天体観測

 翌日の日曜日もショートムービーの撮影となっているので、朝起きて制服に着替えて、学校に向かう。


 今日は、屋上で撮影とのことで、階段を登っていく。

 そう言えば、屋上に行ったことないけど、そもそも屋上って入れるんだっけ?

 などと考えつつ、屋上手前の扉に辿り着き、それを開けた。


 目の間に広がる屋上には何もなく、端は転落防止用であろう高いフェンスで囲まれている。

 映画研究部のメンバーが、端の方で撮影機材の準備中で、僕以外の配役の演劇部の面々もボツボツ集まっていた。


 それとは別に、屋上の反対側の端の方で、テントが3つほど張ってあるのが目に入った。

 そして、その側にはダウンジャケットを着て防寒対策をしている男女5、6名ほどの生徒がいる。なにやら、天体望遠鏡?を後片付けをしているようだった。

 よく見ると知った顔の女子が居るのに気が付いたので、近付いて声をかけた。

「おはよう」


 僕が挨拶したのは。新聞部で前髪の赤いヘアピンがトレードマークの小梁川さんだ。

「あら、武田君。日曜に学校に居るなんて珍しいね」


 昨日も羽柴先輩に同じこと言われたな。


「ショートムービーの撮影で来てるんだ」


「ああ、そういえば、前にそんなことを聞いたわね。主役をやるんだって?」


「うん、まあね」


「織田さんとのキスシーンもあるんでしょ?」


「なんで知ってるの? 言ったことあったけ?」


「新聞部の情報収集力を舐めないで」


「別に舐めてないけど…。今日は、新聞部?」


「科学部よ」


 ああ、そう言えば、小梁川さんは科学部と兼部してるんだっけ?

 今の今まで忘れてたよ。


「その科学部が何んで屋上でテントを?」


「昨晩から、天体写真を撮るので科学部のみんなで、ここで野宿したのよ」


 なるほど、だから防寒対策をバッチリなのか。

 3月の夜はまだまだ寒いからな。

「でも、なんで科学部が天体写真を撮るの?」


「科学部は数年前に天文部を吸収合併したのよ。だから、天文に興味ある人も科学部に入部してくるのよ。こういう天体撮影とか天体観測もよくやるの」


「へー、知らなかったな」

 少子化で生徒が減って部活の人数も減っているから、合併とかして人数を維持しているところもあるようだ。

 たしか、以前聞いたものでは語学研究部は、英語研究部、中国語研究部、韓国語研究部などが合併したと言ってたな。


 小梁川さんは僕の回答に怪訝そうに言う。

「入学間際にやった、部活紹介のオリエンテーションでも説明があったよ」


 全然、聞いてなかった。興味なかったし。


「じゃあ、僕はショートムービーの撮影があるので」


「うん。私たちは、今日はもう撤収するから」


 僕は、撮影班のところに戻って、今日の撮影を始める。


 撮影はそれなりに順調に進み、途中休憩を挟みつつ、夕方となった。

 1日屋上での撮影だった。

 今日の撮影を終え、撮影班が後片付けをしている傍らで、雪乃と話をする。

「屋上って、今回初めて来たよ」


「たいていは閉鎖されてるんだけどね。こういった部活で使う場合は前もって生徒会に申請を出せば使わせてもらえる時があるのよ」


「知らなかったよ」


「純也だって、生徒会なのに」

 そう言って雪乃は笑う。


「僕は名前だけの副会長だからね。そういえば、雪乃は普段、生徒会の仕事はやってるの?」


「やってるよ。伊達先輩の指導を受けて色々」


「そうなんだ、全然知らなかったな」


 最近は、伊達先輩も雪乃も生徒会の話をしないし、僕からは聞くこともないし。


「純也もたまに来て何かやればいいのに」

 雪乃が僕の腕を引っ張って言う。


「うーん…。やっぱり、やめとく」


「えー。連れないなぁ。純也と一緒に生徒会の仕事したいのに」


 僕は暇人だから生徒会の仕事ぐらいする余裕はありそうだが、やっぱりやめておく。

 僕以外は、女子しかいない生徒会室は、ちょっといずらいよな。


「なんか、パソコンを使う仕事があったら手伝うよ。伊達先輩ともそういう約束だし」


「ふーん。パソコンを使う仕事ね…」

 雪乃はちょっと考えていつ風でうつむいた。


 あっ。余計なことを言ったかな?


 そうこうしているうちに、撮影班の片付けが終わり、今日は解散となった。

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