キスフレ
土曜日。
通常だと休み、または、O.M.G.の出演するライブの物販の手伝いなのだが、3月の週末は違う。映画研究部のショートムービーの出演があるのだ。
3月の4週間、土日の8日間は撮影で予定が埋まってしまっている。
よく考えると、休み無しじゃあないか。
O.M.G.のライブは大抵土曜日のみが多かったから、日曜日は休めていたからな。
安易に出演を引き受けるんじゃあなかった。
やれやれ。
まあ、唯一、マシなことと言えば、全シーンの撮影場所が家から5分で学校なのだ。
という訳で、朝、制服に着替えて学校に登校する。
待ち合わせ場所になっている空き教室にやって来ると、撮影班の映画研究部8人、出演者の演劇部6人。
それと脚本を書いた執筆部の男子1人がやって来ていた。今回の内容はラブコメで、ミステリーを得意とする森さんが台本を書いたわけではない。なので、彼女の姿は無い。
という訳で、僕を入れると総勢16人で撮影に臨む。
映研のメンバーは、カメラやらライトやらの機材をセッティング中。
なんか、機材にお金かかってそうだな。
雪乃が僕を見つけて話しかけて来た。
「純也! おはよう!」
「お、おはよう」
他のメンバーも僕に挨拶をしてきたので、僕も挨拶を返しておいた。
雪乃が近づいてきた。
「どう? 緊張してる?」
「ち、ちょっと」
実は、かなり緊張している。
雪乃と演技の練習をしたのは少し前だからな、うまくできるだろうか…?
その後も台本はたまに見ていたから、なんとかセリフは覚えている。
そんなにセリフも多くないし。
撮影の準備ができたら、撮影開始。
最初は僕が緊張しすぎで、リテイクが何回かあったが、何とかクリア。
脚本を書いた執筆部の男子に、演技の指摘も受けながらも撮影は進む。
その後も、僕と雪乃のシーンとか、他の演劇部のメンツが出るシーンも大きなトラブルもなく撮影は比較的順調だ。
午前の撮影が終わり、昼食をコンビニ調達して空き教室で食べると、今度は体育館の脇での撮影のため移動。
ここでは僕と雪乃のシーンが多い。
セリフは甘いものが多いので照れくさいが、それを顔に出さないように何とか雪乃との演技をこなす。
他のメンバーは出て来るシーンも体育館の周りで撮影を続け、気が付けばもう夕方。
夕方のシーンは無いので、今日のところは撮影はおしまいとなった。
映研がカメラや機材を片付け、演劇部のメンバーが今日の撮影とか演技について振り返っている。
僕は、今回の台本を書いた執筆部の男子と少し話をする。
聞くと彼の名前は、堀君と言うらしい。
そうこうしていると、体育館から練習の終わった人たちがぞろぞろと出て来た。
よく見ると、卓球部のメンバーだった。
僕と雪乃の天敵の明智さんは、僕らを見ると「フンッ!」と不機嫌そうにして、部室棟に向かって行った。
卓球部部長の羽柴先輩と福島さんが近づいてきて話しかけて来た。
「やあ、武田君」
羽柴部長は嬉しそうにあいさつをする。
「休日に学校にいるなんて珍しいね」
「え、ええ。ショートムービーの撮影で来たんですよ」
「ショートムービー?」
「そうです。映研がコンテスト用に作っている作品に出演することになりまして」
「へー、そうなんだ。映研を手伝うんなら、卓球部も手伝ってよ」
「えっ?!」
「そ、それは…」
そこへ雪乃がやって来た。
「純也、そろそろ解散だよ」
「あー」
羽柴部長は雪乃を見ると納得したように言う。
「そうか、彼女のお願いだから出演してるのか」
「い、いや。彼女じゃあありませんよ」
「私たちは、キスフレです。ねー」
雪乃は僕に同意を求める。
まあ、たしかにキスしまくってるからな…。
「ま、まあ、そんなところです」
「そうかー」
羽柴部長は納得たように顎を触りながら言った。
「じゃあ、福島さんさあ、武田君のキスフレになったら、武田君は卓球部に入ってくれるかもしれないな」
滅茶苦茶言うなあ。
「そこまでは、ちょっと…」
福島さんは嫌そうな顔をして言った。
まあ、正常な反応だ。
「あはは、冗談、冗談」
羽柴部長は笑って見せた。
「じゃあ、行くよ。撮影、頑張ってね」
羽柴部長は部室棟に向かう。
その後を福島さんも続こうとしたところ、僕は声を掛けた。
「ねえ、福島さん」
「なに?」
福島さんは振り返った。
僕はちょっと気になっていたことについて尋ねる。
「バレンタインのチョコ…、義理だよね?」
「そうよ」
「だ、だよね」
バレンタインデーに、げた箱に福島さんのチョコが入っていたが、義理かどうか確認がまだだったのだ。
まあ、義理だとは思っていたけどね。
そんなこんなで、今日のショートムービーの撮影は解散となった。
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