好きだけど、好きじゃない

 夏休み1日目。


 僕は朝から、のんびり部屋のベッドに寝転がってマンガ読んだり、スマホいじったりしていた。今日は夏休みの宿題はしない。


 午後になると、隣の妹の部屋で話声がする。時折、笑い声も。友達でも遊びに来たかな。


 そうこうしていると、突然、僕の部屋の扉が開けられた。

 僕は驚いて扉のほうを向いた。


「ねえ、ねえ! 本当!?」


 大きな声で入って来たのは、なんと上杉先輩だった。

 Tシャツにデニムという出で立ち。


 僕は起き上がって言う。


「上杉先輩?! なんですか、一体?! ノック無しで入らないでください!」


 上杉先輩は笑いながら答える。

「ああ、ゴメン、ゴメン。エッチな事してたらヤバかったね」


 まったく…。


「それで、何で先輩が家にいるんですか?」


「え? 美咲ちゃんと遊んでたんだよ」


 妹と遊ぶぐらい仲良くなったのか。


「そんなことより、美咲ちゃんから聞いたんだけど。キミ、恵梨香が好きなんだって?」


「な、な、な、なんですか、それは?」


 妹の美咲が、ひょっこり顔をのぞかせて言った。


「だって、伊達さんが夢に出て来たっていってたから」


「夢に出てきたぐらいで、好きってわけじゃあないだろう?」


「じゃあ、嫌いなの?」


 上杉先輩、それは理論の飛躍です。


「伊達先輩の事は好きだけど、好きじゃないです」


「は?」


 慌てていて、言葉が足りなかった。

 僕は一度、深呼吸をして、改めて言う。


「伊達先輩のことは『人間的には好きだけど、恋愛的には好きじゃない』と言いたかったんです」


 上杉先輩が少し間をおいて応答をする。


「『恋愛的には好きだけど、人間的には好きじゃない』、かと思ったよ」


 それ、どういうことよ?


「そもそも、夢に出てきたぐらいで好きというわけではないでしょう?」


「じゃあ、アタシは夢に出てきたことあんの?」


 上杉先輩が畳みかける。


「ないですよ」


「じゃあ、恵梨香の事が好きで確定で」


「なんで、そうなるんですか?」


「だって、面白いじゃない?」


「全然、面白くありませんよ。それに、面白いかどうかで、付き合い確定とかやめて下さい」


「そうかぁ。残念。恵梨香には彼氏ができたことがないみたいだから、彼氏ができるように応援してるんだよね」


「伊達先輩の事より、上杉先輩自身の事を心配した方がいいのでは?」


「はあ?!」


 上杉先輩が怒り顔になった。

 しまった、一言多かったか。


 上杉先輩はため息をついてから言う。

「もういいよ」

 上杉先輩は美咲と一緒に美咲の部屋に戻って行った。


 今夜、部屋の扉に鍵を付けてもらうように、親に交渉しよう。

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