下着専門店

 僕は学校を後に池袋サンシャインシティの噴水広場にやって来た。

 そこにはホワイトデー用のお菓子の特設販売コーナーができていた。


 最初、僕はバレンタインデーにチョコをもらうのは、妹を除けば初めてだったので、どういうものをお返しにすればいいか、わからなかった。

 そこで、毎年大量にチョコをもらっている悠斗にホワイトデーにどういうものを買えばいいのかと聞いたとき『全員に全く同じものを買う』と言っていた。

 誰かに違うものを買うと、その人だけを特別扱いしていると勘違いされるので、やめた方がいいとのこと。

 という訳で、チョコをもらった人数15個分、全く同じものを買う。


 早速、コーナーにある棚をほとんど見回して、財布の中身と相談しながら、どれを購入するか決める。

 結局、クッキーの入った小さな袋を15個購入し、それにらを全て店員に紙袋の中に入れてもらい、特設会場を立ち去ろうとした。


 すると、良く知った声で呼ばれた。


「キミィ!!」


 声の方を振り返ると、そこには上杉先輩がニヤつきながら立っていた。


 僕は、少々驚いて答える。

「あっ、上杉先輩!? こんな所で会うなんて…。今日は部室じゃあないんですね」


「うん。キミは…、チョコのお返し買いに来たんだね」

 上杉先輩は僕が手にしている紙袋を見る。そして話を続ける。

「今日は下着を買いに来たんだよ。みんなもいるよ」


「えっ!? みんな!?」


「そうそう。恵梨香に、毛利ちゃんに、織田ちゃんに、美咲ちゃんに、前田ちゃん」


「本当に全員集合ですね…」


「この前、下着買いに行こうって約束したじゃない? キミも聞いてたでしょ?」


 先週、毛利さんのサプライズ誕生パーティーの時に、上杉先輩たちはそんな話をしていた。

 そして、さっき教室で『用事がある』と言って去った、毛利さんと雪乃はこれだったのか。


「聞いてましたけど…」


「今、あそこの店にみんないるよ」

 上杉先輩は少し先に見える下着専門店を指さした。


「そうですか。それにしてもよく僕に気が付きましたね」


「たまたま、店の外を見たら、なんか見覚えのある、しょぼくれた後ろ姿が見えたんだよ」


「しょぼくれた、って…」


「いいから、ちょっと来てよ」

 そう言って、上杉先輩は僕の腕を引っ張った。


「えっ!? ちょっと待ってください!」

 上杉先輩は僕を引っ張ったまま下着専門店の前へ。

「先輩、どこへ?!」


「店の中に決まってるじゃん?」


「いやいやいやいや、待ってください! さすがにここはまずいでしょ?!」


「大丈夫だよ、私たちのツレってことで。キミ1人で入ったら通報されるだろうけど。じゃあ、入るよ」


「ええっ!?」


 上杉先輩は、無理やり僕を店の中に引き込む。

 店の中は当たり前だが、色んな下着がハンガーに掛けられたり、ディスプレイされている。

 目のやり場に困るなあ。


 上杉先輩は僕の腕を引っ張って、さらに奥の方へ。

 そして、試着室の前に連れて来られた。

 試着室の前には、伊達先輩と前田さんがいた。

「ど、どうも…」

 僕は動揺しつつ、かろうじて挨拶をした。


「あら、こんにちは」

 動揺している僕とは逆に、伊達先輩はいつものように冷静に挨拶してきた。

 伊達先輩は手には下着を持っていた。試着室の前にいるということは、これから試着するのか、もしくは終わったところか。


「おおっ! お兄さん! こんにちはー」

 前田さんも僕の姿を見ると挨拶してきた。

 やはり下着を手にしている。


「いま、試着室の中には、他の皆がいるよ」

 上杉先輩はまたニヤつきながら僕に言う。

 目の前にはカーテンで仕切られただけの3つ試着室が並んであった。

 足元には脱いだ靴があるので、中に誰かいるのだろう。


「他の皆って…?」

 僕は尋ねた。


「織田ちゃんに、毛利ちゃんに、美咲ちゃんに決まってるじゃん」


「あ…、そうですか…」

 僕は回答に困っている。


 そんな僕をよそに上杉先輩は試着室の中に声を掛けた。

「ねえ! 武田君が来たよ!」


「えっ!? 純也!?」

 左に試着室の中らか雪乃の声が。


「はあ? お兄ちゃん? 何しに来たのよ!」

 右の試着室の中から妹の声。怒っている。


 ということは、真ん中の試着室には毛利さんか。


 雪乃が、カーテンの隙間から顔だけ出して話しかけてきた。

「本当に純也だ」


「や…、やあ…」


「ちょうどいいところに。ちょっと手伝ってよ」


「えっ? 手伝うとは?」


「いいから、いいから」


「よくない」

 流石に下着の試着中に入るのは、まずいのでは?


 そこへ上杉先輩が笑いながら、僕の背中を押した。

「ほら、ご指名なんだから早く入って」

 上杉先輩、絶対面白がっているだけだろ。


「ち、ち、ち、ちょっと、待ってください」


 上杉先輩が背中を押すだけでなく、雪乃がカーテンの中から手を出して引っ張ってきた。


 僕は靴を脱いで、彼女らのなすがままに雪乃のいる試着室の中へ。


 案の定、雪乃は下着姿だった。黒いレースのブラ。

 流石にパンツは試着できないので、制服のスカートのままだ。

 とは言え…。

「これは…、まずいでしょ?」

 僕はちょっと目線をそらした。


「全然、大丈夫だよ」

 雪乃も面白がっているのか、笑っている。


「で…、手伝うとは?」


「ブラのホックを外してよ」

 そう言って後ろを向いて、長い髪を手でまとめた。


「自分で外せるでしょ?」


「自分でも外せるけど、純也に外してもらいたいのよ」


 ここは押し問答するより、さっさと済ませて立ち去った方が良いと判断した。

「わかった…。じゃあ、外すよ」


 僕は手を伸ばしてブラのホックに手を伸ばした。

 こんなこと、初めてだ。

 ホックを外すのは、なかなか難しい。

 少々手こずったが、無事ホックを外すことが出来た。


 雪乃はブラを一旦手に取るが、それを床に落としてこちらを向いた。

 当然、胸が丸見えだ。


「ち、ちょっと、まずいよ…」


 僕は思わず目をそらした。

 でも、ちょっとだけ見たぞ。


 雪乃は微笑みながら、僕の背中に手を回してグッと身体を引き寄せた。

 これは流石に刺激が強すぎる。


「純也の…、硬くなってる」


 僕のモノが雪乃のお腹辺りに当たっているのだ。


「し、仕方ないだろ」


 それでも30秒程、僕らは抱き合ったまま。


「そろそろ、良いかな?」

 僕は声を掛けた


「うん、いいよ」

 雪乃は身体を離した。


 僕は更衣室を出る。

 そこには、ニヤついた上杉先輩と怒り顔の妹が立っていた。


「どうだった?」

 上杉先輩は話しかけて来た。


「どうって…?」


「ヤってたの?」

 ニヤつきながら上杉先輩は尋ねた。


「ヤったの?!」

 妹が怒りながら繰り返した。


「あんな短時間で出来るわけないでしょ?」


「キミなら短時間でヤれるかと思って」

 上杉先輩はニヤついたままだ。


「そんなのできるわけないです…。ほんの1、2分じゃあないですか…」


 そうしていると、毛利さんが試着が終わったようで、試着室から出て来た。

 そして、伊達先輩と前田さんも近づいて来た。


「買ってきましたー」

 前田さんがお店の紙袋を手にして、嬉しそうにしている。

 無事、下着が買えたのだろう。


「僕はこれで…」

 下着売り場に居づらいので、立ち去ろうとする。


「ちょっと、お店の前で待っててよ」

 上杉先輩が言う。


「なんでですか?」


「この後、みんなでお茶でもしようってことになってるから、キミも来てよ」


「いや…、女子会に混ざるのはちょっと…」


「別にいいじゃん」


「行きましょーよー」

 そう言って前田さんが腕を組んできた。

 え? 何で腕組むの?


 そこへ雪乃も試着室から出て来て、試着していた下着を購入をするという。


 そんなわけで、一旦僕はお店の外に出て、前田さんと一緒に待っている。

 会計を終わらせてた女子たちがゾロゾロとお店から出て来た。

 そして、近くのカフェに移動する。

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