て、部室棟の新聞の部室へやって来た。
扉をノックして中に入る。
今日は、部員のほとんどが部室にいるようだ。
ホワイトボードの前には片倉部長が立っていて、部員たちはホワイトボードを取り囲むようにパイプ椅子を並べて座っている。
何やら打ち合わせをしているようだった。
片倉部長は僕に気付くと声を掛けて来た。
「やあ、武田君。何か用かい?」
「ちょっと、聞きたいことがあって…」
「そうか。これから編集会議だから、中でちょっと待っててよ」
「見てて、いいんですか?」
「いいとも。別に秘密会議じゃあないからね。次号の学校新聞の進捗の確認するんだよ」
「じゃあ、遠慮せず見学します」
僕は、壁に立てかけられているパイプ椅子を広げて座って、部員たちの後ろでホワイトボードに向いて座った。
会議の内容は、いつもの片倉部長とは思えないような、真面目な内容。
学校新聞だから、ふざけた内容は掲載できないからな。
山岳部がどうとか、陸上部がどうとか、美術部がどうとかやっている。
僕はあまり興味がないので、途中からスマホをいじっていた。
結局、1時間程待たされた。
「お待たせ」
片倉部長が僕に話しかけて来た。
「それで、何の用?」
一条さん、鍋島さん、蜂須賀さん、山名さんの4人の件の前に、服飾部の件を話しておこう。
「実は、14日、服飾部で張り込もうとかと思っています」
「“P”の件かい?」
「そうです。“CROWN”がミスコンの王冠のことかもしれないので」
「まだ、次回の学園祭の王冠は無いよね?」
「ないですが、念のためです」
「なるほどね。こっちはこっちでやっておくよ」
「下駄箱ですね?」
「そう。他にも考えがあるけどね」
「そうなんですか?」
ちょっと気になるが、片倉部長はそれ以上語らなかった。
僕は本題に入る。
「ところで…、人を探しているんですが、片倉部長ならご存知かもしれないと思って」
「人探し?」
「ええ。一条さん、鍋島さん、蜂須賀さん、山名さんの4人なんですが…」
「蜂須賀さんは美術部だよ。今、会議で話してたろ?」
全然聞いてなかった…。
「そ、そ、そうでした。すみません」
「彼女は1年生だけど、絵の才能が天才的なんだよ。ちょっと変わり者だけどね」
「変わり者?」
「芸術家には、よくある、“あれ”だよ」
あれ?
良く分からないが、まあいいや。
片倉部長は話を続ける。
「あと…、鍋島さんは、同じクラスにいるな」
「何組でしたっけ?」
「2年D組」
「そうですか。ありがとうございます。一条さんと山名さんは、いかがでしょうか?」
「その2人は知らないなあ」
「そうですか…。でも、助かりました。ありがとうございました」
僕は礼を言って、新聞部を後にした。
4人中2人はわかったな。
さすがの片倉部長でも、全生徒は知らないか。
さて、あとの2人は、どうやって探そうかな。
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