ギャルに囲まれる

 上杉先輩、前田さん、妹と僕は、渋谷から帰宅した。

 上杉一行は妹の部屋に行く。

 僕も妹の部屋に入り、担いでいた15個の福袋を床に置く。

 間髪入れずに上杉先輩からジュース持ってこいという指令が出たので、渋々、台所でコップ3つにジュースを注いで持って行った。


 ジュースを手渡すと、前田さんが不思議そうに尋ねてきた。

「お兄さんは、どうして、上杉さんの命令を何でも聞くんですかー?」


「それはね」

 上杉先輩が答える。

「私の奴隷だからだよ」


「奴隷!? いいなー」


「そう、奴隷。まあ、その契約も今日で最後なんだけどね」


「次は、私の奴隷をやってくださーい」


「嫌だよ」

 僕は答えた。


「いいじゃん、やれば?」

 上杉先輩は、また適当なことを言う。

「奴隷に目覚めたんじゃない?」


「目覚めてません」


 アホな会話も適度に終了し、女子たちは福袋の中身を開けて、物々交換会を開始するからと言うので、僕は妹の部屋を追い出され、自分の部屋に戻った。

 しばらくの間、ベッドに寝転がって、くつろいでいる。

 隣の部屋からは、上杉先輩たちの話し声とか、時折笑い声なんかも聞こえてきた。楽しそうにやっている。


 女子たちの福袋を買うための軍資金は、お年玉だったようだ。

 僕はお年玉で買うものが決まっていないのだが、何を買おうかな…?

 そして、1時間半ほど経っただろうか、いきなり部屋の扉が開いた。


「「チョリース!」」


「えっ!?」

 僕は驚いてベッドから身を起こした。

 扉の方を見るとド派手な金髪ギャルが2人立っていた。


「ええっ!? 美咲!?」

 よく見ると、妹と前田さんがギャル化していた。

 2人は、ヘソだしのクロップドトップスに、ラメ入りの短いスカート。さらにカールの金髪、さらに化粧もケバいギャルメイクになっている。

 上杉先輩でも、ここまで派手にやってないでしょ?


「お兄ちゃん、チョベリバー」


“チョベリバー”って、いつの時代のギャルだよ。江戸時代か?

 しかも、意味わかって使ってる?

「お前ら、なんで、ギャルになってるんだよ? その服はどうしたんだ?」


「福袋に入ってたしー」

 妹は、しゃべり方がギャルになっている。


「金髪は?」


「ウイッグだしー」


「メイクは?」


「上杉先輩にやってもらったしー」


「言葉遣いは?」


「雰囲気を出すためだしー」


 頭痛くなってきた。


 2人に続いて、上杉先輩が僕の部屋に入ってきた。

「いやー、2人とも立派なギャルになれるよ」

 上杉先輩の容姿はいつもの通りのギャルのまま。

 そして、立派なギャルって、なんやねん。


 前田さんが上杉先輩を褒め始めた。

「上杉先輩にギャルについて色々教えてもらったんですー。カリスマギャルですよねー」


 どこが?

 前田さん、カリスマの意味わかってる?


 その後、ギャル3人組は、何故か僕の部屋で座り込んで、ローテーブルを囲んで談笑し始めた。

 なんで、僕の部屋でくつろいでいるんだよ…。

 上杉先輩から、ジュースのおかわりとお菓子を持ってこいと言う指令が再び下ったので、再び1階へ降りて台所でそれらを持って部屋に戻った。


 ジュースを上杉先輩に手渡すと、僕に質問をしてきた。

「そういえば、明日と明後日、織田ちゃんと毛利ちゃんの奴隷やるじゃん? なんか言われてる?」


「ええ。なんか、明日と明後日を合わせて、2日間、雪乃と毛利さんの2人の奴隷をやらされるってことになりました」


「へー。何やらされるか聞いてるの?」


「出かけるから、そのコースを考えろって言われてます」

 そうだ、思い出した。後で、デート(?)コースを考えないといけないのだった。


「どこ行くの?」


「これから考えます。それから、出かけたあと、織田さんの家に泊まることになってます」


「えっ!?」

 妹が驚いて僕の方をにらみつけた。

「泊まるって…。それって…、織田さんの家族は?」


「誰もいないって言ってた」


「それは楽しそうだね」

 上杉先輩がニヤつきながら言う。


「ダメですよ!」

 妹が大声をあげた。

「そんな、お兄ちゃんと織田さんと毛利さんの3人だけってヤバすぎるでしょ?!」


 まあ、ヤバいかもな。


「私も泊まる!!」

 妹が怒鳴った。


「え? 良いかどうか、織田さんに聞いてみないと」

 僕は、妹が妙なことを言い出したので、ちょっと困って返事した。


「絶対に私も行くから、ちゃんと言っといて!!」

 妹は、何故かすごい剣幕だ。


「わ、わかったよ。怒鳴らなくてもいいだろ」


 上杉先輩はまだニヤついている。

「面白い展開になりそうだね」


 絶対に厄介な展開だよ、これは。


「どうしてヤバいんですかー?」

 僕の周りの人間関係を全然知らない前田さんが、不思議そうに尋ねた。


「それはね」

 上杉先輩が解説をする。

「武田君は、織田ちゃんって人と、毛利ちゃんって人の2人に好かれていて、特に織田ちゃんは武田君のドーテーを狙っているんだよ」


「いやいやいやいや。別に雪乃は、そんな狙うとか…、ないですよ」


「でも、旅館で一緒に寝てたじゃん」


 そう上杉先輩が言うと、妹が驚いて叫んだ。


「はぁ!? 一緒に寝てた!?」


「そう、寝てたんだよ」


「お兄ちゃん、どう言うこと!?」

 妹は立ち上がって、僕に詰め寄ってきた。


「あ、あれは、雪乃が勝手に布団に潜り込んで来たんだよ…」


「ヤったの!?」


「ヤるわけないだろ」


「本当?!」


 妹は何でここまで詰めてくるんだよ。

 それに、別にヤってってもいいだろうに。


「まあ、ヤってはいなかったみたいだね」

 上杉先輩が証言してくれた。


「2人から好かれてるって、お兄さんモテるんですねー」

 横で聞いていた前田さんが関心したように言う。


「モテてないよ」

 僕は答える。


「モテてるでしょ」

 上杉先輩は言う。


「ただのスケコマシだよ!!」

 妹は、まだ怒っている。


「すごーい」

 と、前田さんは言う。

 でも、あんまり凄いと思ってないだろ。


 ともかく、妹は明日、デートからの織田邸お泊まり会についてくることになった。


 その後も、ギャル3人は僕の部屋でくつろいでいた。

 しばらくしたら、前田さんと妹はメイクを落とし、妹の部屋で着替えて最初の格好に戻った。前田さんと上杉先輩は一緒に帰って行った。


 今日も面倒な一日だったな。

 渋谷まで荷物持ちは疲れたよ。

 さて、明日のデート(?)コース考えないと。

 僕は椅子に座って、ノートパソコンの電源を入れた。

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